第18話 探偵部遠征

 今日も暑い。青空が広がり、白い雲とのコントラストがきれいだ。日陰に入ってパタパタと手で扇ぐ。生暖かい空気が顔に当たるが、それすら気にならないくらい浮き立っていた。

 美羽は待ち合わせの駅前広場にたって、ワンピースの襟を直す。


──大丈夫かな。


 昨晩、押し入れの収納ケースをあけ、入っているものを引っ張り出した。下の方まで引っ張りだせば何かあるかと思ったのだが、やはり着なくなった服にはそれなりの理由があったらしい。少し小さいものや、子供っぽいものばかりで特別なお出掛けに着てくるようなものではなかったのだ。

 しかたがなく、今年買ったばかりのシンプルなワンピースを着てきた。


──こんなことなら、もっと可愛いワンピースを買っておくんだった。


「おっはよ~ミハネ~。ミハネはいつも可愛いね~」

「もう、サヤったら、大袈裟」

 彩夏の言葉に、可愛く見えるのならと少し安心した。

 「なに持ってきた?」と二人で持ち物を見せ合っていると、辻と北野がやってくる。西原、青木がついたあと、多香子が息を切らせて走ってくる。

「多香子ちゃん、大丈夫?」

 ゼェゼェと肩で息をしている多香子の背中をさすりながら、青木の号令で歩き出した。まだ肩で息をしながら「間に合ってよかった」と慌てている多香子は、困った顔をして愚痴をいう。

「出掛ける直前、チビが朝御飯ひっくり返しちゃって~。もう、ホント!! 楽しみにしているときに限って、そういうことするんだから~」

 最低限片付けて、あとは兄弟に任せてきたらしい。




 冷房が効いた電車に乗りやっと汗が引いてきた頃、目的地の最寄り駅で降りる。少し歩いて博物館に入った。大きな建物に驚いていると、13HRの男子チームと青木と女子のチームで分かれて、どちらが早く謎を解けるか競争しようということになった。辻チーム対青木チームだ。美羽は足手まといにしかならなそうだったが、彩夏は「足で稼ぐぞ~」と張り切っている。「走っちゃダメだよ」と多香子がいうが、彩夏はお構いなしだ。

「じゃぁ、これから始めましょう。よーいどん!」

 辻の掛け声で、皆にパンフレットに齧りつく。作戦会議が聞こえないように自然にジリジリと距離を取り、丸くなって考える。

 初めは展示の中からキーワードを探し出すようだ。早歩きでどんどんキーワードを探し出しているのは、彩夏と北野。美羽は、圧倒されている多香子の腕を取り、青木が持つパンフレットを覗き込んだ。

 青木と一緒に次の謎を考えていると、彩夏がキーワードを集め終わったようだ。この時点では辻チームの一歩リード。途中で北野が西原を巻き込んで二人で探していた。

「あっ!ちょっと場所変えよう」

 青木がなにか気がついたらしい。




 空腹を感じるころ、青木と辻が頭を付き合わせている。

 張り切って始めた謎解きだが、思いの外難易度が高く行き詰まった。美羽たちは軽く腰を下ろせるところで疲れはてて二人を見ていた。北野は西原をつれて、展示物をいじっているはずだ。結局二人は協力して謎を解いた。その頃には北野と西原も美羽たちにならんで座っていた。

 清々しい顔の青木と辻を見て、解けてよかったと思う。

「お待たせしました」

 結論を教えてもらい、皆で最後のキーワードを入力すると、最後の謎が解けたことを示す画面が現れた。

「やったぁ~!!」

 途中から堂々と遊んでいた北野が、大きな身振りで喜ぶので笑ってしまった。





 辻がお昼ご飯を食べる場所に選んだ公園は、バスケットコートや時間貸しのテニスコートがある大きな公園だった。中央には芝生の広場が広がっている。

 夏休みの平日とはいえ、日陰はシートでいっぱいだった。随分探して見つけた日陰に全員分のシートを引き、お昼ご飯にする。お弁当を広げたり、コンビニの袋を取り出したりと皆様々だ。

 美羽も親にお願いして作ってもらったお弁当を開いた。


──青木くん、おにぎり4つだ。おにぎり、好きなのかな?


 今日の博物館の話や、学校での話をワイワイと好き勝手に話ながらお昼ごはんは終わった。

「ジャーン!!!」

 北野が効果音付きでリュックから取り出したのはフリスビーだ。

 それを見た彩夏が一番最初に飛び付き、皆を誘ってシートから飛び出していった。

 食べ終えていないお弁当を飲み込もうとモゴモゴしていると、青木が隣に座った。

「俺が待っててやるから、焦るな。詰まらせるぞ」

 「ん~」と、涙目になりながら青木を睨むが、笑われただけだった。

 しばらく話さなかった青木が、美羽の食べおわるのをまって口を開く。

「毎日、勉強の確認連絡してるけど、もういらないよね。ミハネはちゃんとしてるのに何時までも連絡して悪かった」

「へ?」


──どういうこと? 全然嫌だって思ってないんだけど。


「だからさ、もうしないから」

「えっ」


──そんなこと言わないで欲しい。内容が勉強とはいえ、私は青木からの連絡嬉しかったんだから。まぁ、そりゃあ、勉強以外のことも送って欲しいなとか思ったけれど………

 これって、なにも言わなければ連絡なくなっちゃうやつだよね!!


「いぃ~」

「ん?」

 青木が美羽の方に顔を向けたのがわかる。

「いぃぃ~やぁっ!!」

 裏返った声に顔を赤らめながら青木の方を向くと、青木は意味がわからないようでポカンとしている。

「青木君からの連絡なくなっちゃうのは嫌! そりゃ、勉強以外の話の方が嬉しいけど」

 一度言い出せれば、後の言葉はスラスラと出た。

 いつも自信満々の青木が、こんな顔をするのかというほどの呆けた顔。ゆっくり顔に手を持っていくと、口を覆う。

「えっ?」

「もう! 何回もいわない」

 そう上目使いに見上げれば、真っ赤になった青木がいた。

「ミハネさ~ん。食べ終わったのなら遊びましょ~」

 辻に声をかけられ腰をあげる。

「だから、連絡やめるなんて、嫌!」

 そう言い捨てて美羽がフリスビーに混ざった後、青木は立てた膝の間に顔を伏せてしばらく動かなかった。

 子供っぽい遊びに青木が付き合ってくれるはずがないとほとんどのメンバーは思っていたので気に止めなかったが、辻だけは様子の違いに気がついたようだった。




「お~い。暑いから休憩するぞ~」

 日陰にいる青木が叫ぶ。

「お前、日陰にいただろ」

 北野の文句に、「お前らは夢中になると時間を忘れるだろ」と言い返している。

 遠くから、男の人の二人組が近づいてきた。上下スポーツウェアにコンビニの袋を下げている。顔を伺うように近づいてくるのだが、誰かの知り合いだろうか?

「あぁ! やっぱり! 小林さんだっけ?」

「はい!?」

 話しかけられた彩夏の緊張が伝わってくる。

「あぁ~、藤崎って知ってる? あの、藤崎彩音」

 男の人二人組は、チラチラと回りを気にしながら問いかける。

「はい。先輩ですが……」

「仲いい?」

「部活の先輩としては良くしていただいていますが、プラーベートでは……」

「あぁ~、そっか。ありがと」

 そう言うと、広場を横切っていった。向かった方向はテニスコートのある方向だ。

「サヤ? 知り合い?」

 日陰に向かいながら問いかけると、彩夏は広場を歩く二人組を振り返って首をかしげる。

「男テニの先輩で、渡辺先輩と大島先輩っていうんだけど、藤崎先輩のこと、聞かれた。なんだろ?」

「藤崎先輩?」

「女テニの先輩で、めっちゃうまい人。すんごい美人だしね」

 彩夏がテンション高く美人と言うのだ。相当な美人なのだろう。

 辻や青木が順番に彩夏に聞いて、彩夏は3回も説明することになった。

「もう! 探偵部ってめんどくさい~!!」

 

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