　私と先輩は高校生だ。現在、先輩が三年生で、私が二年生。先輩が立（た）ち上（あ）げた、部員が二人だけの、電動バイク部に私たちは所属（しょぞく）している。と言（い）うか入学（にゅうがく）早々（そうそう）、私は一（いち）年上（ねんうえ）の先輩から見（み）染（そ）められて、「貴女（あなた）、私と部活動（ぶかつどう）をしなさい。部（ぶ）は、これから私が作（つく）るから」と申（もう）し付（つ）けられたのだ。

　私も先輩も、電動バイクは勿論（もちろん）、スクーターの免許（めんきょ）すら持（も）ってなかったが。「問題ないわ。毎週末（まいしゅうまつ）、私が高速道路を貸（か）し切（き）るから。私道（しどう）扱（あつか）いにするから、無免許（むめんきょ）でも走（はし）れるわよ」と言ったのが先輩である。そんな理屈（りくつ）は通（とお）らないと思うのだが、その無理（むり）を押（お）し通（とお）しちゃったのだから私は何（なに）も言えない。きっと東京と違（ちが）って地方（ちほう）の高速道路だから、上級（じょうきゅう）国民（こくみん）の先輩が貸（か）し切（き）ることも可能（かのう）だったのだろう。ツッコミに疲（つか）れた私は、いちいち考（かんが）えるのを止（や）めた。

　一応（いちおう）、後（のち）に私も先輩も、常識（じょうしき）では有（あ）り得（え）ない早（はや）さで電動バイクの免許（めんきょ）は取（と）っている。先輩と付（つ）き合（あ）うと、様々（さまざま）な優遇（ゆうぐう）措置（そち）を受（う）けられて得（とく）だ。校則（こうそく）でオートバイに乗（の）ることは禁（きん）止（し）されているはずだが、高校の先生は私と先輩から目（め）を逸（そ）らしていたので、そういうことだと解釈（かいしゃく）しておいた。

　二人（ふたり）きり（正確（せいかく）には違（ちが）うが）での部活（ぶかつ）は、毎週末（まいしゅうまつ）に一回（いっかい）のペースで行（おこな）われて。これがマンガなら女子高生がバイクで楽（たの）しく旅行（ツーリング）する展開（てんかい）だったのだろうが、私も先輩も、そんな可愛（かわい）らしいキャラクターでは全（まった）く、なかった。

「私は警察（けいさつ）関係の情報に接（せっ）する機会（きかい）が多（おお）くてね。だから最近、出没（しゅつぼつ）している連続（れんぞく）窃盗犯（せっとうはん）の手口（てぐち）に付（つ）いても良（よ）く知（し）ってるのよ……貴女が犯人（はんにん）ね」

「……やだなぁ。何（なん）のことか分（わ）からないですよ、先輩」

　これが、入学（にゅうがく）したばかりの私が高校で先輩と出会（であ）って、その日の内（うち）に二人（ふたり）きりで交（か）わした会話（かいわ）である。私は只々（ただただ）、感心（かんしん）していた。何故（なぜ）、分（わ）かったのだろうと。私の盗（ぬす）みの手口（てぐち）は、決（けっ）して警察如（ごと）きに解明（かいめい）できるものではないのだ。気（き）が付（つ）けば金品（きんぴん）が消（き）えているといった現象（げんしょう）が起（お）こるだけで、そこから私に辿（たど）り着（つ）ける者（もの）など居（い）ないはずだったのに。

「そうね、そう言（い）うでしょうね。貴女が犯人だという証拠（しょうこ）は何（なに）も無（な）い。世（よ）の法律（ほうりつ）では決（けっ）して貴女を裁（さば）けない。そういう能力（のうりょく）を貴女は持（も）っている。でもね、私もそ（・）う（・）な（・）の（・）よ（・）」

　ああ、そういうことかと私は理解（りかい）した。この先輩と私は、同類（どうるい）なのだと。これまで自分と同じ種類（しゅるい）の人間に会（あ）ったことは無（な）くて、しかも私は先輩に付（つ）いて何（なに）も分（わ）からなかったのに、この先輩は私を完（・）全（・）に（・）理（・）解（・）し（・）て（・）い（・）る（・）。

　そして私は先手（せんて）を取（と）られていたのに、先輩は不意打（ふいう）ちを仕掛（しか）けることもなく、正面（しょうめん）から私に挑（いど）もうとしていた。何（なん）という気高（けだか）さだろう。私は感動（かんどう）すら覚（おぼ）えていた。

「……それで？　先輩は私を警察にでも突（つ）き出（だ）しちゃうんですか？　証拠（しょうこ）も無（な）いのに？」

「まさか。さっきも言（い）った通（とお）り、法律では貴女を裁（さば）けない。だから貴女、私と部活動（ぶかつどう）をしなさい。部（ぶ）は、これから私が部長（ぶちょう）になって作（つく）るから」

「はぁ、意味（いみ）が分（わ）からないんですけど。仮（かり）に断（ことわ）ったら、どうします？」

「そのときは、どんな手段（しゅだん）を使ってでも、私が貴女を破滅（はめつ）させるわ。いいから私と部活に励（はげ）みなさい。私が卒業（そつぎょう）するまでに、部活動を通（とお）して、貴女を改心（かいしん）させてあげる。もし貴女が改心しなければ、そのときは私の負（ま）けよ。一切（いっさい）、貴女に関（かか）わらないから、私が卒業するまでは付（つ）き合（あ）いなさい」