7月6日(木) 『アバター』

 今夜もテスト勉強をしながら、私、櫻井あいらは、ラジオを聴いていた。

 タソアイが始まると、この三十分は休憩の時間だと割り切って勉強の手を止める。用意しておいたマグカップたっぷりの、甘ったるいアイスカフェオレを飲んだ。


 タソアイ、タソガレドキにはアイスティーを、のパーソナリティであるセツナさんが楽しそうに話す声が聴こえる。

 今日のメッセージテーマは【ゲームで分身を作るなら?アバター作成時にこだわりたいこと】らしい。セツナさんがスマホゲームが好き、ということから派生してこのテーマになったのだとか。


「アバター、ねぇ……。私の場合はゲームごとに全然違うしなぁ」


 いくつかやっているスマホゲーム。放置しているものも含めて、アバターを作成するタイプのゲームは、私の場合それぞれで全く違う姿である。

 まあ、いていうなら、みんな長髪女子であることぐらいか。髪の手入れが面倒で、私自身はボブっぽい髪型にしているから、長髪には憧れに近い感情があるんだよね。ゲームの中なら湿気で髪がうねったりしないし、手入れの必要もないし。


 タソアイを聴いていると、リスナーさんたちのこだわりがいくつも紹介されていく。

 リアルで身長低いのがコンプレックスだからアバターの身長は絶対に高身長にする、とか。服や髪型が男性よりも選べるから性別選ぶなら絶対に女性がいい、とか。赤が好きだから髪色も目の色も赤に設定する、とか。

 みんな、それぞれこだわりがあるんだなー。


 セツナさんはどんなこだわりがあるのかな、とぼんやり考えていたら。


『皆さん、メッセージの投稿ありがとうございます。アバターの作成って、個性が出ますよね。ちなみにですが、私、セツナの場合は特に深く考えず、テキトーにアバター作ってます!あ、でも、思い返してみれば髪の長いアバターが多かったかも?長髪女子って、カッコ可愛いと思うんです〜。私自身はお手入れ面倒で、髪、伸ばしてないんですけどね!』


 明るく言い切ったセツナさんに、スタッフさんだろうか、ちょっと離れたところから拾われたであろう笑い声が聴こえた。私もつられて「ふふっ」と小さく笑ってしまった。全くもって共感しかないわ。


 なんでかな。声質からして年齢は離れているだろうに。やっぱり、セツナさんとは気が合いそうだ。

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