第6話 幕間 とある掲示板サイト



 某掲示板サイト。

 【最近話題のダンジョン配信者について語るスレ】にて。



『おまいら、このダンジョン配信者のアーカイブ見てみろ』



 あるネットユーザーが、動画サイトの生配信のアーカイブのリンクを貼った。


 皆がそのリンクを開いて、中を確認する。



『美少女二人やん』


『絆ちゃんすこ』


『私女だけど、ビジュアルで完敗してる』


『↑言われんでも分かるで』


『↑お? レスバか?』


『おまいら真面目に見ろや』



 時には煽り、煽られなネットユーザーたちだが、次第にアーカイブの中身へと触れる。



『絆ちゃん、普通に凄いな』


『↑何が?』


『周りを常に警戒してる。あと足音がしない。ついでに足跡も残してない』


『↑それな。琴梨ちゃんが喋ってるし、足跡残してるから無意味だけど、多分全部無意識でやってる』


『↑多分だけど、かなりベテランの斥候っぽい』




 皆がそのアーカイブに登場する、巨乳の美少女の方へ感心していた。


 そして、一流の冒険者を名乗るユーザーが現れる。



『絆ってたしか、新しく発生したダンジョンを攻略してるクランの斥候の名前じゃない?』


『↑【黎明の殲滅団】だっけ? 生産スキル持ちがめっちゃ多いアホみたいに強いクラン。絆ちゃんってその一員なの?』


『↑あれは男。結構おっさんだったけど、渋い感じがしてモテるタイプ。一緒に撮った写真あるけど、見たい? 一応、トゥイッターに上げる許可は貰ってる』


『↑頼む』


『↑写真はよ』


『↑トゥイッターと掲示板では違うんじゃ……』


『↑真面目ちゃんは黙ってろ』



 あるネットユーザーが、一人のおっさんの写真を貼った。


 背が高く、筋肉質な美丈夫。


 たしかに若いとは言えないが、想像していたよりもエネルギーに満ちたおっさんであった。



『普通にイケおじで草』


『あ、この人見たことあるわ。ワイが新人冒険者になった時、助けてもらったことある』


『↑くわしく』


『ダンジョンを舐めて、あと金を渋って中古の安物装備でまだ完全攻略されていないダンジョンに挑んだら、普通に死にかけたんだけど、この人が通りかかって物品を売ってくれた』


『↑死にかけてる相手からお金取るんだ……』


『↑冒険者なら当たり前。命を金で買えるなら誰でも買うだろ。で、何買ったん?』


『上級ポーション。足折れてたから。一瞬で治ったよ。余談だけど、余っちゃったポーションを危篤の母親に飲ませたらブレイクダンスし始めてマジビビった』


『↑ブレイクダンス草』


『↑若い頃はダンサーだったのかな?』


『おまいら今は絆ちゃんと琴梨ちゃんに集中せぇや。見てみ、絆ちゃんのおっぱい歩く度に揺れてんで』



 あるネットユーザーが脱線した話を戻す。



『お、宝箱』


『ラッキーやん。ワイが潜った時なんも無かったのに』


『絆ちゃん、罠の解除もできるんかい』


『普通に有能で草。マジでベテラン冒険者みたいだな』



 そして、事態が急転する。



『転移石やん!! 触ってももうた!!』


『↑ワイ詳しくないんやけど、転移石って何?』


『石系のアイテムは色々あって、その中の一つ。触れた人とその人に触れている人を裏ボスのいる部屋まで移動させるアイテム。普通、見つけたら触らないのが鉄則なんだけど……』


『小鳥ちゃん触ってて草生えない』



 動画内の新人冒険者の少女が、裏ボスの待つ広間へと繋がる通路へ転移した。


 完全にもう一人の少女とはぐれてしまったのだ。



『ヤバイな。普通に死ぬやつじゃない? なんか琴梨ちゃん煽ってる奴いるし』


『琴梨ちゃん煽ってる奴なんなん?』


『↑自分が冒険者になる勇気が無くて冒険者を僻んでる連中定期』


『あー、乗せられちゃった。これアカンやつやん』


『葬式代とか上手いけど笑えんわ』



 その動画内の心無いコメント主たちに、ネットユーザーたちは怒りを覚える。


 そして、少女はカメラを部屋の入り口において、ゴブリンジェネラルとの戦闘に突入した。

 時折画面から消えるものの、しっかりとその様子がカメラに写っている。



『普通に良い動きしてる』


『ゴブリンジェネラルってどれくらい強いの?』


『↑新人一人なら普通に死ぬ。パーティー五、六人で倒すやつ』


『普通に強くて草。ポテンシャルの塊やん』


『この子、どう見ても目で見てから回避してるよね? 普通無理でしょ』



 そう、ゴブリンジェネラルと戦う少女は目視してから敵の攻撃を回避していた。


 いくらゴブリンジェネラルの攻撃が遅い方とは言え、普通なら難しいことをやっている。

 その様子に、ネットユーザーたちは感嘆した。



『うわ、攻撃喰らっちゃった!!』


『ヒェ』


『ワイなら死ぬ』


『↑そうでなくてもニートのワイらは社会的に死んでるんやで』


『↑せやな』


『↑傷の舐め合いは余所でやれ定期』



 ゴブリンジェネラルの拳が、少女に当たった。


 しかし、少女もただ殴られたのではない。



『おー!! 殴られる瞬間に腕にナイフ刺した!!』


『すげー。反撃するとかマジかよ』


『でもゴブリンジェネラル赤色になったぞ?』


『↑多分、腕に刺したのがクリティカルダメージだったんだと思う。怒り状態になった』


『うわ、せっかくのダメージが!! 回復とかありかよ!!』


『ヤバイヤバイ!! タックルくる!! 琴梨ちゃん逃げてぇ!! 超逃げてぇ!!』



 怒り狂ったゴブリンジェネラルの突進を前に、少女は死を悟った。


 しかし、その窮地に現れる少女がいた。



『絆ちゃんキター!!』


『絆ちゃんマジイケメン』


『美少女でイケメンで巨乳とか、こいつ無敵か?』


『ごめん、俺惚れたわ』


『↑女の私も惚れた。絆様まじで好き♡』



 己の死を悟る少女の前に現れる少女の姿に、ネットユーザーは湧いた。



『ん? おじさんってどゆこと?』


『待って!? 絆ちゃんめっちゃ強くない!?』


『っていうか動きが速くてカメラの性能が追いついてない。残像で草』


『なんか手に持ってる武器? が金色と銀色に光ってめっちゃ綺麗』


『あの双剣、どっかで見たなぁ』



 勝負は一瞬だった。


 ゴブリンジェネラルの動きが突然止まり、そして何故か死んだ。


 視聴者は状況が分からなくて混乱するが、二人の少女が無事ということだけは理解する。



『勝っちゃった』


『絆様ー!!』


『あ、琴梨ちゃんは先に地上に戻るのか』


『あれ? カメラ忘れてね?』


『お、絆ちゃんが気づいてた』



 少女がカメラを持ち上げ、何かを確認する。


 そして、その直後。

 アーカイブを見ているだけのネットユーザーたちでも背筋が凍りつく程の殺気を放った。



『ヒェ』


『ゴブリンジェネラルより怖いんだが』


『漏れた』


『まあ、琴梨ちゃんを煽った視聴者が悪い』



 そして、少女が衝撃のカミングアウトをした。



『うそぉ!? 男ぉ!?』


『は、初恋だったのに……。でも、なんだこの胸の高鳴りは!!』


『↑それが恋なんやで』


『待って。絆ちゃんの正体ってさっきスレ内で言ってたイケおじじゃない?』


『ワイ写真上げた民、今度会った時に確認するわ』


『↑有能』


『↑頼むわ』



 こうして、二人の少女のダンジョン攻略初配信は終わった。

 同時に話題が話題を呼び、その少女たちの名前はネットを中心に信じられない速度で広まってゆく。


 彼女たちが歴史のページを紡ぐことを、ネットユーザーたちはまだ知らないのであった。

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