第8話 おっさん、心配する





「どうもー!! コトズナチャンネルでーす!!」


「絆でーす」



 ダンジョンへ潜る前に、配信を始める。


 前回の初めは二桁が精々だったが、なんと今回は三桁の視聴者が配信を見ているらしい。


 この前の配信が上手いこと流行ったようだ。



「そして!! 今日は特別ゲストがいるんです!!」


『ゲスト?』


『だれだれ?』


「それはぁー。ドゥルルルルルルルルル、デデン!!」



 セルフでドラムロールをする琴梨。



「クラン【ツチノコの刺し身】の後藤麗奈さんでーす!!」


「……ん……ども……」


『【ツチノコの刺し身】!?』


『うっそだろオイ!! 本人かよ!?』


『何がどうなってんのよ……』



 琴梨が視聴者の反応に首を傾げる。



「あれ? もしかして麗奈さん、結構有名な人だったりするの?」


『逆になんでお前は知らないんだよ!!』


『馬鹿!!』


「だ、だって仕方ないじゃん!! おじさんの紹介なんだから!!」



 いや、まあ、琴梨は冒険者になってから日が浅いのだ。

 というか、浅過ぎるから、知らないのも無理は無いと思う。


 視聴者の一人が、麗奈について補足する。



『【ツチノコの刺し身】は攻略したダンジョン数がトップクラスのクラン。実はダンジョンが現れ始めた当時から存在していて、後藤麗奈はその幹部』


「え!? す、凄い!! 大クランの幹部!? ……なんでおじさんはそんな人と知り合いなの?」


「あー、あのクランの装備やアイテムって、俺の所属するクランが作っててな。大手取引相手って感じで関わりがあるんだよ」


「……ん……いつも……お世話になってる……」



 俺の所属するクランは未踏破のダンジョン攻略を目指すパーティーやクランにアイテムを販売している。


 規模で言えばそこまで大きくないが、冒険者界隈では結構有名だと思う。



「そ、そうなんだ……。っと、雑談はここまでにして。早速ダンジョンに挑戦してみよう!!」



 琴梨が張り切ってダンジョンへ入る。


 今回挑むダンジョンは、洞窟タイプのダンジョンだった。

 遺跡タイプのダンジョンとは違い、地面が不安定なので気を付けて進まなければならない。


 時折、視聴者のコメントに反応しながら、琴梨はダンジョンの中を進む。


 その途中。

 眠たそうな目を少し見開いて、麗奈が俺に耳打ちしてきた。



「……絆……琴梨ちゃんは……冒険者になってどれくらい経つ……?」


「まだ三日」


「……末恐ろしい……」



 麗奈が驚くのも無理はない。実は俺だって驚いている。



「……琴梨……足音を消して……歩いてる……」


「しかも無意識だな。ついでに言うと、足跡もあまり残らないように歩いている」


「……絆が……何か……教えた……?」


「いんや。俺ぁなんもしてないんだ。教えたのは基本的なことばっかで、探索に必要な技能は全く教えてない。多分、視て覚えた・・・・・んだろ」


「……あの子……うちのクランに……もらっても……良い……?」


「それは本人と交渉してくれ。俺には口を出す権利が無いからな」



 やっぱり、麗奈の目から見ても琴梨は才能の塊のようだ。

 武闘派の多い【ツチノコの刺し身】の幹部が欲しがるんだから、間違いない。


 そんなこんなでダンジョンを進むこと十数分。


 俺たちはモンスターに遭遇した。



「お、おじ、おじさん!! あれってコボルトだよね!? 他の人の動画で見た!! 沢山いるんだけど!!」


「落ち着け落ち着け。慌てるな」



 俺たちが遭遇したのは、頭部が犬の姿をした小柄の二足歩行型モンスターであった。


 いわゆるコボルトだ。


 爪や牙は恐ろしく鋭く、数が多いものの、注意する点はその二つのみ。


 冷静に対処すれば、なんてことは無い。



「……ん……琴梨……」


「え? あ、はい!! なんですか、麗奈さん」


「……琴梨は……見てて……私が……お手本を見せる……」



 琴梨を下がらせて、麗奈が前に出た。



「……琴梨は……スキルって……知ってる……?」


「えーと、たしかレベルが上がった時に手に入る特殊能力ですよね?」


「……そう……スキルは……経験に紐づいて身につく……剣の扱いに長ける人は……剣に関連するスキルを得る……私の場合は……敵を始末することに長けているから……それに長けたスキルを持っている……こんな風に……」



 麗奈がコボルトたちの隙間を縫うように歩き、群れの向こう側で足を止める。


 コボルトたちは、その麗奈に気づかない。


 そして、死んだ。

 四肢が、首が、臓物が飛び散って、コボルトの群れは一匹残らず絶命してしまった。



「え? な、何が……?」


『ふぁ!?』


『ヒェ』


『何これ、合成映像?』



 琴梨と視聴者が、自らの目を疑う。


 それ程までに、今の光景は信じられないものだった。



「……私は……効率的に……敵を殺すよう……努めた……流れるように関節へ刃を入れて……四肢を断つ……これがスキルとして昇華され……私は【すれ違う者に理不尽な死を送りますプレゼント・デス】を習得した……」


「はへー、すっご……」


「……だから……何か一つを極めると……貴女は強くなる……何を極めるかは……貴女自身で決めれば良い……」



 麗奈の分かりやすい教え方に対し、口をポカーンと開いたままの琴梨。

 無理もないが、流石に隙を晒し過ぎだと思う。


 俺が軽くコホンと咳払いすると、琴梨はハッとして正気に戻った。



「あー、琴梨。今回のダンジョン探索の目標を視聴者に言い忘れてないか?」


「え? あ、そ、そうだった……。うっかりうっかり。えーと、視聴者の皆様。実は今回の配信には目標があるんです」


『目標?』



 琴梨が頷く。



「そう。流石にダンジョンの深いところまで行くのはまだ危険だっておじさんが許してくれなくて。代わりに浅い階層でレベリングしろって」


「お前の安全のためだ」


「……ん……でも……浅い階層でも……鍛錬には……問題ない……」


「というわけで、血湧き肉躍るハラハラドキドキな命がけのダンジョン攻略を期待してた皆さん、すみません」


『誰もそんなもん期待してない定期』


「あ、そう?」



 けらけらと笑う琴梨。


 場所こそ違えど、一度死にかけたダンジョンであんな風に笑えるのはある種の才能だ。


 いや、少し良い言葉を使い過ぎたかな。


 琴梨はイカれてる節がある。

 大人の俺がしっかりと見ててやらないと、いつか絶対にやらかす。


 姉さんや天国のお義兄さんを心配させないためにも、な。



「よーし!! おじさん、麗奈さん、張り切って行きましょー!!」


「おー」


「……おー……」



 こうして俺たちは、二度目のダンジョン探索に望むのであった。

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