第11話 掃除とその結果

 次の日は、青木と辻がデスクに残されているものを整理するためのグッズをもってきていた。ちょっとした箱やラベルなどである。

 残されていた段ボールも使い、デスクの上にバラバラと置かれていたものは分類して片付けた。分類できなかったものも、箱にまとめた。

 そこまで終わると昨日中断されてしまったボードゲームの2戦目をやる。コツをつかんだのか、今回は青木が勝った。




 数学準備室にいる間、飯塚先生が来るのではないかと身構えていたが今日は来なかった。昨日カメラを引き出しにしまって帰ったので、もしバッテリーが残っていれば映す景色が違っていて確認しに来ると思ったのだ。

 来なかったいうことは、バッテリーが切れていて、引き出しにしまわれたことに気がついていないと結論付けた。




 後藤先生の丸つけ作業は終わったらしく、明日からは夏休みに出掛ける予定を立てようという話になった。青木は最後まで子供だましと言っていたが、辻が説得してしまった。

 不承不承といった様子の青木に美羽は笑ってしまった。

──青木くんの方が意地をはって子供みたい。




 帰り、何となく全員で駅に向かう。同じ時間に学校を出て、駅に向かうと自然とそうなるのだ。

 美羽が歩く前で、北野がふざけ、青木と辻が突っ込み大騒ぎになっている。何となく巻き込まれないように距離をとって歩いていると、駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「美羽ちゃん! 一緒に帰ろう!」

「ひゃ!  ビックリしたぁ~。タカコちゃん?」

 多香子は美羽のとなりを弾むように歩く。

「ねぇ、今から寄り道しない?」

──えっ!どうしよう……

 押し黙ったまま歩いていると、赤信号に捕まっていた青木達に追い付いた。

「ミハネ? 友達?」

 探偵部で話した多香子の見た目と合致している女生徒の出現に、青木がすかさず声をかけた。

「あのタカコちゃんって言うの。寄り道しないかって」

 美羽は、青木だったらどう説明するかを考えて口にした。「前に話した」なんて説明はしないだろう。初めて紹介するような話し方で青木なら伝わるはず。おそらく辻も。

 北野が不用意な発言をしなければいいが、辻が小突いているのが見えた。

「寄り道か?? どこ、行くんだ?」

 青木が興味津々といった表情だ。


──青木くんってこんな子供っぽい顔もするんだ。


「あぁ~。ごめ~ん。友達と一緒だったんだ!? また、誘うね~」

 多香子も駅に向かうのかと思ったら、脇道を曲がって走っていってしまった。

 美羽が首を傾げて、多香子のいなくなった方向を見ていると、青木がすぐ隣を歩き出した。

 肩が触れ合いそうなくらい近い。

「前もこんな感じか?」

「うん。この前もサヤが一緒に行きたいって言ったら、走っていなくなっちゃったの」

「変なやつだなぁ~。俺が近づいたって逃げる必要なないだろ? 寄り道をやめても、駅まで一緒に行けばいいと思うんだ。それを走って逃げるなんて、なにか裏があるな~。ただ、あの顔、13HRには、いなかったんだよな~」

 青木はただ単に考えていることを口にしているだけのようだ。美羽のぴったり隣を歩いている。

 美羽は青木の体温が伝わってくるようで、多香子のことはどうでもいいくらいドキドキしてしまった。

 隣の青木を恥ずかしげに見上げる。

「ん? どうした?」

「あっ? な、何でもない」

 急いで下を向いた。

 そのまま歩いていると、ガクッとリュックを捕まれる。

 慌てて顔を上げると、目の前に北野のリュックが揺れていた。

「下向いて歩いてると、危ないぞ」


──助けてくれたのはわかったけど、リュック引っ張らなくても……





 期末テストの結果もほぼ帰ってきて、まぁまぁの出来だった。赤点はない。全部平均点ちょっと下ってところだ。英語だけちょっといい。

 それに絡めて、学校で文理選択ガイダンスというものがあった。

 文系理系の選択のしかたや、教科の選択方法など体育館に集まって話を聞いたのだ。

 美羽はなりたい職業もないし、得意な教科もない。苦手な教科なら数学や理科である。

 ガイダンスでは、なりたい職業や学びたいことなどで決めるように言われた。

 苦手な教科から消去法で決めるのは良くないとは言われたものの、美羽にはそれしか判断するものがなく、文系だなと思っている。

 青木は理系だろうから、来年は同じクラスになれない。少し寂しいなと思っていた。


──あいつは何だってできるんだから。敢えて言うなら歴史が苦手だって言っていたし、理系だよね。


 美羽は自分のことだけでなく、青木のことまで苦手で考えてしまった。




 違うクラスになっても、私は探偵部で会えるんだし!っと強がりながら、数学準備室に向かう。

 今日は夏休みの計画だ!

「小林彩夏がだな、どうしても行くって言うから、小林彩夏の絶対に参加できない日を聞いてきた」


──フルネーム……


「そうですね。小林さんもテニス部がないときは来てくれているんですから、探偵部の一員ですよ。仲間はずれはかわいそうですよ」

「あいつは、ちょっと賑やかすぎる」

 美羽は二人の言い争いで目を白黒させていた。

「それが彼女のチャームポイントですね」


──やっぱり辻君、優しいな


「でもなぁ~」


──青木君、サヤのこと嫌い!?


「青木君? ミハネさんが、小林さんに取られるからって、嫌がりすぎですよ。そんなに言うなら、二人だけで出掛ける約束を取り付ければいいんですよ」


──辻君~!!??


「だって、ミハネは嫌なのに断れないかもしれないだろ?」


──それを気にしていてくれるの!? そ、その前に、二人きりってところは否定しないの……?


「まぁ、青木君が行きたいところは、変なところが多そうですからね~」


──えぇ~!! 変なところってどこ??


 何となく青木に目線を向けると、「変じゃない!」と膨れた。

 北野が、「青木は探偵を見に行くんじゃないか?」と言い出し、「探偵ってどこで見るんでしょうね?」と辻が突っ込んだので、青木がどこに行きたいか当てるゲームが始まってしまった。

 青木はブスッとしたままだと思っていたら聞いていたらしく、「そこは一人で行くところだ」とか、「それはないな」とか一緒に話し出してしまっている。


──私が恥ずかしいんだけど……




 コン、コン、コン


 後藤先生が返事をすると、入ってきたのは飯塚先生。

 部屋の中を見回して、固まっている。


──カメラ? かな?


「これは、どういうことだ?」

 飯塚先生は青木に向かって聞いたのだが、後藤先生が立ち上がり、「これとは、どれのことでしょう?」と聞いた。

「あっ! いや、その、部屋が綺麗になっていたので、どうしたのですか?」

 デレッとしただらしない顔で、今にも手を握りそうなくらい近づいた。

 後藤先生は、一歩下がると、困った顔を浮かべる。

「実は、ゴキブリが出まして、彼らに頼んで掃除してもらったのです。隅々まで探してくれましたし、綺麗になって本当に助かりました」

「ゴキブリですか? それは災難でしたね。他にもな・・・いや、何でもない」

 チラリと青木を見ると、後藤先生に向き直った。

「あの、夏休み、どこかにリフレッシュに行きませんか?」

「いえ、まだ赴任したばかりですので、色々やることがありまして、すみません」

 後藤先生は笑顔で断った。美羽にはスマートに断る後藤先生がすごく素敵に見えた。

 飯塚先生は、顔を歪めたが、「また誘いますね」と言っていなくなった。

 後藤先生は、大きなため息をついた。

 辻が夏休みの間は生徒も来ないし探偵部の活動も減るが大丈夫かと声をかけたが、後藤先生は一応作戦を考えてあるらしい。

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