7月2日(日) 『透明』

 明日から始まる期末テストの勉強……は、ほんの少し休憩にして。


「ん〜?どうやればいいのかな?」


 日曜日の昼過ぎ、私、櫻井あいらは卓上ラジオを前にして困り果てていた。


 昨日、祖母の形見としてもらってきたラジオ。

 ホコリを払い、軽く拭いて、さて、聴いてみよう。と思ったけれど。肝心の操作方法が分からない、という状態である。

 親は二人揃って外出中、家にいるのはひとりっ子の私だけ。


 いや、まあ、スマホで型番とか調べればいいのでは?電子説明書とかあるだろうし?とも思ったけれど。

 何かに負けているような気がして、結局調べてはいない。

 周波数?を合わせればいいんだよね?現役女子高生の知識をなめるなよ……!


 あれやこれやとラジオをいじって、「うーん……」と唸っていると、ふっと目の前の空気が揺らいだ。

 蜃気楼……?冷房が効いてる、こんな部屋の中で……?


 目をまたたいてキョトンとしていたら、透明な人の手が、見えた。見えたというより、そこにあるのが分かる、といった方が近いか。

 心霊現象にしては恐怖を感じない。透明な手は、私が今さっきまで格闘していたラジオへ。よどみない動きで、ラジオのアンテナを伸ばしダイヤルを動かし、


『──こんにちは。時刻は午後二時になりました。ニュースをお伝えします』


 ラジオから、落ち着いた男性アナウンサーの声が流れた。ぽかーんと私が呆けている間に、透明な手は消えていた。

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