社への参拝を二日前に控え雷軍内は最後の準備に追われていた。

 リリーが編成や留守中のことの最終確認を自分の執務室でしていると、『玉』と『杖』の統率官がやってきた。

「何か揉め事ですか……」

 ふたり揃ってやってくるということは、バルドかクラウスに関しての面倒事だ。

 身分もない小娘なので上官とはいえ立場は弱い。皇子と宰相家次男への不満のはけ口にされ、ふたりの世話を押しつけられるのが常だ。

「フォーベック統率官について、よくない噂がたっている」

 『杖』の統率官である壮年の男が声を潜めて言う。

「クラウスならよくない噂しかないじゃないですか」

 不真面目で女にだらしがないクラウスの悪い噂はいつものことだというのに、なぜ今日はこんなにも重々しいのか。

「いつもの、ならばかまわないのでしょうが、今回は逆臣の噂です。参拝にも同行しますし、念のために将軍にお伝えしていた方がよいかと」

 『玉』の統率官の女性が言うのにリリーは曖昧にうなずいて、ふたりが部屋を出てから気鬱なため息をつく。

「クラウスが、ねえ。遅かれ早かれ出て行くって言ってたし、ただの噂って訳でもないだろうけど」

 クラウスは皇家に忠誠心がない上に、家族とも昔から不仲らしくハイゼンベルクに留まる理由もないと本人が言っていた。

 身内が出て行くのは珍しくないことだ。

 これが宰相家の次男で、名目だけは次期皇主のお目付役だから大事なのだろうが。

 リリーは自分の職務があらかた片付いているのを確認して隣の寝室に向かう。そして机の中からクラウスに借りていた『教本』を引っ張り出す。

 ちょうどいい機会だと教本を持ってクラウスの執務室へ向かった。

「……ねえ、今ちょっといい?」

 執務室でクラウスは散らかった書類の整理をしている所だった。

「ん、いいけど、なんかあったか?」

 リリーは扉を閉めてクラウスに教本を差し出す。

「これ、返しとこうと思って。あんたに貸し作ったまんまって嫌だし」

 なんとなく面と向かって離叛するのかとは聞きづらく、リリーはどう切り出そうか困る。

「もう必要ないか? よく分からないことがあるなら俺が丁寧に説明しても……」

「いらない。本当にいらいなからね。余計なことはいわなくていいのよ、この駄眼鏡」

 顔を赤らめつつリリーは二度繰り返して断固拒否した。クラウスはいつも通りに笑って、リリーを長椅子へ促す。

「俺が離叛する気だって噂、聞いたか?」

 そして隣に座った彼の方からそう言って、リリーはいつの間にか入っていた肩の力を抜く。

「なんだ、知ってたんだ」

「噂を聞くほど他人と交流がないリリーの耳に入るぐらいだから、あれこれ付き合いの多い俺が知らないはずないだろ」

 言われてみれば、確かに噂話を聞く相手もいない自分が聞かされるくらいだ。とっくにあっちこちで広まっているに違いない。

「それでどうするの?」

「まだ決めてないな。俺がディックハウト信奉者と親しいだとか、処刑された連中と一緒にいたところを見たって程度の噂だからな。状況が悪くなったら、いつでもだな」

「じゃあ、まだこっちにいるのね」

 どことなくほっとしながら、リリーはクラウスの顔を見上げた。

「なんだ、リリー。俺がいないと寂しいか?」

 にやつきながら訊ねられてどうなのだろうとリリーは考える。

「いや、あんたがいなかったら面倒が減って楽だけど……分かんないわ。あたし、あんまり寂しいって思ったことないから」

 なんのかんのといってクラウスとの付き合いは七年になる。

 入隊する二年前までは、バルドの目付役と言っても主君をほったらかしてどこかに行っていることが多く、それほど話すことはなかった。

 結局五つ年上の彼の上官という立場になってしまってからは、小言を行ったり、職務の話をしたりすることが日常になっていた。

「リリーにとって俺って何?」

 孤児でありながら、魔力の高さから高位貴族の血統と勘ぐられる半端な立場の自分は、生来の気質もあって常に遠巻きにされるか、喧嘩を売られるかのどっちかだった。

 クラウスは互いに理解出来ない部分には入り込まず、ほどよく距離を置いて接してくるので話しやすい相手ではある。

「…………比較的会話がまともに成り立つ顔見知り?」

 考えた末にでた結論にクラウスが苦笑して見せた。

「それ、友達ってわけじゃないのか」

 あまりにもあっさりとした解答にリリーは衝撃を受けて固まってしまった。

「友達ってそういうのも言うんだ……」

 今まで友人はバルドだけだった。そもそもお互い友人というのがよく分からなかったで、野良猫同士のようなじゃれあいが友人同士の遊びだと思い込んで、七年もそのままだったのだ。

(カルラ、どうしてるかな……)

 ふっと、自分と友人になろうとしていた同い年の少女を思い出す。バルドの婚約者候補として王宮に潜りこもうとした、ディックハウト信奉者の伯爵令嬢。

 少し境遇が似ていて初めて同性の友人になれたかもしれなかった彼女は牢獄の中だ。

 生きているとしか現状は聞いていない。死ぬ気がないなら、いつかハイゼンベルクが敗北したときにディックハウト側に救われるかもしれない。

 その時が来たら自分もおそらく生きてはいないから、もう二度と会うこともないだろう。

「まだ、これいるか?」

 思考を他所へ飛ばしているとクラウスがリリーに教本を押しつける。

「い、いらないわよ。分かった。あんたとは友達だったってことね」

「そうきっぱり決めつけられるのも、寂しいなあ。こう、何か発展する先の可能性とか」

「先って、あんた出ていくんでしょ」

 距離を詰めてくるクラウスからリリーは逃げる。

「リリーはずっとここか」

「うん。あたしはバルドと一緒にいるわ」

 躊躇いもなくリリーが素直に答える。

 本当に何も迷いはなかった。誰に何を言われても、どんな邪魔が入っても自分はバルドがいるところで生きて死ぬと決めたのだ。

「……リリーのこともっと全うに好きになって幸せにしてくれる奴は、まだこの先いるんじゃないか。少なくともバルドよりましな男ならいくらでもいるぞ」

 長椅子の背にもたれかかってクラウスが子供に言い聞かせるように言う。

「バルドがあたしのこと好きになってくれるから好きなわけじゃないもの。欲しいものしかいらないの。今で十分、幸せ」

 バルドの側にいて、戦で剣を振るって、それで自分は十分満たされている。

 他に必要なものがあるはずがない。

「もっといろんな幸せがあると思うけどな」

「あたしは今ある分しかいらないの」

 頑なにリリーはクラウスの言葉を拒んで、拗ねた顔を見せる。

 なんとなく図星を指された気がして苛立ちを覚えてしまうのは、本当は自分が満たされていないからか。

「強情だなあ。それで、俺は参拝に同行するのはなし?」

「ん、それはいいんじゃない? あんた宰相家の代表だし、他から止められてないでしょ。今、バルドが皇太子殿下の所に行ってるから、何か命令されるかもしれないけど」

「まあ、今から急に俺に処分下したり、宰相家の人間が同行しないってなると、士気を上げようっていうのが無駄になるからな。これが一緒にやる最後の任務にはなるかもな」

 クラウスは珍しくまともな表情で、ほんの少し寂しげにも見えた。

「それなら、面倒かけさせないでよ」

「精一杯努力する」

 いつも通りのやりとりにしんみりとしてしまうのは、やはり寂しいのかもしれない。

 変わらない毎日はないが、いろいろなものが失われていく速度はどんどん増していっている。

(あたしが失うものなんて、バルド以外なんにもないと思ってたんだけどな)

 リリーは後ろ髪を引かれるものを感じながらも、クラウスの部屋を静かに後にした。


***


 夕暮れ時になるとやっと王宮から帰ってきたバルドに呼ばれ、リリーは彼の執務室を訪れた。

 部屋に入ればいつも通りの無愛想な顔で彼は長椅子に鎮座していた。どう見ても不機嫌そうだが、実のところこれで機嫌がいいのだとよく知っているリリーは微笑む。

「皇太子殿下、具合、よくなったみたいね」

「無花果を喜んで下さった。ねぎらいもいただいた。参拝は必ず成功させるべし」

 いつもよりほんの少し口調の早いバルドに、リリーははいはいとうなずいて彼の隣に腰を下ろす。

 ラインハルトが体調を崩して寝込み始めると、常にぴりぴりとした雰囲気と凶悪な顔つきで部下を怖がらせていたものだ。見舞いに行っても、眠っている時ばかりでまともに会話もできず帰って来るとずいぶん気落ちしてしていた。

 数日ぶりに長く話せて本当にバルドは嬉しげだ。

「リーは無花果より山桃が好き」

 バルドがローブの袖から小さな麻袋を出して、中に詰まっている赤い山桃の実をリリーに見せる。

「ありがとう。あたしに用ってこれだけ?」

 甘酸っぱい果実を囓りながら、リリーは小首を傾げる。

「参拝の最終調整。それと、クラウスのこと」

「もしかして、クラウスが逆臣だって噂? あたしもさっき統率官ふたりに聞いて、本人の所に話を聞きにいったわ。噂のことは知ってるって」

「……無謀。無策」

 バルドが眉間に皺を寄せていつもより、さらに獰猛な顔つきになる。

「帯剣してたし、だいたいクラウスよ。危険って程でもないし、宰相家の人間でも逃げられるときに逃げた方がいいんじゃない? 剣を向けてきたら遠慮なく戦うし、そうじゃなきゃあたしは放っておく」

 補佐官としてはまったくもって無責任だろうが、正直そこまでの責任を負うつもりはなかった。

 逃げたい人間はそうすればいい。いずれ戦場で戦うことになる方が自分はいい。

「俺は上官」

「そういえばそうだったわね。じゃあ、今は立場関係なしの会話ってことにしとくわ」

 指先についた山桃の果実を舐めてバルドを見返す。

「……卑怯」

「いいじゃない。そういえば、あたしクラウスと友達だったんだって。なんか変な感じ」

 クラウスには迷惑を被ったことも多いが、それでも多少は世話にもなっていた。いなくなるのかと思うと、寒々しい空虚感がかすかにあった。

「やっぱり、寂しいのかな、あたし。バルドはどう? あたしよりずっとクラウスと一緒にいることが多かったでしょ」

 それこそバルドは物心ついた頃からクラウスと一緒にいる。歳もクラウスがひとつ上で、ほとんど変わらない。

 バルドを放置してひとりでどこかへ行っていることが多かったとはいえ、付き合いは二十年近いのだ。バルドにも思うところはあるだろう。

「…………クラウスは、他の人間よりは近い。俺を怖がらない」

 長いこと考え込んでバルドはやっとそれだけ返答した。

「そうね。あたし達にとっては、他の人間よりは付き合いやすい人間よね。友達ってこういうのも言うのかしら」

「友人……?」

 何かしっくりいかないのかバルドが首を捻るのを見て、リリーはくすくすとと笑う。

「難しいわよね。それでクラウスは参拝に一緒に行くの?」

「あくまで噂。今は混乱を避けるべきと、兄上が仰せになった」

 だいたいはクラウスが言っていた通りのことらしかった。

「そっか。出発、明後日ね。あたしあっちの方には行ったことないわ。そこそこ派手な戦にはなるかしら」

「なればよい」

 『剣』の社はすぐさま激戦区に変わる場所でもある。神器奪還に躍起になってくれれば、こちらとしては楽しめていい。

 剣を交える瞬間の高揚感と、勝利した瞬間の心地よさを思い返すリリーの双眸に狂暴なものがちらつく。

 何気なく視線を交わした先のバルドの紫の瞳にも同じものがあった。

 戦狂いと蔑まれても、これが自分達だった。

「あ、なくなっちゃった。ねえ、バルド、夕食もう食べる?」

 気がつけば麻袋の中が空で、リリーがもう少し何か食べたくなって問うと、バルドは無言でうなずいた。

「明日は、兄上と夕餉」

 バルドがとても大事なことを言い忘れていた自分に不機嫌そうにしながら言う。そこまで嬉しそうでないのは、おそらく他にも大勢が集まるからだろう。

「ああ。晩餐会か何か? そんなに元気なんだ。明日はひとりで食事すませるわ」

「リーは同席不可……」

 予想通りそれなりの顔ぶれでする晩餐会らしく、最後にバルドが気落ちした声でつけ加える。

「皇太子殿下がいるならあたしはいらないでしょ。じゃあ、夕食持ってくるから。肉があったらなんでもいいわね」

 バルドの側を離れながらリリーはふっと表情を沈ませる。

 ラインハルトの命でバルドと夕餉を一緒にとれないことは、よくあるのに面白くない自分がいた。

 王宮行事で自分が参加できないことも多ければ、参加したくもないが。

「不満、ね……」

 リリーはクラウスと話していたときのことを思い出して、ぽつりとつぶやく。

 ラインハルトが自分を殺してまでバルドから引き離そうとしたからか、バルドと一緒にいる時間を奪われるのが以前よりしゃくに感じる。

 今で十分幸せと言い切れないのはそのせいかもしれない。

(なんだかつまんないこと考えてるわ、あたし)

 気分がくさくさしてきてリリーは歩幅を広げる。

 さっさとバルドの元へ帰って一緒に食事をした方が、こんなくだらないことを考えるよりましだと思いながら。

 

***


 同じ頃、クラウスはフォーベック家の屋敷に戻っていた。

 丘の頂上にそびえる王宮を間近にした、海側のに立つ屋敷でも最上区に位置している。真下に螺旋状に広がる白壁の街並みの中にこの家より立派なものはない。

 中流貴族の屋敷五つ分が敷地におさまり広い庭園まであるのだ。第二の王宮とも呼ばれる宰相家の屋敷は贅沢極まりない。

 クラウスは帰る度にこの家の巨大さが嫌になる。まるで傲慢で尊大な父や兄そのものだ。

 一歩屋敷に踏み込めば即座に使用人達が寄ってきて、必要なものや食事の支度を問うてくる。

「クラウス」

 使用人達に淡々と言葉を返していると、階上から柔らかな声がかかる。見上げれば、生きて動いているのが不思議なほどに美しい女がひとりいた。

 金糸の巻き髪に、白磁の肌と碧玉を填め込んだ瞳。ふんだんにレースとフリルをあしらったドレスがよく似合う、どこをとっても作り物めいた彼女は兄の妻のひとりだった。

 つまるところ次期宰相の第一夫人である。

「アンネリーゼ義姉上、ただいま戻りました」

 クラウスがあいさつをすると、アンネリーゼが手招いてくる。

 義姉、と呼んでいるものの彼女は自分より三つ年下の十九である。七年前に十三も年上の夫となる兄に、わずか十二で嫁いできていた。

 彼女の実家は南の防衛の要となるベーケ伯爵家。元よりハイゼンベルク派で、自ら忠誠証として掌中の珠である娘を人質として差し出してきた。

「……義姉上、ちょうどよかった。これ、返しておきますね」

 クラウスはリリーから返してもらった教本をアンネリーゼに渡す。これは義姉の嫁入り道具のひとつだった。

「いつでもよかったのに。わたくしには必要のないものですから」

 凝った装飾が施された教本の表紙を、アンネリーゼが自嘲して撫でる。貴族の子女が嫁入り前に渡され、乳母や母から子を成すためのことを教わるもので、二代、三代と受け継がれることも多い。

「まだ兄上も、義姉上に飽きたわけじゃないでしょう」

「もう、三の方に男児もいますし、二の方もご懐妊されているのですよ。わたくしなど、もはや人質以外の価値はありませんわ」

 うつむいて歪む顔すら美しい義姉は歳を経るごとに卑屈になっていく。

(人形姫とはよく言ったもんだよな)

 嫁いできた時は本当に人形のようで、生家でもなにひとつ不自由なく愛され育てられたのがありありと分かる少女だった。

 『人形姫』という美しい彼女へ賞賛は、今は皮肉になってしまっている。

 晩餐や夜会に連れていかれる第一夫人という立場の彼女は、未だ子もなく見栄えのいいただのお飾りに見られていた。

「アンネリーゼ義姉上はもっと自信を持たれた方がいい。どの義姉上達よりも綺麗ですよ」

「……あなたはいつも優しいわ。婚礼の日からずっと」

 碧玉に人らしい熱が宿る。抱き寄せて欲しいと懇願する視線に、クラウスは内心でため息をつく。

 婚礼の日、十三も年上の夫に怯えて緊張していた彼女に社交辞令程度に声をかけただけだった。しかし歳が近いこともあってかそのまま懐かれてしまった。

 出会った時は彼女は美しいといえど子供で、歳を重ねても兄の妻ということもあって手をつける気になれなかった。

 それにこちらはただの火遊びでも、彼女の方はたった一度の気まぐれでも本気に取りそうで面倒だった。

 それでも利用させてもらっているが。

「義姉上の方はいつもの御用ですか」

 クラウスはアンネリーゼの願望を無視して部屋の隅の書棚に目を向けた。彼女は落胆の表情を浮かべながらも、棚から一冊抜き取って中から書類を取り出してくる。

 いつもはすぐに渡してくれるはずなのに、アンネリーゼは胸に抱いたままじっとしていた。

「ヘルムート様が、お怒りになっていらしたの。あなたに逆臣の疑いがかかっていると仰っていたけれど、これは皇太子殿下にお渡しするものでよろしいのね」

「そうです。皇太子殿下のご命令ですよ」

 クラウスは夫の怒りを恐れるアンネリーゼに嘘偽りない言葉を告げる。

 アンネリーゼには父の職務を補助する兄の書斎の書類を書き写してもらったり、誰と会談に行っていたかなどを報告してもらったりしていた。

 ラインハルトが宰相の動きを監視するためだ。そしてラインハルトに選別された一部は、ディックハウト方にも流れている。

 宰相家の力をじわじわと削ぎ、皇家が実権を取り戻すためだ。

(家に背いてることには違いないな……)

 クラウスは近くの机のもたれかかりながら、書類に目を通す。今回はそれほどめぼしいものはなさそうだ。

「あまり、無理はなさらないで。ヘルムート様はこの頃、ご機嫌がよろしくないから……あなたに何かあったらと思うと恐ろしいわ」

「まだ父上と揉めてるんですか。相変わらずだなあ」

 父と兄は不仲だ。出来のいい兄を父は、子供の頃から可愛がってはいたものの自分の思う通りにならなければ気が済まない質だった。

 けして父は兄のやり方を認めない。

 自分が全て正しい。それが父だ。

 ディックハウト信奉者の増加の原因を作ったというのにおかしな話である。掃討作戦の時も父はラインハルトに出し抜かれていた。

 宰相という立場にありながら、作戦の要であるバルドが神器を持ち出すことを全く知らされていなかったのだ。今は兄が懲りずにバルドを即位させて皇太子の権限を削ごうと躍起になり、父は時期尚早だと反対して揉めている。

「ええ。でもクラウス、本当に気をつけて。あなたのその目だって、ヘルムート様のせいなのでしょう」

 アンネリーゼがクラウスの眼鏡の奥を覗き込む。

「子供の時で、ただの事故ですよ。そこまで不便でもないです」

 子供の頃は兄が八つ当たりする相手は自分だった。八つの時に魔術の訓練などと言って、ローブなしで兄の剣の相手をさせられた。

 その時、ほんの少し兄の手元が狂って目の前で閃光が破裂して数日何も見えなくなった。兄の方はローブを着ていて、袖でとっさに顔を庇ったので無事だった。

 どうにか失明は免れたが、眼鏡が必須となってしまった。

 年々視力は衰えている。失明はないと医者は言っていたが、どうなるかは分からない。

「クラウス、参拝からは無事に帰ってきて。わたくし、あなたがいなくなったらと思うと、夜も眠れないの」

 柔らかな朱唇でアンネリーゼはが切なげにつぶやく。

「バルドとリリーがいるから戦闘になっても負けませんよ。それに、俺は逃げるのは得意なんで」

 義姉が期待する言葉を放つことも行動もあえてせず、クラウスは冷たく返す。

「お願い、わたくしを置いていかないで」

 アンネリーゼが体の前で組んでいる手を硬く握りしめて言う。

 自分からはっきりとは何も言わず、行動や態度で相手に察してもらうばかりの彼女にとしては精一杯だったかもしれない。

 それでも連れ出してとは言わないアンネリーゼのことは、どうにも好きになれなかった。

「……あなたは兄上の妻でしょう」

 釘を刺すと義姉は失望と安堵がない交ぜになった顔で、礼儀の所作だけはきちんとして足早に出て行った。

「欲しいものしかいらない、か」

 クラウスはリリーが言っていた言葉を思い出してつぶやく。

 結局自分はなにひとつ欲しいものが見つけられない。今まで交際してきた相手ともそうだ。

 自分が欲しいかもよく分からない内に手をつけて、別に欲しくはないとあとで気付いてその繰り返し。

 クラウスはさして報告することもない書類を握りつぶして、ローブの中に乱雑に仕舞い込んだ。


***


 兵舎へ持ち込む着替えや本などを見繕い、クラウスが兵舎へと戻ろうとしていると兄にのヘルムートに見つかってしまった。

「お前は屋敷にいつかないな」

 自分と同じ銀の髪と青い瞳の十歳年上の兄が不機嫌そうな顔で言う。

 ヘルムートは偏屈な父親に似て目つきが険しく氷のような冷たい印象の美丈夫だ。対するクラウスは従順で大人しい母親に似て柔らかい風貌である。

 色彩こそは四年前に没した母親と全く同じふたりだからこそ、なおのこと対照的な兄弟だった。

「兵舎の方が気楽なので。それで、小言ですか?」

 どうせ噂について問い詰めに来たのだろうとクラウスはうんざりする。

「よからん噂が立っているなら即刻、父上に弁明しに行くのが筋だ。お前は昔から家を蔑ろにしすぎる。ろくな働きもせず家名を立てられない無能ならば無能らしくしていろ」

 きつく咎めてくるヘルムートの説教にクラウスは辟易する。

「父上からお呼び出しもないので、かまわないかと」

「呼び出すほどの関心も持っておらん。出来の悪いお前が何をしでかしても、当然だと仰っている」

 昔から父はそうだった。出来のいい兄を後継者として育てるのに腐心して、自分に関しては宰相家からも兵を出さねばならないので、ちょうどいいぐらいにしか思っていない。

 戦場に出る次男以下は所詮使い捨てという考え方が、ディックハウト信奉者を増大させる要因となったのだ。未だにその考えは変わらない。

「兄上は気にかけて下さってるんですね。感謝いたします」

 嫌みったらしく返すと、ヘルムートは不快そうに顔を顰めた。

「無能でもフォーベック家の直系だ。私は家の汚点はひとつたりとも許せん」

「だったら父上にかけあってさっさと勘当でもしてもらえると、俺としてはありがたいです」

 そうしたくともまだヘルムートにその権限がないことを知っていながら、クラウスは挑発する。

「私が当主になればすぐさまそうする。父上はバルド皇子に近しいからお前を置いているが、そう役には立たない。いずれ、縁戚に孤児の補佐官を養女に取らせて嫁がせればそれですむ」

「みんなしてリリーのこと取り合ってるんですね。権力やら財やらちらつかせたら、リリーには逃げられますよ」

 こういう貴族同士の思惑や駆け引きはリリーがもっとも苦手とするところだ。

「お前まさか、あの野良猫にまで手をつけていないだろうな」

「つけてませんよ。相手にもされてません」

「ならばよいがな。その堕落した女遊びもいい加減にしておけ。お前に新しい女が出来る度にアンネリーゼが相手のことを聞いてきて鬱陶しくてかなわん」

 そんなことをアンネリーゼがしていたとは知らず、クラウスは呆れる。聞いてどうなるわけでもないだろうに。

「アンネリーゼ義姉上も、兄上に構って欲しくて仕方ないんですよ。他の義姉上方に子供がいるのに、ひとりだけとなると寂しいんでしょう」

「閨の中ですら可愛げひとつも見せない女がそんなことを考えるわけがない」

 煩わしげに言うヘルムートの女の好みは分かりやすい。従順で常に愛想を絶やさない相手でないと満足しない。

 いつでも萎縮して暗い顔でいるアンネリーゼは、人質としてのお飾り程度なのだろう。

(嫁いで来てすぐに手をつけたのもまずかったよなあ)

 まだ十二で見知らぬ土地へ来て震える子供を、儀礼通り婚礼の夜には寝台へ引き込んだのだ。

 夫への恐怖心しか育たなかったのは無理もない。

「それで俺に言いたいことはそれだけですか?」

 そろそろ兵舎に帰りたいクラウスが逃げに入ると、ヘルムートが冷淡な表情のまま弟を見下ろす。

「……噂はあくまで噂か」

「そうです。ただの噂。父上に弁明する必要もありません」

「ならば以後、自分の言動に注意して行動しろ」

 白を切り通すとヘルムートにしてはあっさり引き下がってくれた。

「鬱陶しいなあ……」

 兵舎へ戻る道すがらクラウスはぼやく。

 完全に自分への興味がない父と違い、兄は何かと文句をつけてくることが多いものの父と上手く行かない憂さ晴らしと保身のためだ。

 十も歳が離れているせいもあって、一方的に抑え込まれるばかりだったのが嫌になって十二、三の頃からは屋敷に戻らず知り合いの部屋や娼館で過ごすようになった。

 クラウスはここ数年の寝床である兵舎の私室に戻ると、持ってきた荷物を寝台の上に投げて自分の体も寝台に置く。

「リリーはどうせバルドと一緒だよな……」

 家から離れても引きずっている鬱々した気分を取り去りたくて思い浮かんだのが、リリーだった。

 兄以外に自分を叱るのは彼女ぐらいだ。兄と違って見下すのではなく、面と向かってリリーは文句をつけてくる。

 真面目にやれと言うのは無駄だと言いつつ、飽きずに何度も体たらくな態度を窘めるのだ。リリーの反応がいつも新鮮で、わざと怒らせてしまうこともあった。

「出てったらそういうのもなしか。まあ、惜しむほどのものでもないよな」

 リリーはハイゼンベルクでバルドと心中することを決めている。そこまで付き合ってはいられない。

「バルドは全部手に入れたまま終わるのか……本気で好きならそうするのが正しいのかな。あいつの場合、リリーの決断に甘えてるだけに見えるけど」

 本気で誰かを愛したこともないので何が正しいのか分からない。

 しかし何ひとつまともにひとりで決断できないバルドは、リリーが一緒にいてくれるのだからそれでいいぐらいにしか考えていなさそうだ。

「逃げてばっかの癖に、欲しい物は手に入るだなんて腹立つなあ」

 クラウスは鬱々とした気持ちが煮詰まってきて目を閉じる。

 無自覚に辛いことから逃げているバルドと、意識して逃げる自分の何が違うというのだろう。

「こういうときは寝るに限るな……」

 クラウスは鬱屈した思考から逃れるために、退屈な歴史書を開いて眠気を誘うことにしたのだった。


***


 出発前夜に行われた晩餐会は、いつもながら面倒極まりないものだった。

 正装して席につくバルドはちまちまと出される食事を、礼儀作法に則って口に運んでいく。

 たいして腹にも溜まらず手間がかかる食事も、杏の砂糖煮がかかったふんわりとした口当たりの焼き菓子でやっと終わりを向かえた。

(リーが好きそう)

 甘さの中にほんのり混じる酸味はリリーが好みそうなもので、余っていたら持ち帰りたい。元々焼き菓子は好きだと言っていたから、彼女は喜ぶだろう。

「バルド殿下」

 そんなことを考えていると、列席している大臣のひとりがおそるおそる声をかけてきた。バルドが顔を彼へ向けると、その隣の大臣夫人がバルドの鋭い視線に怯え息を呑む。

「申し訳ない。弟は食事に集中していたようだ。バルド、お前の姿に臣民は鼓舞されハイゼンベルクは勢いづくだろうとのことだ」

 傍らに座るラインハルトに言伝られて、自分が大臣の話を全く聞いてなかったことにバルドは気付いた。

「必ずや、勝利する」

 短く返答すると安堵した表情が返ってくる。

 そうしていくらか参拝の成功を祈る言葉や、先日の掃討作戦への賞賛を聞き流している内にやっと食事は終わった。

 来客が退席して広い部屋にラインハルトとふたり残される。

「お前は本当に、こういった集まりが苦手だな。愛想を振りまくのは無理でも、話はきちんと聞いておくんだ」

 そしてラインハルトに窘められて、バルドはうなだれる。

「申し訳ありません」

 せめて兄の隣では褒められる態度を務めたいと思いながらも、失態を演じてしまった自分が嫌になる。

「まあいい。私も退屈だったからな。世辞の言い合いほど馬鹿馬鹿しいものはない」

 喋っているラインハルトの声は、まだ喉の炎症が治りきっておらず掠れている。

 無理をさせるわけにもいかないのに、ラインハルトの助言通りに動けず煩わせてしまう。

 自分は王宮から出られない兄の手足で、目で、耳なのだ。少しでも兄の意にそぐわないことをしてはいけない。

 だけれど我が儘を言ってしまうことや、命令を聞けないことが時々起こる。

「それと、リリーについて聞かれたときは、良き部下だと言葉を明確にして答えなさい」

 そういえば別の大臣から補佐官との関係は良好かという類のことを聞かれ、そのまま良好と返した。

 何がまずいのかはバルドにはよく分からなかった。

「掃討作戦の成功と、お前が神器を持ったことでハイゼンベルク内でも、情勢が変わっている。だから、リリーを養女にしたいと言う輩が出始める。お前も、彼女を政争にまで巻き込みたくないだろう」

「……是」

 バルドはラインハルトから視線を逸らした。兄の真意は皇家に彼女の血を混ぜたくないのだ。

 彼女といられなら、婚姻までは望まない。その代わり他に相手を見繕う気もないが。

 いつもリリーのこととなると、兄の意に沿えない。

「皇太子殿下、そろそろお休み下さい」

 いくらかラインハルトと参拝の最終確認をしていると、エレンが車椅子を持ってやってくる。

 バルドはラインハルトを椅子から、車椅子へ移す手伝いをしてかすかに眉根を寄せる。

 体調を崩したせいもあるだろうが、あまりにも軽くて兄の命が削がれていっている実感がのしかかってくる。

 食欲は取り戻しているようなので、このまま快癒に向かえばいいのだが。

「バルド、明日の出立式から参拝までの間、多くの臣民がお前を見る。しっかりと顔を上げて毅然とした態度を心がけるように……っ、エレン」

 言っている途中でラインハルトが、喋り疲れたのか途中で咳き込む。呼ばれたエレンが彼の背を撫でて水を渡した。

 こういうことは侍女の役目だと分かっていても、近くにいる自分が頼られないことが寂しく思えた。

「ご養生、下さい」

「ああ。出立式で最後までお前を見守るために、今夜はゆっくり休むよ」

 ラインハルトが淡く微笑んで退出するのをのを見送り、バルドも兵舎へ帰ることにした。

 王宮の居室にはほとんど戻っていない。

 兵舎の長椅子の裏に作った寝床のほうが寝心地が良く、リリーと会いやすいのでそちらが落ち着く。

(焼き菓子……)

 リリーへの手土産のことを思い出してバルドは、近くにいた侍女に声をかける。気に入らなかったのかと勘違いされつつ、なんとか余っていたのを貰えることになった。

 堅苦しい正装から軍装に着替えローブを羽織って王宮を後にする。

 そしてバルドは兵舎に戻ると、真っ直ぐにリリーの部屋に行った。

「リー」

 執務室の扉を叩いても返事がないので中に入ると、やはり彼女はいなかった。

 土産をここに置いておくかどうか考えていると隣の部屋で物音がする。

「バルド……? あ、やっぱりそうだ」

 私室から顔を覗かせたリリーは、バルドの姿を確認すると膝丈のシャツ一枚姿ででてきた。いつもの長靴は履いておらず、白い素足に室内履きをひっかけただけの無防備な格好だった。

「ちょうど湯浴みしてきたのよ。何かあった?」

「……土産」

 バルドは手に持っている焼き菓子の入った箱をリリーに見せる。

「あ、焼き菓子。美味しそう。余ったの?」

「リーが好きだと思った。余っていたので持ってきた」

 側に寄ってきたリリーの下ろした髪はまだしっとりとしていて、白い肌もほのかに赤らんでいる。

 無造作に開いた襟元の、濡れた金茶の髪が張り付く鎖骨。彼女が動くと揺れる胸の膨らみに、シャツの裾からちらちらと覗く膝。

 見るともなしに自然と視線が華奢で柔らかな肢体に吸い寄せられてしまう。

 じっと見ていたい誘惑と、何かとてもいけないことをしている罪悪感にそわそわそする。

(格好のせい)

 バルドは自分を落ち着かせる手段として、土産を机に置くと自分のローブを脱いでリリーにかけた。

「何? 寒くないわよ」

「……普段と格好が違う。気になる」

 自分でもどう言葉にしていいか分からず、それだけ返すとリリーは目を瞬かせた後に徐々に顔の赤みを強める。

 そしてローブの前をかき寄せてもじもじとする。

「だ、だって。今まで気にしなかったもの。つい癖でこ寝間着で出ちゃったのよ。ローブは借りとくわ。いただきます」

 早口で言って、リリーは添えられているフォークで焼き菓子を頬張る。そうすると険しかった彼女の表情は見る見る間に緩んでいった。

「美味しい……」

 リリーが幸せそうに微笑んで、バルドは満足感に浸る。

 彼女のこの顔が見たかったのだ。戦場で浮かべる生気に満ちた笑みも好きだが、柔らかく溶ける笑顔も同じくらい好きだった。

 見ているとつい手を伸ばして頬に触れたくなる。砂糖よりも甘くて柔らかな唇をまた欲しいと思ってしまう。

 しかしリリーが嫌がるからできない。どうすればまた、昔のように触れさせてもらえるのか。

(不満……)

 嬉しげに菓子を食べるリリーの姿を望んでいたのに、満たされきれない自分がいる。

「こういうおこぼれがあるなら、晩餐会も悪くないわね」

 自分自身に戸惑い悩んでいたバルドだったが、リリーが焼き菓子をひと切れひと切れ大切そうに口に運んでいるのを見ながらこれで十分だと自分に言い聞かせる。

 すっと一緒にいられるのだから、その内なんとかなる。

 そうしてバルドは幸せそうなリリーを眺めるのに集中することにした。


***

 

 翌日、バルドを筆頭とした参拝の出立式は王宮前広場で行われた。

 ひと月ほど前に多くの反逆者の血が流れた広い円形広場を取り囲む、望楼の役目も兼ねた分厚い石壁の上には多くの貴族が集まっている。

 正門に近い場所に用意された席に座るアンネリーゼは、広間に義弟であるクラウスの姿ばかりを見ていた。

 隣に座る夫のヘルムートと同じ銀色の髪は明るい陽射しの中でよく目立つ。

(どうか無事に帰ってきて)

 アンネリーゼはクラウスが戦に出る度に数え切れないほど繰り返した祈りをつぶやく。

 嫁いで来たときから夫のヘルムートのことは苦手だった。

 自分よりも十三も年上でただでさえ不安だったのに、彼の態度は威圧的で恐怖ばかりが先だった。

 それに比べて、クラウスは温和で緊張する自分に優しく微笑みかけてくれた。

 あの瞬間義理の弟になる三つ年上の少年に恋をしたのだ。絶対に叶わないと分かっていても、想いは封じ込めることもできずにいる。

 ほんの少しでも顔が見たくて、声が聞きたくて、役に立ちたくて、懸命に内偵の真似事をしている。

 それでもまだ満たされない。

「……魔道士は戦うべきなのでしょうね。わたくしも本来ならあそこに立っていなければならないのに」

 アンネリーゼは『剣』の魔道士だった。

 女子は『玉』か『杖』が相応しいと父に苦笑され、剣術の稽古など一切しなかった。貴族の嗜みとしての基本的な魔術の使い方しか教わっておらず、魔術を放てる護身用の短刀ぐらいしか持っていない。

「お前のような血を見るのも苦手な女には無理だ。剣術にも向いていない」

 ヘルムートが冷ややかに言って、先日の公開処刑で気分を害してすぐに退出したアンネリーゼはうつむく。

 彼が言う通り人が殺されるのを見るのは恐ろしい。ましてや自分の手でなど考えられない。

 非力で無力な自身にアンネリーゼは表情を陰らせる。

「ええ。なにひとつ皇主様のお役に立てないことが口惜しゅうございます」

 アンネリーゼはクラウスの隣に控えるリリーの姿に目を落とす。あんな身分もない少女ですら戦場に行く。そして貴族の子女も幾人か兵団に混じっている。

 自分もあそこに立てたらもっとクラウスと一緒にいられるのに。

 アンネリーゼはもう一度リリーへと目を移す。夜会でも時々バルドの側に立っているのを見る。そして、クラウスが自分はもちろん、他の誰にも見せない楽しげな顔を彼女に向ける。

 近くにいられたら、クラウスはあんな風に笑いかけてくれるかもしれない。

「お前には人質という大役がある。黙って私の隣に立っているだけでいい楽な大役だ」

 現実は横柄な夫の下で縮こまり時々作り笑いを浮かべるだけだ。

 アンネリーゼの眼下でバルドが神器を掲げ出立の合図をする。馬が寄せられて一同が一斉に騎乗する。

(こちらを見てくれないかしら……)

 アンネリーゼはクラウスの背を見て胸の内で呼びかけるが、願いが叶うこともなく彼はそのまま行ってしまった。


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