　私、櫻井あいらは高校二年生。まだ十六歳だけれど……世の中、そんなに甘くないということは知っていた。知っていたけれども。

「夏休みの宿題、多すぎでしょ……」

　一学期最後の登校日。帰宅してから自室で夏休みの宿題を全教科確認していた。明らかに去年よりも多い。

　高校二年でこの量ってことは、受験生の来年はどうなってるの……？

　うっすらと冷や汗を感じながら、ため息をついて、ひとまず夏休み中の宿題消化スケジュールを立てることにした。

　＊＊＊

『──と言うわけで、今夜のメッセージテーマは【ストレート派？レモン派？ミルク派？紅茶のこだわり徹底討論！】です。コーヒー好きな方、ごめんなさい！今回は紅茶を飲む時のあなたのこだわり、教えてください。メッセージは番組ホームページのメッセージフォームより──』

　セツナさんの声が、今夜も電波にのってラジオから届く。

　七月限定のラジオ番組、タソガレドキにはアイスティーを、略してタソアイ。声優である瀬戸川セツナさんがパーソナリティで、セツナさんはどうやら大の紅茶好きのよう。

　番組名にもアイスティーという単語が入っているし、セツナさん自身、紅茶にはよほどこだわりがあるんだろう。メッセージテーマを聴いて、そう思っていたけれど。

『実は私、あんまり決まった飲み方はしないんですよね〜。もちろん、紅茶を淹れる時の手順は守りますが、ストレートティーもレモンティーもミルクティーも大好きです。茶葉の種類によって美味しい飲み方も違いますしね。逆に同じ茶葉でも、気分でレモン入れたりミルク入れたり。その時々によって、です！あ、強（し）いて言えば、お砂糖は基本入れません。甘くない紅茶が好きですね〜』

　正直、意外だった。紅茶好きな人って、みんな強いこだわりがあるのかと勝手に思い込んでいた。

『みなさん、よかったら一度、紅茶の専門店に行ってみてください。色々な茶葉がありますよ。茶葉選びに迷ったら店員さんに聞いてみるのもオススメです。たくさんの方に、気軽に紅茶を楽しんでもらえたら、紅茶好きの一人として嬉しいです。では、メッセージを紹介していきます──』

「……紅茶の専門店、行ってみようかな」

　スマホのメモアプリを開く。以前作っておいたメモのデータ【いつかやってみたいことリスト】に《②紅茶の専門店に行ってみる》と打ち込んだ。