第3話 GWの苦悩

 せっかくのGWに、どうしてこんなに課題があるんだろう!? GWの前半はだたの土日休みではないか!? あっという間に過ぎてしまって、出された課題は終わる気がしない!! GWって思ったより少ないのわかってるよね? 大人達のように休めるわけじゃない。平日は、丸一日学校があるのだから。

 っていうか、何でGWって途中に平日があるんだろぉ~??


 心の中で呟く文句が止まらない。


 重たい足を引きずって、校門をくぐると彩夏が駆けてきた。


「ミハネ~!! 今日も可愛いね~!!」

「もぅ。サヤは大袈裟~」


 彩夏に元気をもらい、教室にはいる。GWの途中だったとしても、友達に会えるのは嬉しいんだよね。


──相変わらず数学の授業は、意味がわからないけど。


──はぁ~


──もう絶対! 中間テストヤバい!



 GW開け、少ししたらテストがあったはず。日程は思い出そうとしても、すぐに思い出せるわけもなく、取り敢えず保留する。

 保留しても良いことはないと分かっていても現実を直視できなかった。


「サヤ~! 助けて~」

 美羽が彩夏にすがり付くと、彩夏はギュウ~っと抱き締め返してくれる。

「ミハネ~。可愛い~」

「サヤったら、もぅ。ん~、彩夏様~!! 私の数学を~救いたまえ~」

 美羽が彩夏を拝んだ。彩夏が豪快に笑う。

「今日は、放課後に後藤先生んとこ行ってみたら?」

 放課後なら昼休みより時間的に余裕があるが、彩夏がいない。

「え~!! 放課後じゃあ、サヤは部活でしょ~。一人は無理~!!」

 サヤが、楽しそうに目をキラキラさせた。

「後藤先生、怖くないじゃん」

「あそこまで行くのが無理~」

 人気ひとけの少ない数学準備室の場所で、いるか分からない後藤先生を訪ねて扉をノックする。それが、緊張するのだ。もし、後藤先生以外の先生が出てきたらと思うと、余計に気が重い。

「じゃあ、行きだけ付き合う! これでどうだ!」

 彩夏が手を腰に胸を張る。ポニーテールが揺れ、白い歯が覗いた。

 美羽はしばらく唸った後、彩夏にお願いすることにした。




「ごめんね~。部活遅れちゃうよね」

 重たい荷物を背負って、薄暗い廊下を進む。

「大丈夫、大丈夫! 皆、ダラダラ着替えてるから」

「後藤先生が絶対に居るって分かっていれば一人でも行けるんだけどなぁ~」

 送るためだけに来させてしまったことに、今更ながら申し訳なく思う。彩夏の優しさに甘えすぎて嫌われたくはない。


 数学準備室の扉が空いている。誰か先客だろうか。


 中には意外な人物がいて、絶句する。

 青木 伶馬りょうまだ。


──青木くんって、神出鬼没


 青木は、美羽と彩夏の方を向く。

「あっ! 関口と小林! 探偵部に入らない? 特に関口、依頼がないときなら数学教えてあげるよ」

「へっ?」


──なぜ、私が数学苦手だって知ってるの??

  探偵部って、あんまり興味ないけど、断っちゃいけない気が……断ると嫌われるよね……


 美羽がモゴモゴしているうちに、彩夏が青木を睨み付けた。

「探偵部ってなによ。気軽に誘いすぎだよ」

「正式な部活でも同好会でもないから、テニス部の小林でも大歓迎だよ。二人にとって悪い話じゃないと思うから、考えてみてよ」

 それから後藤先生を見る。

「後藤先生も考えておいてくださいね。絶対、悪いようにはしませんから」

 そう言うと、颯爽と帰っていった。


「何だったの? あぁぁ~!! 部活行かないと!! 後藤先生~、ミハネをお願いしま~す」

「はい。お願いされます! 小林さんは、部活、頑張ってください」

 後藤先生は、可愛らしく笑った。




 準備室の中央にある大きい机に椅子を持ってきて座らせてもらう。先生も自分の机からパソコンを移動して隣に座る。

 腰を据えて教えてくれるらしい。

 説明したあと美羽が計算している間、後藤先生は自分の仕事をしていた。




 美羽はつい先程のやり取りを思い出す。青木から探偵部に誘われたとき、一人だったら断れなかった……。彩夏がいてくれて助かった。しかも彩夏はハッキリと断ったわけではなく、保留にした。美羽にはできない芸当だ。

 美羽は、人からの誘いを断ることができない。断ったら嫌われると思い、嫌われることを極端に恐れていた。


 彼女が小学生のとき、運動会の練習中、最後の練習を前に一言「疲れた~」と言った。彼女としては皆の気持ちを代弁したくらいのつもりだった。しかし、それを聞いたクラスのリーダーの女子の反応は、美羽が理解できないほどの強烈なものだった。

「はぁ~?? ちょっと可愛いからって、我儘なんだよ! 皆が頑張っているときに最低! 生意気なんだよぉ!」

 そのころ、クラスの女子のほとんどが憧れる男の子が、美羽のことを好きだと広まり、その腹いせだった。しかし、そんなこととは知らない彼女の中で、大きなしこりとして残った。

 小学校の間は、ヘラヘラと笑いリーダーの女子には逆らわないようにして乗りきった。

 中学に行ってその女子からの当たりは弱まったものの、先生が少し甘い態度をとったとか、先輩に声をかけられたとか、何かある毎に当たりがきつくなった。

 ヘラヘラと笑いながら言うことを聞いているうちに受験期が訪れ、先生にばれたら高校進学に響くと美羽から離れていった。

 リーダーの女子とは違う高校に進学した。そのころの美羽を知っている人は同じ高校に二人しかいない。しかも男子だ。その二人ともクラスが違う。

 彩夏に出会って、楽しく過ごせていることを感謝しているものの、そのころの経験から断るということが恐怖だった。




 1時間ほどが経った頃、ノックの音が聞こえる。後藤先生が返事をすると、扉を開けたのは男の先生だった。

「あっ、飯塚先生、どうされました?」

 飯塚先生と呼ばれた頭の良さそうな先生は、美羽を見ると途端に話しづらそうな顔をする。

「あ~、いや、特段これっていう用事はないんですが……」


──何しに来たんだろう?意外と先生達って自由にやってるんだな~


 「何でしょう?」と言ったまま待つ後藤先生に、飯塚先生は頭を掻いて、「今日じゃなくても大丈夫です」と言って出ていった。

 後藤先生がため息をつく。

 美羽が心配になって声をかけると、「大丈夫よ。青木くんにしてやられた気がするわ」とますます深く息を吐いた。

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