7月5日(水) 『蛍』
『七月五日水曜日、時刻は午後七時になりました。こんばんは、声優の瀬戸川セツナです』
今夜もラジオ、タソアイの放送が始まった。
私、櫻井あいらは、最初からこの三十分間を休憩時間にしようと決めていた。テスト勉強のために広げていたノートや教科書を勉強机の端に寄せる。
『七月限定の番組、タソガレドキにはアイスティーを。略して、タソアイと呼んでください。月曜日から金曜日の夜七時から七時三十分まで、黄昏時の三十分間、どうぞよろしくお願いします。飲み物片手に、気軽に、気楽に、聴いてくださいね。メッセージもお待ちしています。今夜のメッセージテーマは【夏の風物詩といえばコレ】です。あなたにとっての夏の風物詩はなんですか?すごーく個人的なものでも大丈夫です。ぜひ、メッセージをお寄せくださいね。番組ホームページのメッセージフォームより──』
「夏の風物詩、ねー。やっぱり花火とかお祭りとかかな?」
メッセージを投稿する気は無いけれど、夏らしいノリの良い曲が流れている間、それとなく夏の風物詩を考えてみる。でも、ベタなものしか思い浮かばなかった。
『では、番組に届いているメッセージを紹介していきます。東京都、男性、三十三歳、ラジオネーム、七月生まれさん。あら、七月がお誕生月なんですね!おめでとうございます。《夏の風物詩といえば、ちょっとマイナーかもですが、自分にとっては蛍です。子供の頃、父に連れて行ってもらって東京郊外で蛍を見たことがあります。蛍を見るために虫除けスプレーを使えなかったので、蚊に刺されまくって大変でした。でも、とても幻想的な風景でした。今でもよく覚えています。》──蛍、東京郊外でも見ることができるんですか!知らなかったです。私は蛍を実際に見たことはないのですが、一度くらいはリアルで見てみたいなぁ〜。きっと、七月生まれさんにとって、蚊に刺されてしまったことも含めて夏の思い出になっているんでしょうね。メッセージありがとうございました。続いて──』
「……ホタル?」
ホタルって、あの虫の蛍……だよね。なるほど。確かに蛍も夏の風物詩か。
興味が湧いてスマホで蛍について調べてみると、五月下旬から七月中旬頃まで見ることができるらしい。写真もネットで見れたけれど、いまいちピンとこない。
蚊に刺されるのは嫌だけど、これは一回くらい、リアルで見てみたいかも。
スマホのメモアプリを開く。新しく【いつかやってみたいことリスト】とタイトルをつけて《①蛍をリアルで見に行く》と打ち込んだ。
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