第15話 お弁当ランチ
警察の人に連れられて、交番に行く。好奇の目線が向けられる。居心地が悪く感じていたら、青木がそっと人の多い方を歩いてくれた。
チラリと青木を見上げる。
「もう帰っちゃってるかと思った」
青木は、数秒思考してから顔をしかめた。
「あの後、もう一騒動あって、ちょっとかかったんだ。例の三人が西原に文句を言ったんだよ。あいつら同じクラスだろ? 関わってこなけりゃいいのに、わざわざ突っかかってくるなんて、言い負かしてやったさ」
フン!と鼻を鳴らす勢いの青木に、少し不安になる。
──えっと、それって、大丈夫なのかな?
まぁ、青木にこてんぱんに言い負かされて、もう歯向かう気もないのだろうが。
「ミハネこそ、遅くない?」
「タカコちゃんと寄り道しちゃった」
「さっきのとは別に?」
──ちょっと水着とか恥ずかしくて言えないよ
「うん。内緒」
明らかに不機嫌になる。
──やば~。でも、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだから
「青木君、何という顔をしているのですか? 着きましたよ」
「本領発揮でしょ」と、辻の言葉で青木は気持ちを切り替えたようだ。
辻と西原が交番に駆け込み、北野が動画でおさえ、青木が助けに入る。青木が近づいてきたところで、おじさんは逃げてしまったが、北野の動画にはしっかりと写っていた。ただ、小さすぎるし、声まで入っていない。
「実は、GWにウィンドウショッピングしていたら声をかけられたんです。バイトすればそれも買えるよって。うちは貧乏で、っていうか、普通だと思うんですが、子供が多いのでお小遣いが殆どもらえなくて……。だから、すごい、いいなって思っちゃったんです。」
美羽が、多香子を励ますように腕をさする。その様子を見て、青木が大きくため息をついた。
「でも、いざ仕事ってなったら、怖くなっちゃって、無理ですって言ったら、誰か代わりを連れてくればお金をあげるよって言われたんです。逆に誰も連れてこれなければ、自分で仕事をしろって、高校にばらすぞって、前は優しい人だって思ったのに、急に怖い人になって」
話ながら、多香子の目からボロボロと涙が溢れ、嗚咽が漏れる。
「ごめんなさい」
嗚咽と共に溢れ出す、大きな後悔。
「誰に謝ってんだよ。謝るのは美羽にだろ」
青木の文句はバッチリ聞こえて決まったようだ。
「美羽ちゃん、ごめん。ごめんね~」
抱きついてきた多香子を受け止め、ポンポンと背中をさする。美羽の目にも涙が浮かんでいた。
「私は大丈夫~。タカコちゃん、怖かったね~。もう大丈夫だよ~」
青木の方から「まったく、しょうがないな」と言う呟きが聞こえた。
その後、美羽達は帰された。多香子は残されたが、親が呼ばれるらしい。心配する美羽達に、警察官は男から連絡が来ないようにするノウハウを親にも説明するといった。もちろん学校にも連絡がある。
美羽は、多香子に何度も「明日ね」といってわかれた。
次の日、一時間目の予定が変わり学校集会となった。感染症が流行ってから体育館に集まることは減ったので、今回も各教室で画面に写った先生の話を聞くかたちだ。
先生の話は二点。
高校生を援助交際に誘う大人がいるので、気を付けるようにということ。
校内の動画を許可なくあげないように、ネットの使い方には十分注意するようにということ。
いつも通り難しい顔で話す先生だったが、今回は他人事ではなく真面目に聞いた。
──タカコちゃん大丈夫かな?
学年集会が終わると、犯人捜しが始まった。いつもなら情報がなければ一頻り話したあと、すぐに話題に上らなくなってしまうのだが、今回は目撃されていたらしい。
「昨日、お前ら警察といなかった?」
クラスの中に「あいつ、青木によく聞くな」「よくぞ聞いてくれた」という好奇の目が向けられる中、動じない青木はいつも通りだ。彩夏がそっと美羽のとなりに来てしゃがむ。
「あぁ、いたぞ。犯人の男は警察が追ってる」
興味のないふりで聞き耳を立てているらしいクラスメート。
「へぇ~」「やっぱり~」という呟き。
「青木、お前自分で捕まえたりしないのか? 探偵だろ?」
じゃれつくように青木に肩を組んで、楽しげにする。
「バカいうなよ。ここからは、探偵の仕事じゃないっつうの」
「あはは~」と大きな笑い声が上がった。
「お前なら、それくらいやるかと思って」
「見かけたら通報はするさ」
「まぁ、大変だったな」と青木の背中をバシバシ叩いている。青木はたまらず逃げてきたようだ。
美羽はその様子を見ていて、多香子のことが心配になった。
「ねぇねぇ」と、青木の横腹をつつく。
「うわぁ~!! なんだよ!」
飛び上がった勢いで、美羽の机がガタンと鳴った。
「ご、ごめん」
立ち上がるとつま先立ちして、青木に耳打ちする。
「タカコちゃんのクラスって、どこか知ってる?」
青木は困った顔で、不機嫌そうにする。
「え? 言いたくない」
「むぅ」と美羽が膨れると、彩夏が美羽に荷担する。
「青木が教えてくれないなら、私と探しに行こ~」
青木は、「はぁ~??」と大きな声で抗議する。
「なんで、小林はミハネの言うこと何でも聞くんだよ?」
彩夏は、胸を張って自慢げに言う。
「私だって、ミハネに良いとこ見せたいんだからね~」
部活で焼けた、褐色の肌から覗く白い歯が健康的だ。青木は諦めたように首をすくめた。
「はぁ~、14HRだ。その代わり俺も行く」
昼休みになるとお弁当をもって14HRに向かう。
「
青木は、13HRに向かった。
美羽が14HRの入り口から覗き込むと、多香子が一人で机に向かってお弁当を広げようとしているところだった。ガヤガヤとグループで丸くなってお弁当を囲んでいるなか、一人でポツンとしている多香子は非常に目立った。
「失礼しまーす」と小さく呟き、多香子の机まで行く。グループで盛り上がりながらお弁当の準備をしていて、美羽達のことを気にする人はいなかった。
「多香子ちゃん。一緒にお弁当食べよ」
そういうと、美羽は多香子の腕を取った。
「う、うん」
「お弁当、運ぶね~」
彩夏が開きかけたお弁当の包みをもう一度戻して持ち上げる。
「こっち、こっち」と多香子を引っ張り、急ぎ足で数学準備室に向かった。
「せんせ~い。お邪魔しま~す」
笑顔で迎え入れてくれた後藤先生は、「関口さん大変だったわね~」といいながら、ジュースのペットボトルを並べ始めた。「好きなものを取ってね」と一本ずつ先生の奢りらしい。
「急に、お昼食べさせて欲しいってお願いしたのにすみません」
辻は礼儀正しく先生に感謝をのべた後。スッと北野が手を伸ばしたのを見て、美羽に早く取るように促す。
「えっ、でも辻君も……」
「もう!めんどくせー。 ジャンケン!! ほら、北野、戻せ」
結局、青木の一言でジャンケンで勝った人から早い者勝ちになった。
「なんか、僕もすみません」
西原が言うと、「私もいいんですか?」と多香子もオドオドと受け取った。
「今日こそは、絶対に夏休みの計画を立てますよ!!」
辻が張り切っているのが面白くて美羽は笑った。
「放課後な」
青木が言うと、北野も西原を誘う。
「僕も行っていいんですか?」
西原は、青木に聞く。
「ミハネがよければ俺は気にしないぞ」と言うので、美羽が「いいよ~」と軽く答える。西原は、涙目になりながらお弁当を口の中に詰め込んだ。
「多香子ちゃんも行く?」
「え? いいの?? でも、あんまりお小遣いないの……」
美羽達には昨日警察で話していたので、スルッと声になった。
「じゃあ、あまりお金のかからない日程にしましょうね」
「でも、それで、面白くなくなっちゃったら申し訳ないし……」
多香子が小さくなるが、辻も皆も気にしていないようだ。
「そこは、決めてみないとわからないですね」
「お前んちって、だれか、店やってたり、農業やってる親戚っていないの?」
青木が急に言い出したことに、多香子はかなり考える。
「いるかも?」
「手伝いって形でお小遣いもらったら? お前、そんなに大金が必要ってことじゃないんだろ? バイトは原則禁止だけど、お手伝いなら大丈夫だろ。本当はバイトだって原則ってわけで、理由があればできるんだろうけど、今は先生方の心証が悪いから、手伝いの方がいいんじゃないか?」
青木の言葉に、多香子は「そっか」と呟く。
「本当に、お小遣いくらいもらえればいいの。親に聞いてみる」
美羽は、「青木君優しい」と思い見つめていると、「なんだよ! 早く食べないと午後の授業に遅れるぞ」と、明らかに照れていた。
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