第4話 ルーズリーフ

 GW明け初日は散々だった。

 予想していた通り、課題が終わらなかったのだ。真面目にやったところまでで提出するか、答えを写してでも全部やって提出するかで悩んだ。美羽は散々悩んだ後、途中までで出す勇気など無いことに気付き、最終日の夜遅くから答えを写す作業に入った。

 こんなことなら、悩むのをやめて、初めから写せばよかったのに。

 すべて写し終わったのは、空が明るくなってきた午前4時頃。ボーッとしたままベッドに移動し、意識を失った。

 朝、朦朧としたまま登校し、眠い状態で授業を受けた。地理の白井先生が、顔色の悪い美羽を心配してくれたのだが、それすらも恥ずかしく、涙が出そうになった。


 授業が終わると、一目散に家に帰り、夕飯まで仮眠をとった。夕飯後は彩夏の勧めで早く寝ることにしたのだ。




──昨日は一日、寝ていた気がする……


 校門で駆け寄ってきた彩夏と合流する。

 彩夏は美羽の顔色を確認して「今日は合格!」と言った。

 何が合格なのか分からないが、顔色が戻ったという意味なのだろう。昨日は本当にひどい顔をしていたらしいから。

 まだ少し疲れが残り、本調子ではない。思考が働かない状態で上靴を履く。


 ガサガサ!


──あれ?何か入ってる……


 一度履いた上靴を脱ぎ、中を確認する。

 入っていたのは、折り畳まれたルーズリーフの切れはし。


『連休の間、会えなくて寂しかったよ』


──・・・・!!!!


 全身の体温がスーッと下がり、鳥肌が立つ。鼓動が大きくなり、呼吸が浅く、早くなる。視線を感じ顔を上げると、目があったのは彩夏だった。

「ミハネ?」

「ひぃ~!!」

 ビクっと飛び上がったことでルーズリーフが落ちて舞った。

 彩夏がルーズリーフを拾う。中をみた途端、顔をしかめた。

「え~!キモーい!!」

 彩夏の歯に衣着せぬ言葉にギョッとした後、自分の言葉を代弁してくれていることに気がついた。


──気味が悪くて、キモい


「どうした?」

 彩夏の手から、青木がスッとルーズリーフを抜き取った。

 中を確認すると、「内容も内容だし、名乗らないのは、ありえないな」とビックリするほど冷たい声で呟いた。

 ルーズリーフは青木が持っていってしまった。

 もう触りたくなかったので、ありがたかった。




 授業を受けていても、考えるのは今朝の手紙のこと。

 何の目的で靴箱に手紙をいれているんだろうか?一方的に送りつけられる手紙って怖い。メールやメッセージと違って、実物に触れた感触が、鮮明に思い出されて気持ち悪かった。

 誰が犯人かわかるまでは、一人になりたくなかった。


 クラスメートには、美羽がラブレターをもらったらしいという噂が広まってしまった。

 青い顔でビクビクする美羽に気を使って、誰もその事については口にしなかったが。

 たまに、視線を感じてビクッとする。怖くて堪らなかった。

「今日は、部活休むから、一緒に帰ろう」

 彩夏の言葉に涙が出そうになる。申し訳ないとは思いつつも、一人で帰る勇気がなかった。

 ほとんど喋ることなく、彩夏に付き添われて帰った。彩夏とは反対方向の電車だ。美羽が電車に乗るまで見守ってもらって別れた。




 次の日、電車を降りて改札を通ると彩夏が待っていてくれた。

「ミハネ。おはよう。酷い顔……」

 よく眠れなかったのだ。一人でいるとどうしても手紙のことを考えてしまう。丁寧に書いたと思われる癖のある字が、嫌でも差出人がいることを思い出させる。

「今日もあったらどうしよ~」

 彩夏が、美羽の手を握る。

「後藤先生に相談してみよ!ねっ!」

 美羽は静かに頷いた。




 あまりの恐怖に彩夏に靴箱を確認してもらったが、手紙は見当たらず胸を撫で下ろした。


 昼休みに後藤先生に相談すると、先生達で見回りができると言ってくれた。少なくとも後藤先生は気にかけてくれると言う。

 放課後は、まっすぐ家に帰った。彩夏は心配してくれたのだが、これ以上部活を休んでもらうわけにはいかない。


──明日からは、どうしよう。それに、恐れていた中間テストが近づいてきちゃった……それどころではないのに……




 学校では彩夏にベッタリくっついて過ごした。

 彩夏は青木が怪しいと言う。手紙を二枚とも持って帰っている。証拠隠滅しているのではないかと。しかも最近、教室で姿を見ないらしい。

 そういえば、壁に寄りかかってクラス全体を見渡している青木の姿を、最近見ていない気がする。

 昼休みに何度か後藤先生のところにも行ったが、そのときにも会わなかった。


 帰りは小走りで駅へ行き、電車に飛び乗った。

 家でも、手紙について考えてしまうので、勉強に集中できない。面白動画を見ているときだけが、手紙のことを忘れられる時間だった。


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