7月21日(金) 『朝顔』

 高校二年生の夏休み初日。私、櫻井あいらは朝からずーっと、飽きることなくラジオを聴いていた。冷房の効いた自室で、卓上ラジオから流れてくる音楽やトークを思う存分楽しむ。主体的にラジオを聴くようになって、まだ一ヶ月も経たないけれど。


 私、ラジオが好きになってるかも。


 番組へメッセージを投稿したことは一度も無くて、いわゆるサイレントリスナーではある。

 今までは登校中のために聴けていなかった日中の番組も、初めて聴いてみた。楽しいし、おもしろい。新鮮に感じるラジオパーソナリティの声に耳を傾けながら、夏休みの宿題に手をつけた。


 ***


『──ここで、今夜のテーマではないのですが紹介させてください。なんと、タソアイの番組宛にハガキが届いていまして──』


 夕食を終えた後、夜七時過ぎ。いつものように自室でラジオ、タソガレドキにはアイスティーを、を聴いている最中だった。


 今夜のテーマに沿ったメッセージがいくつか紹介され、曲が流れ、CMが流れたあと。パーソナリティで声優でもある瀬戸川セツナさんが、番組宛に届いたというハガキを紹介し始めた。


『東京都、八歳の女の子、ラジオネーム、ゆうゆうちゃん。《わたしは、うたかたビヨリのアニメが大好きです。お母さんがいつもラジオを流していて、タソアイがきこえてきて、セツナさんがキョウカちゃんの声の人だと気がつきました。うたかたビヨリもタソアイも大好きです。セツナさん、これからも声のお仕事がんばってください。》──わ〜!ゆうゆうちゃん、ハガキを送ってくれてありがとう!私セツナは、うたかたビヨリのアニメにキョウカ役で出演しているのですが、ゆうゆうちゃん観てくれているんだね。ハガキには、ゆうゆうちゃんが描いてくれた絵も添えられています。私セツナと、キョウカちゃん、ゆうゆうちゃん、そして朝顔を描いてくれました。カラフルな絵で、朝顔も色鮮やかで、とっても素敵で嬉しいです!』


 聴いているとそのハガキの絵が目に浮かぶようだった。夏らしさもあり、心のこもった絵なのだろう。

 セツナさんの声からは、言葉通りの感情があふれ出ている。小学生からのハガキ……ファンレターみたいなものか。それは嬉しいよねぇ。


「いいなぁ……」


 声優のお仕事も、ラジオパーソナリティのお仕事も、やりがいがあるんだろうな。セツナさんの弾んだ声を聴いていると、うらやましい気持ちになってしまった。

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