第24話 寄り道デート??
これ以上入らないというほど詰められたリュックの中に、さらに詰め込むために隙間を探る。
ノートを詰め込み、問題集を隙間にいれ、筆箱を乗せる。
蓋が閉じれば大丈夫なのだ。
中間テスト前の、部活がなくなる期間。探偵部は、テスト後の約束をするためだけに数学準備室に集まった。
今回のテストは後藤先生が問題を作るので、数学準備室に籠っていると迷惑をかけてしまう。
辻を中心に、謎解きに使えそうな物をまとめた学校の地図が出来上がっている。テスト後には学校を使った本格的な謎解きを考えることで満場一致して帰ることになった。
「後藤先生、さ~よ~う~な~ら~」
北野が、小学校低学年のように間延びした挨拶をするのでみんなで真似をする。
「さ~よ~う~な~ら~」
後藤先生まで、席から立ち上がり見送ってくれた。
「はい。皆さん、さようなら。車に気をつけて帰ってくださいね」
「は~い」
不自然に伸ばした挨拶をして、数学準備室を後にした。
北野は何だかんだといって、探偵部のムードメーカーなのだ。
自転車通学の多香子と別れて、学校から駅に向けて歩いていると、北野が騒ぎだす。
「俺は、大丈夫だ~!!」
「いえ、一緒に行きますよ。ほら、西原も行くって言っているんですから、北野だけ逃げるなんてことはしませんよね~」
「青木も行くのかよ~!」
「青木君は、ミハネさんを駅まで送るという仕事がありますし、家に帰ったら遊んでしまう北野とは違うんです!!」
辻が、北野の腕をガシッと掴んでいる。
「え~!! やっぱり、俺はいいって~」
「ダメですよ!! これ以上成績が落ちたら、探偵部をやめろっていわれているんですよね。塾に毎日通わせられるんですよね!! 」
美羽は、初耳だった。
「え?? 北野くん、探偵部やめちゃうの?」
北野は焦ったように早口で捲し立てる。
「いや、やめる気は、ちっとも無いって。母さんが大袈裟に行っているだけだろ~!!」
「そんなことはないですよ! あれは、本気ですって!! それに、北野のお母さん直々にお願いされているんで、絶対に図書館に行きますよ」
辻は北野の母親と話したことがあるようだ。
「だって、図書館行くって言ってないし!」
「連絡すればいいんです。夕飯は帰ってから食べれば怒られません。電話さえかけてくれれば、僕がお母さんと話しますよ!!」
──うわ! 辻くん、強行突破。
「まって!! それは、勘弁!!」
「じゃあ、自分で話してくださいね。じゃあ、お二人とも、また明日~」
「北野くん、頑張ってね~。絶対、部活やめたらダメだからね~」
そのまま図書館に入ったら怒られるんじゃないかというくらい、いい争いをしながら図書館に向かっていった。
嫌だと騒ぎながらも辻に連れられて図書館に向かうところが北野らしい。
その様子を見送りながら、美羽は呟いた。
「私も勉強しなきゃ。図書館行こうかな」
美羽の親は、勉強してほしいと思っていても口に出さないタイプだ。
もしかしたら、中学時代、嫌々学校に通っていたことに気がついていたのかもしれない。
毎日、学校に通っているだけでニコニコしている。
夏休みに出掛けると言ったら、根掘り葉掘り聞かれてしまった。
探偵部で出掛けると言うと、今度は探偵部とはなんだと興味津々だった。靴箱に入れられた手紙のことはぼやかして、1時間ほど説明することになったのだ。
「ミハネは事前に親に言ってからじゃなきゃダメだろ。女の子なんだから心配されるぞ」
「ん~、まぁ、そうか」
今日は家で勉強した方が良さそうだ。
勉強時間を確保しないといけないが、それよりも、探偵部でいられるのが楽しく仕方がないのだ。
「なぁ。ちょっとノート切れちゃって、文房具屋に寄りたいんだけど行ってもいい?」
美羽が気になっている文房具屋を指差して青木が言った。
「うん。いいよ。私も何か買おっかな」
中間テストも近いし、勉強していてテンションの上がる文房具がほしいと思った。
シャープペンだろうか?消ゴムだろうか?それとも、赤ペンやマーカーペンってものいいかもしれない。
お店に入ると青木がノートのコーナーに直行し、愛用しているノートを一束掴んだ。
「ちょっとシャープペン見ていい?」
美羽はその間に新しいペンをチェックする。キャラクターの文具を見てから、新色のボールペンのコーナーが目に入った。
秋色のボールペンはシックで大人っぽくてどれか一つ欲しくなる。
どうしようかと悩んでいると、青木が声をかけてきた。
「シャープペンだけどさぁ、これ、ミハネ使ってたよな? 使いやすい?」
青木が持っているシャープペンの、パステルピンクが筆箱に入っている。可愛い色で好きだったのだが、最近は使われていなかった。
「使いやすいよ。シンプルなのがいいよね」
機能がシンプルなところがお気に入りだったのだ。
前に買ったときより、カラーが増えているようだった。
美羽の目にうつったのは、深い青色。
落ち着いた色で大人っぽくて、無性に引かれた。
「この色きれい」
手に取ってみると、ラメが入っていてキラキラしている。
筆箱の中のラインナップとは違うが、大人色のペンが一本くらいあってもいい気がした。
機能がシンプルな故に、値段はお手頃だ。
お小遣いの残りを思い浮かべて買うことにした。
「私、これ買っちゃおうかな」
「ミハネはその色買うの? 俺も欲しいんだよね」
──お揃いだ!!
心の中で叫んでしまった。
青木は、そんなこと気にせずに言っているのかもしれない。美羽はドキドキして青木が決めるのを待った。
青木は全ての色を一度ずつ手に取っている。
「どれがいいかな? 俺が買うと黒になっちゃうんだよね」
青木には黒が似合うけど、さっき持ち上げたときに合うかもと思った色があったのだ。
「黒は似合うけど、白はどう?」
マットな白が、かっこいい。
「ホントに? 俺持っても変じゃない?」
「変? 全然。え~っと、ねぇ、何となく」
美羽にとって、正義感が強い青木は白のイメージだ。
「まぁ、いいか。たまには違う色にしよう」
二人でレジに並んで、お会計をした。
ギュウギュウに詰め込まれたリュックに、小さな紙袋に入れられたシャープペンを滑り込ませた。
──ちょっとデートみたいだったよね。
つかの間の時間のあと、いつも通り電車に乗り、最寄り駅で別れた。
家について、まっすぐ勉強机に行きリュックの中から筆箱とシャープペンを取り出す。
筆箱に入れてみて、ニヤニヤする。
パステルカラーの多い筆箱の中で、存在感を放っていた。
取り出して、ノックして、また口許がにやける。
ついつい他のペンと並べて写真を撮って、青木と彩夏に送りつけてしまった。
彩夏からは、『珍しい色だね。ミハネはなんでも似合う~』と返ってきたが、青木からは写真が送られてきた。
『俺も筆箱にいれた』とメッセージ付きで。
筆箱も気になってしまったが、背景に少しうつっている青木の勉強机が気になってしまった。
写っている範囲は狭いが、書きなぐった数式の紙が写り込んでいて、青木の努力が垣間見えた。
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