7月8日(土) 『こもれび』

 梅雨の晴れ間の土曜日、昼過ぎ。私は母と一緒に、こもれびが差し込む街路樹の下を歩いていた。

 今週末も遺品整理をするために、自宅から歩いて十数分の祖父母宅へ向かっているところだ。


「ねえ、あいら。最近、ラジオ聴いているんでしょう。楽しいの?」

「えっ。知ってたの!?」


 母にも、そして父にも、ラジオの話なんてしていなかったのに。なんで知ってるの……?


 驚く私をよそに、母は当たり前のように話す。


「だって、あいらの部屋のドア越しに、ゲームの音じゃなくてラジオの音が聴こえてきていたから。そこまで大きな音ではなかったけれど」

「マジか……」

「飽き性のあなたが毎日聴いているみたいだったから、珍しいなぁって思ってたのよ」

「あぁ、まあね。おもしろい番組もあったし」

「あら。どんな番組なの?」


 どんな、とかれて考える。継続してちゃんと聴いているのは、タソアイ──タソガレドキにはアイスティーを、だけだ。


「えーと、声優の瀬戸川セツナって人がパーソナリティやってて……。七月限定のラジオ番組らしいんだけど、聴いてて楽しいよ。毎回、三十分じゃ物足りないくらい」

「瀬戸川……」


 母は少し上を見て、ぼんやりと呟いた。


「どうしたの?あ、お母さん、セツナさんのこと知ってるの?」

「ううん。そうじゃないんだけど……。おばあちゃんの旧姓も、瀬戸川だったな、って」

「そうなの?」


 瀬戸川って、そんなに多く聞く苗字でもないのに。こんな偶然もあるんだなぁ。


 この時には、これが偶然では無いことを、私は知るよしも無かった。

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