第2話 彼氏にメイク

「よしっ、準備完了だっ!」

//SE メイク道具を並べる音

//後方から喋りかける


「それでは施術を始めさせていただきますっ」

//SE 後方から肩を叩く音


「自分のメイクは毎日やってるけど、誰かにメイクするのは君が初めてなんだよなー」


「でもちゃんと構想は考えてきたし、きっと上手く行くはずっ」


「え、なんで今日お願いしてきてもう構想ができてるのかって?」


「い、言っただろっ。ずーっと前から君 おまえの顔にメイクしたいと思ってたって。そりゃ構想くらい考えてるだろ」


「朝起きてから夜寝るまでずーっと、いや、なんなら寝てる間もずーっと考えてたんだからな」


「それで構想考えてない方がおかしいだろ」


「それにしても本当にメイクしやすそうな顔してるな」

//聞き手の目の前に座りじーっと顔を見る


「薄めの眉毛も羨ましいし、顔に凹凸が少ないのも羨ましいし、適度に鼻が高いのも羨ましいし……」


「これ以上注文の付けようがねぇな」


「もしかしておまえ、メイクするために……いや、されるために産まれてきたんじゃないのか?」


「ははっ。まあそんなわけないけどな」


「よしっ、上手くできるか分かんないけどせっかくの機会だし精一杯頑張るな!」


「まずは下地からっと……」

//SE 下地の容器を開ける音


「下地はメイクを崩れにくくしてくれたり、下地自体にUVカット効果があったりする物もあるんだ」

//SE 下地を手に出す音


「国宝級に綺麗なお肌を紫外線なんかに痛め付けられたくねぇし、日光の下に出る時はUVカット効果のある下地をつけた方がいいんじゃねぇか?」


「え? メイクして外出なんてしない?」


「分かってるって。冗談に決まってるだろ?」


「まあ私としては? メイクしてるおまえと? 一緒に2人で出かけたい? なんて思ったりしてるわけだけど」


「……」

//聞き手の反応を伺うように


「……ってそりゃ嫌に決まってるよな。またいつか、気が変わった時に言ってくれ」


「それじゃ失礼っ」

//SE 聞き手の顔に下地のついた指が触れる音


「ちょっ⁉︎ 急に動くなよびっくりしたぁ」


「え? 直接肌に触れられると思ってなかった?」


「メイクは道具も使うけどこうやって素手で素肌を触ることも多いから、毎回びっくりされてたら上手くできだろ。我慢してくれよな」


「それじゃあもう一回始めるぞ」


「……」

//緊張しながら肌を触る


「うわぁ……。お肌スベスベ。男の子なのにどうやればこんなスベスベなお肌になるんだ? 女の子でもここまで綺麗な人は見たことないぞ」


「男の人だと普通ニキビの跡とかがあったりするものなんだけど、それも全く見当たらないし」

//顔を近づける


「ほんっと信じられないくらい綺麗……。俺の肌と交換したいくらいだ」


「もはや芸術作品と言っても過言じゃないかもだな」


「街中を歩くときは割れ物注意って札を貼って出歩くべきだぞ本当に」


「ま、まさか本当は女の子だったり⁉︎」


「ってそんなわけないよな。ごめんごめん」


「よしっ、次はファンデーションだ」

//パフを取り出し聞き手に見せる


「おまえの肌は色ムラもねぇしニキビ跡とかもねぇから、綺麗過ぎてファンデーションいらねぇんじゃねぇかとは思うんだけど……。多少肌色を明るくしてぇから一応やっとくか」


「じゃあまた失礼して」

//SE パフを顔にポンポンする音


「見れば見るほど魅力的な顔してるなぁ」


「……」

//顔に見惚れてぼーっとする


「あっ⁉︎ ごめん! 俺ってばおまえの顔に見惚れちゃって唇の上にファンデを……」


「こ、これじゃあ喋れないよな⁉︎ ちょっと待ってくれ! 今拭き取るから!」

//SE 手で聞き手の唇をなぞる音


「ん? 何してるって唇についたファンデを取っただけだぞ?」


「何かまずかったか?」


「何もないならいちいち焦るんじゃねぇよ」


「ほら、ファンデ続けるぞ」


「……」

//黙々と作業をする


「どれだけ見ても非の打ち所がない顔してるんだよなぁ」


「も、もちろん顔だけじゃないぞ⁉︎ 顔以外も全部魅力的だからな⁉︎」


「俺より全然高い身長も、こうして無理やりメイクしても怒らないところも、真面目すぎてたまに損しちゃう性格も、全部大好きだっ!」


「お、俺は何をペラペラと--」


「次はアイブロウな!」


「んー眉毛も正直ほとんど非の打ち所がねぇんだけど、若干下がり眉になってるから少し眉毛が上がるような感じでアイブロウしていくか」

//SE アイブロウを塗る音


「まさか彼氏にメイクすることになるとは、昔の俺に言っても信じねぇだろうなぁ」


「俺、実は昔からメイクに興味があって小学校の高学年くらいにはママのコスメ使ってメイクしてたんだ」


「昔から男っぽい自分には似合わねぇなーなんて思いながらメイクしてたもんだよ」


「しかもメイクすればするほど自分の顔のコンプレックスに気付いちゃってさ、メイクしたくねぇなぁって思う日もあったりしたんだ」


「でもやっぱりメイクすることが大好きだがら、メイク自体をやめるってことはなくて」


「それでもずっとメイクしてるとどうしても飽きみたいなのはあって、女の子じゃなくて男の子にメイクしてみたいって思ったんだよ」


「それ以来、いつか自分に彼氏ができたらメイクしてみてぇなぁって思ってたんだ」


「だから、おまえの顔見た時はびっくりしたんだぞ?」


「こんなにメイクしやすそうな男の子がいるのかぁぁぁぁって」


「面食いってわけじゃないけど、一目惚れだったな、あれは」


「もちろん、それから君の内面もちゃんと見るようになって、全部が素敵な人だなって思ったから付き合ってるんだぞ?」

//耳元で囁くように


「ははっ。ごめんな。柄にもなく昔の話なんかしちゃって」


「よーし、どんどんメイク進めてくぞ!」

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