第3話 おっさん、姪とダンジョン配信に挑む
「どーもー♪ コトズナチャンネルの琴梨でーす♪」
「き、絆でーす」
最寄りの攻略済みダンジョンを訪れると、新米と思わしき若手冒険者の姿がちらほらとあった。
周囲の視線が気になる中、俺は姪の琴梨と共にダンジョン攻略配信を始めた。
始めて、しまった……。
中身が三十八のおっさんが、視聴者を騙す形で配信を行っているのだ。
俺の中の良心が痛む。
「えーと、今回攻略するのは遺跡型ダンジョン。古き良きザ☆ダンジョンって感じのダンジョンです!! 子供だけでは危険って意見もあると思うんですけど、ご安心を!! こちらの絆ちゃん、こう見えてもベテランなんです!!」
「べ、ベテランでーす……」
琴梨の持ってきたダンジョン配信用カメラには動画サイトと連携する機能があり、コメント等を表示して見ることができる。
しかし、初配信で人が来るのだろうか。
そんな疑問はすぐに解消された。
視聴者が数人くらいコメント欄に姿を現したのだ。
『初見です。でっかいですね』
『絆ちゃんデケェエエエエエエエ!!!!』
『初見。巨乳美少女と美少女で最高やん』
「ちょっと!! 絆ちゃんだけじゃなくて私もいるんですけど!?」
おのれ視聴者め。
俺のオパーイを下卑た目で見やがって。
いや、体型の分かりやすい装備を用意した俺が悪いんだが。
それはそれとして、琴梨の目論見は大当たりだな。
俺の存在故か、あるいは単純に琴梨のコミュニケーション能力が故か。
視聴者はわずか数分のオープニングトークで二桁に達していた。
初配信で二桁は中々凄いんじゃないか?
「はい、というわけで絆ちゃんからも一言!!」
「え? あー、えっと、が、頑張りまーす」
「おやおや。緊張してるのかな? 笑顔が足りないぞー。ほら、笑って笑って」
「あ、あははは……」
笑えと言われても、おっさんに何を要求するんだ。
『引き攣った笑みが草』
『絆ちゃん、琴梨ちゃんに客寄せパンダとして引っ張ってこられたんじゃ……』
『絆ちゃんカワイソス』
「ちょ、別に無理矢理じゃないよ!? ね!!」
そんな琴梨の真っ直ぐな視線に、俺は目を逸しながら頷いた。
「……ああ、うん……」
『これはギルティ』
『有罪ですな』
『被害者が表情で全てを物語っている』
察しの良い視聴者が多くて助かる。
「もー!! なんかいきなり私がイジられキャラになってない!? 可愛いポジションで行きたかったのに!!」
『不可能』
「酷い!? ああもう!! さっさとダンジョンの中に入るよ!! 私の凄いところ見せちゃうんだから!!」
オープニングトークが終了した。
装備の最終点検をして、俺と琴梨はダンジョンの中に足を踏み入れる。
「お、おお、ちょっと暗いね……」
「ダンジョンは壁や床そのものが少し発光してるから、そのうち慣れる。あんまりビビらないように」
「び、びび、ビビってないし!?」
『膝ガックガクで草』
「う、うるさいよ!!」
時折打ち込まれるコメント一つ一つに、丁寧に返答する琴梨。
もう少しダンジョン探索に集中して欲しいが、新人は誰しも浮かれるものだ。
そういうのはベテランがカバーしてやることなので、俺が周囲に細心の注意を払う。
「思ったよりモンスターはいないんだね……」
「廃棄ダンジョン――一度完全に攻略されてるダンジョンだからねぇ。血湧き肉躍る戦いがお望みなら、最近出現したダンジョンに行く?」
「い、今は遠慮しておきます。うーん、じゃあ絆ちゃん。ダンジョンについて軽く説明して!!」
「は? いや、え? 誰でも知ってるでしょ?」
「配信はトークが大事なんだよ。言葉を途絶えさせちゃダメ。どんな内容でも喋り続けなきゃ」
「む、むぅ……」
琴梨の言葉にも一理ある。
黙々とゲームをプレイする配信動画が人気になる可能性は低いだろう。
そうは言っても、何を話したものか……。
「ダンジョンは未だに何も分かっていないんだよねぇ。誰がなんのために作ったのか、一部では神が作ったって言う人もいるけど、本当のところは分かんない。でも、これだけは言える」
「何々?」
「――死ぬ時は死ぬ。知り合いに何人か、探索中にモンスターに襲われて死傷者が出たことがある。だから慎重に進む。ここは廃棄ダンジョンだとしてもね。ダンジョン攻略配信、結構。ただし、迂闊な行動はしないように」
「あ、は、はい」
『琴梨が説教されてる……』
『なんだろう、キズパイちゃんからベテランの風格を感じる』
「おいコラ。キズパイってなんだ? 絆のおっぱいって意味なら戦争するぞ?」
こっちは中身が男なんだ、そういう渾名はマジでやめて欲しい。
「あ、おじ――絆ちゃん!! 見て、宝箱!! 誰も取らなかったのかな!?」
「ダンジョンは定期的に宝箱がポップするからな。幸先が良い証拠だよ」
「よーし、早速宝箱を開封――」
「ストップ」
俺は琴梨の首根っこを掴み、引き止める。
「あぐっ、げほっ、ごほっ、な、何!?」
「迂闊な行動をするなと言ったばかりでしょうが。まずはトラップが無いかの確認だ」
「えー?」
俺はその辺に転がっていた石ころを拾い、宝箱に向かって投げる。
ころん、と宝箱に当たるが、何も起こらない。
「振動感知型の罠は無し。次はこの、罠解除用の大型マッチに着火して。えい!!」
マッチがころんと宝箱の前に転がるが、やはり何も起こらない。
熱源感知型の罠でも無し、か。
その後もいくつかのチェックを行ってから、俺は頷いた。
「大丈夫そうだ。開けてみろ」
「おー!! やっとお宝だぁ!!」
琴梨が宝箱に飛びつき、早速開いて中身を確認した。
中に入っていたのは、お世辞にも性能が良いとは言えない銅製のナイフだった。
「あー、ブロンズナイフか」
「高く売れるかな?」
「うーん、俺は鑑定が下手だしなぁ。高く売れるかどうか分かんないけど、1万円は行くんじゃないか?」
「おー!! 十分だよ!! バイトなんかするよりずっと効率的じゃん!!」
「馬鹿言うなっての。宝箱なんか滅多に見つかんないぞ」
ましてや攻略され尽くしたダンジョンで宝箱が見つかるのは稀だ。
本当に運が良いだけである。
「あっ、また宝箱!!」
「え!? うっそだろオイ!!」
『琴梨ちゃんの運はどうなってんだ?』
視聴者も俺と同意見なのか、琴梨のラッキー具合に驚いているようだ。
再び罠の確認をして、琴梨が宝箱を開いた。
「ん? 何これ? 石?」
「石? っ、琴梨、触るなッ!!」
「え? わ、な、何!?」
俺は慌てて琴梨に手を伸ばした。
しかし、その手が届く直前、琴梨の姿が跡形も無く消えてしまう。
「クソッ!! 油断した!!」
琴梨が宝箱から取り出したのは、転移石と呼ばれる激レアアイテム。
その効果は、触れた者を別の場所へ転送するというトラップ染みたものだ。
しかし、問題はそこではない。
転移石の移動先は、少し特殊な場所になっている。
ダンジョンの最奥にはボスモンスターがいるのだが、転移石の移動先にはそれ以上の凶悪なモンスターが待ち構えている時があるのだ。
いわゆる、裏ボス。その部屋へ繋がっているのだ。
「くっ!! 急いで見つけないと!!」
俺は慌てて駆け出し、琴梨を全力で捜索することにした。
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