ベテランおっさん冒険者、朝起きたら巨乳美少女になってたので姪と一緒にダンジョン攻略動画配信を始めます。〜レベルリセットされてるけどステータスはそのままみたいなので強くてニューゲーム〜

ナガワ ヒイロ

第1話 おっさん、美少女になる






「うっ、いたたた……。昨日の無茶が祟ったかなぁ」



 早朝。

 俺は酷く痛む身体に鞭を打って布団から出る。


 そして、自分の声に違和感を覚えた。



「ん? あー、あー。なんだ? 声が妙に高いような……。風邪でも引いたかな? あとで風邪薬飲まなきゃ」



 なんてことを呟きながら、顔を洗うべく洗面所へと向かった。


 朝は顔を洗わないと眠たくて仕方がない。


 特に昨日は無茶をしたからか、全身が気だるくて歩くのも億劫だ。

 もしかしたら、本当に風邪を引いたのかも知れない。


 洗面所に辿り着いた俺は水道の蛇口を捻り、両手に水を貯め、顔にかける。


 そして、タオルで顔を拭いて――ふと鏡に映る自分の姿を見た。



「……ん? あれ?」



 鏡の中に知らない美少女がいる。


 雪を思わせる純白の髪と、月の如く光る黄金の瞳の美少女。


 しかも、巨乳だった。ばいんばいんだ。


 そんな巨乳美少女が俺のパジャマを着て、タオルで顔を拭いている。



「え? なに、これ……? 俺……? 寝惚けてんのかなぁ?」



 軽く自分の頬を引っ張る。


 痛い。とても痛い。ということは、夢ではないはずだ。



「え!? 現実!? これ現実!? ちょ、落ち着こう!! 状況整理をしよう!!」



 俺の名前は風間かざまきずな


 年齢三十八歳。童貞。恋愛経験は無し。一人暮らしの平凡なおっさんだったはずだ。


 それがどうして……。



「なんで美少女になってんの!?」



 いや、待て。落ち着こう。


 まずは落ち着いて、ここは定番の乳揉みをしようじゃないか。

 なに、自分のおっぱいを揉むのは犯罪ではない!!


 俺は自分のおっぱいに手を伸ばそうとして――



「おじさーん!! 遊びに来たよー!!」


「どぅわっはぁ!? なな、なんだ!? って、琴梨か……。ビックリさせんなよ」



 急に俺のアパートの扉を開けて突入してきたのは、俺の姉の娘、つまりは姪の藤居ふじい琴梨ことりであった。


 何かと俺の家まで遊びに来る暇人で、今年から高校一年生になる。


 叔父の俺が言うとキモがられるかも知れないが、中々の美少女だ。

 ……今の俺よりもオパーイは小さいがな。


 って、そんなこと考えてる場合じゃない!!


 独身童貞アラフォー手前男の家に美少女がいたら怪しまれる!!



「えっと、あの、こ、これは違うんだ、琴梨!!」


「おじさん……ま、まさか、こんなカワイイ女の子を誘拐して――」


「ち、違っ、話を!!」


「見損なったわ!! おじさん!! 出てきなさい!! 血祭りにしてあげるわ!!」


「ちがーう!! 俺!! 俺がお前の叔父さんなの!! 俺が風間絆なの!!」


「……え?」



 俺はなんとか琴梨を落ち着かせて、事情を話す。


 と言っても、朝起きたら美少女になっていたということしか分からないが。



「本当におじさん、なの? 私より胸が大きいのが許せないんだけど」


「そんなこと言われても……」


「で、何か心当たりは?」


「うーん、もしかしてあれかなぁ? ほら、俺昨日までダンジョン潜ってただろ?」


「おじさんは冒険者だもんねー」



 ダンジョン。

 今から数十年前、世界各国に出現した謎の大迷宮である。

 最初に確認されたのは、たしかアメリカのテキサス州だったかな。


 その後、日本やイギリスにも出現。

 ダンジョンには未知の物質や独自の生態系があり、その存在は世界に大きな影響を与えた。


 ダンジョンは放っておくとモンスターが溢れ出るスタンピードが起こるため、最初は各国が軍隊を投入して鎮圧を試みたが……。

 何故かダンジョン内では銃火器の類いが故障し、使えなくなってしまったのだ。


 それ以降、各国政府は軍によるダンジョン攻略を諦め、ダンジョン攻略専門の組織が発足。


 国土面積の割にダンジョンの数が多かった日本も遅れを取るまいと、とある協会を作った。

 それが冒険者協会であり、俺はその協会に所属する冒険者であった。



「で、昨日はソロで新しく発生したダンジョンの偵察依頼をこなしたんだよ」


「ふむふむ」


「そしたら喋るドラゴンがいてさ。怖くなって逃げたんだよ。その時ドラゴンが『見つけたぞ、我が宿命のライバル!! 逃げるな!! 呪うぞ!!』って言われて……」


「え? 絶対それじゃん、原因」


「原因かなぁ? でも、麻痺や毒ならともかく女体化する状態異常なんて聞いたことないし……」



 とにかく、何も分からない。それだけは分かっている。



「……まあ、いいや。それよりおじさん、凄く大切な話があるんだけど」


「え? 良くないよ? 何さらっと流そうとしてんの?」


「実は私、冒険者になりたいの!!」


「おおう、この話の流れでそういう話題振ってくる? 我が姪ながらおっそろしぃぜぇー」



 冒険者自体は、親の同意があれば未成年でもなることが出来る。


 ダンジョンは昔こそ危険なものだったが、今ではある程度攻略がテンプレ化されていて、資源の回収やモンスターの間引きが主な仕事となっている。


 これが意外と良いバイトになるのだ。


 危険じゃないのか、って世間ではよく騒がれているが、なんということは無い。

 工事現場でバイトしてたら、上から鉄骨が落ちてきて死ぬ、みたいな確率で死ぬことはあるけどね。


 しかし、叔父として琴梨が冒険者になるのはおすすめしない。



「ぶっちゃけると、やめた方が良いぞ。収入は凄いけど、その分危険だからな」


「フッフッフッ、おじさんは遅れてるねぇー。今は動画配信で収入を得る時代だよ!!」


「ん? 動画配信?」



 俺が首を傾げると、琴梨はどこからか一台のカメラを取り出した。



「テッテレー♪ ダンジョンメーカー製、ダンジョン攻略配信用カメラ〜」


「カメラ? おいおい、ダンジョン内では電子機器の類は……」


「うん、使えない。でも時代は進歩してるんだよ、おじさん。このカメラは使えるの。そう、ダンジョンメーカーならね」



 ダンジョンメーカー。


 ダンジョン攻略に必要な武装や物質を作っている大手企業メーカーであり、冒険者の心強い味方だ。



「ダンジョン攻略配信って……」


「そう、ダンジョンを攻略する様子を配信するの。それで視聴者からスパチャを貰って大儲け!! どうかな?」


「どうって言われてもな……。危ないのは一緒だろ」


「大丈夫!! おじさんがやってるような新規ダンジョンの斥候とかじゃなくて、攻略済みダンジョンへの挑戦する様子を配信するから!!」



 攻略済みダンジョン。


 危険の多いダンジョンとは異なり、資源を取り尽くした使い道の無いダンジョン。

 廃棄ダンジョンとも呼ばれるものだ。


 基本的には新人冒険者の育成に使われるものだが、なるほど。


 それなら危険は少ないだろう。


 しかし、攻略済みダンジョンを攻略する配信というのはどうなのだろうか。



「でも、なんで俺にそんな話を?」


「ママがね? おじさんが一緒なら冒険者になっても良いよって」


「姉貴の馬鹿……」


「でもね、今のおじさんを見て私はこう思ったの」


「うん?」



 琴梨が立ち上がり、腕をバッと広げて叫ぶ。



「おじさん!! 私と一緒にダンジョン攻略動画配信しよう!! 今のおじさんの容姿なら絶対に世の中のオタクを釣れる!!」


「釣れるって言い方はやめなさい。おじさんもどっちかって言うとオタクの部類だから」


「ね? ね? 分け前は五・五!! お願い!!」


「う、うーん、そうは言ってもなぁ」


「お願い、おじさん!!」



 琴梨が真っ直ぐな目で俺を見つめてくる。


 いや、いやいや。駄目だろ。俺、おっさんなんだぜ? 詐欺じゃん。


 だからそんな綺麗な目で俺を見ないでくれ、姪よ。

 俺は昔から、真剣に頼んでくる人に弱いんだ。



「……わ、分かったよ。その代わり、俺の身体が元に戻るまでだからな」


「やったぁ!! おじさん大好き!! じゃなくて、絆ちゃん大好き!!」


「き、絆ちゃん!?」


「だって今のおじさん、美少女だし。年齢も私と同じくらいだもん」


「ん、んぅ。まあ、おじさん呼びは不自然か」



 姪からちゃん付けされるのは複雑だが、事情が事情だし、仕方ない。



「じゃあ明日、冒険者登録に行こうね!! そのまま近場のダンジョンに挑もう!!」


「分かった分かった」



 こうして俺は、姪とダンジョン攻略動画配信をすることになった。


 そして、我が息子が消滅し、穴になっていることに気付いて絶叫するのは、それから数分後の出来事であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る