第2話 おっさん、ステータスを確認する
翌日、俺は琴梨と共に役所へとやって来た。
冒険者登録をするためだ。しかし、その前に琴梨はやることがあると言う。
「どーもー♪ コトズナチャンネルの琴梨でーす♪」
「き、絆でーす」
「今日はこれから、役所で冒険者登録をしたいと思います♪ ステータスチェックもするから緊張するなぁ♪ ね、絆ちゃん!!」
「そ、ソウデスネー」
「あれれー? 緊張してるー? 絆ちゃん、もっと笑顔だよ!!」
そう、動画撮影であった。
琴梨はダンジョンに挑む様子を生配信をするつもりのようだが、そのオープニングに冒険者登録する様子を使いたいらしい。
無論、細かいことは個人情報なのでモザイクを入れるそうだが……。
琴梨がカメラを止めたタイミングで、俺はズバリ問いかける。
「おい、琴梨。なんで俺がこんな格好させられてるんだ……?」
「そりゃあ、おじさんの身体が男受けするからに決まってるじゃない」
俺は今、めっちゃ短いズボンを穿いている。ホットパンツと言うのだろうか。
太ももがスースーして仕方がない。
そして何より、ノースリーブのシャツが問題だった。
オパーイが、はみ出そうなのだ!!
いや、これに関しては下着を着けて来なかった俺が悪いのかも知れないが。
だって仕方がないでしょうが!!
今まで男として生きてきたのに、いきなりブラジャーとか着けられないって!!
でも、女の子になって昨日の今日なのに、嫌々ながらも女の子の格好をしているのだ。
むしろ褒めて欲しい。
「おじさ――絆ちゃーん、何してるの? 行くよー?」
「ぐっ、誰のせいだと……」
今朝、俺の家まで押し入り、女モノの服を着せてきた犯人が役所の受付へと向かう。
おのれ琴梨、我が姪よ。叔父はお前の所業を忘れないからな。
「お待たせしました。冒険者登録ですね?」
「は、はい!! よ、よよ、よろしくお願いします!!」
「琴梨の方がガッチガチに緊張してるじゃないか」
琴梨は細かい手続きをして、冒険者登録を済ませた。
あとはステータスチェックをするのみだ。
「では、次。貴女も新規登録ですね?」
「あ、いえ。俺は登録証の更新で」
「あ、し、失礼しました。登録証、お預かりします」
役所の人に登録証、冒険者カードを渡す。
まあ、冒険者になったら誰でも貰える運転免許みたいなもんだな。
「え? えーと、風間絆さん? 男? あの、登録証は本人じゃないと使えないんですが……」
「本人です」
「え?」
「本人です」
俺は諸々の事情を説明し、なんとか役所の人にも納得してもらえた。
めっちゃ色々調べられたけどね。住所とか個人情報とか。
下手したら新規登録の琴梨より調べられたかも知れないな。
「えー、ではステータスチェックをさせてもらいますが、えー、一応、風間様もするということで?」
「お願いします」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」
ステータスチェックというのは、冒険者になる際必ずしなければならないものだ。
簡単に言えば、身体能力を数値化したものである。
他にも状態異常なんかが分かるため、この女体化の秘密に迫れるかも知れない。
「うぅ、緊張してきたぁ」
「では、こちらの道具に触れてください」
「は、はい!!」
役所の職員が奥から持ってきたのは、ステータスチェックに使われる道具。
一見すると丸い水晶のようだが、その技術はダンジョン産の素材をふんだんに用いた超高価な代物である。
琴梨が手を合わせ、ブツブツと何か言い始める。
どうやら神に祈っているようだ。
……ステータスは神頼みでは変化しないんだがなぁ。
「ええい、ままよ!!」
琴梨が水晶に触れる。
そして、職員は表示された数値を書類に書き写してゆく。
「こちらが、藤居琴梨さんのステータスになります」
「あ、ありがとうございます!! おじ――絆ちゃん、一緒に見て!!」
「え? いや、そういうのは個人情報なんだから見せちゃダメだぞ。女の子にも分かりやすく言うと、身長はおろか体重、スリーサイズまで明かすようなもんだぞ」
「ちょ、そう言われると見せたくなくなるんだけど!!」
なんて言いつつも、俺にステータスを見せてくる琴梨。
ふむ……。
「どう? 高い? 低い?」
「うーん、まあ? レベル1にしては? 良い方なんじゃないかなぁ?」
「もう!! ハッキリ言ってよ!!」
「……微妙」
なんというか、ステータスが平均的というか。
何かに特化しているのではなく、全体的にバランスが良い。
バランスが良く、低い。
「まあ、あれだ。器用貧乏みたいなステータスだと思う」
「器用、貧乏……ガクッ」
「……まあ、俺の知り合いにもそういう感じのステータスで鬼強い奴がいるから、今度話を聞いてみな」
「……うん」
明らかにしょんぼりしている琴梨。
そもそもステータスやレベルとは何なのか。
それは、ステータスというのはさっきも説明したように、身体能力を数値化したもの。
ではレベルは?
ダンジョン内で起こすあらゆるアクションが経験値として変換され、身体に蓄積する。
そして、ある一定の量を蓄積するとレベルが上がり、ステータスが上昇するのだ。
これが俗に言う、レベルアップである。
「では、風間絆さん。水晶に触れてください」
「はい」
「……ん? これは……?」
職員さんが書類に記録を書きながら、首を傾げている。
なんだ? どうしたんだ?
「えーと、こちらが今の風間さんのステータスになります。一応言っておくと、機械に故障はありません」
「ん? どれどれ……? ファ!? レベルが1になってる!?」
「どうしたの、おじ――絆ちゃん?」
「あ、こら。人のステータスを勝手に見るのはマナー違反だぞ!!」
琴梨が俺のステータスを書いた書類を覗き見する。
「あれ? レベル1になってる!! おじさんも私と同じ新人だね!! ステータスは――え?」
「ん? どうしたんだ?」
「お、おじ、絆ちゃん!! これ、よく見て!! 身体能力の数値のところ!!」
「え?」
俺は琴梨に言われてから、レベル以外のステータス項目を見た。
筋力、体力、魔力、敏捷……。
それら全てがレベル1とは思えない程、高い数値でまとまっていた。
「ど、どうなってんの!? 私と同じレベルなのに!!」
「これは……レベルが下がっただけで、身体能力は下がってないのか?」
「え!? 何それずるい!! 強くてニューゲーム状態ってこと!?」
「そう、なるのかなぁ……」
これ、レベルを上げたらまたステータスが上がるのかな?
しかし、肝心の女体化した原因までは分からなかった。
状態異常らしきものがステータスに表示されなかったのである。
こうなったら、もう一度あの喋るドラゴンに会いに行ってみるか?
……いや、今は琴梨を優先しよう。
目下困ってるのはオパーイが大き過ぎることと服装がはずかしいことだけだしな。
「じゃあ絆ちゃん、早速ダンジョンに行ってみよう!!」
「……色々と不安だなぁ」
俺と琴梨は役所を後にし、近場にある攻略済みダンジョンまで足を運ぶのであった。
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