7月14日(金) 『お下がり』

『七月十四日金曜日、時刻は午後七時になりました。こんばんは、声優の瀬戸川セツナです』

「タソアイ始まった!セツナさん、こんばんは」


 返事は無いと分かっていながら、それでもラジオから届く声に挨拶をしてしまう。私、櫻井あいらのお気に入りラジオ番組、タソガレドキにはアイスティーを、の放送が今夜も始まった。


 平日のこの時間は自室にこもっているけれど、私がラジオを聴いていると母も分かっているので口煩くは言われていない。ま、来年になったら受験生だから、その時にはお小言を言われるんだろうけど。


 勉強机で頬杖をつきながら、目の前の卓上ラジオを眺める。

 祖母の形見としてもらってきたこのラジオで、自分から、主体的にラジオを聴くようになって約半月。私は、ラジオの魅力に気がつき始めていた。


 セツナさんの声は、なんだかいつにも増して楽しそう。何か良いことでもあったのかな。


『私、瀬戸川セツナには実の姉のように慕っている方がいるんです。先日その方が《お下がりで申し訳ないけれど、よかったら使ってくれる?》と言って、お洋服とアクセサリーを譲ってくれたんです。その方とは服やアクセの好みが合うので、めちゃくちゃ嬉しかったんですよー!私は一人っ子なので、お下がりをもらう機会って今までほぼ無かったんですよね〜。でもこれって、兄弟姉妹がいる方にはあるあるネタかな?と思いました。と言うわけで、今夜のメッセージテーマはこちら。【兄弟姉妹あるある〜、アーンド!一人っ子あるある〜】メッセージは番組ホームページのメッセージフォームより──』

「いいなぁ。セツナさんには、お姉さん的な人がいて。部活の先輩……は、あくまで先輩だしなー」


 部活内に、先輩後輩の間柄で親しい人はいるけれど、相手は先輩。とてもじゃないが、姉のように接する、なんてできない。

 高校を卒業したら、あるいは大学や専門学校を卒業して社会人になったら……。交友関係って変わってくるもの、なのかなぁ。


 これといった進路も決まっていない高校二年生の私には、周囲のコミュニティは狭くて。世界は、まだ分からないことだらけだ。

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