タソガレ・ラジオ

うたた寝シキカ

7月1日(土) 『傘』

 傘寿さんじゅ、つまり八十歳で、祖父のいる空へと旅立った私の祖母。

 高校が休みで所属している美術部の活動も無い土曜日。母と一緒に、今は住人のいなくなった古い家で遺品整理をしていた時、それは出てきた。


「これって……。ラジオ?」


 薄くホコリをかぶっていたそれは、どこか見覚えのある物だった。母が「あら、懐かしい」と口元を綻ばせる。


「これ、おばあちゃんが使っていた卓上ラジオよ、あいら。あなたも小さい頃、ここへ遊びに来ると一緒に聴いていたじゃない。覚えてない?」

「そう、だったっけ……?」


 優しい祖母のことが好きで、祖父母宅が近所だったこともあり、幼い頃は頻繁に遊びに来ていた……のは覚えているのだが。あの頃、ラジオなんて聴いていただろうか。


 遺品となってしまったラジオをまじまじと見つめる。……なんだろう。懐かしさとは違うような、何かに呼ばれている感覚がある。


「お母さん。このラジオ、私がもらってもいい?」

「もちろん。おじさんもおばさんも、残っている物は好きにして良いよって言ってるから」


 ラジオを聴く習慣なんて無い私だけれど、このラジオは手元に置いておきたい。なぜか、強くそう思った。


 これがきっかけで、私、櫻井あいらは、あの不思議なラジオ番組と出会うことになる。

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