第10話 初デートは大切に③

 イルカショーを見るために私と由香里はステージ最前列の席にレンタルできるレインコートを身に纏い座っていた。


 お昼過ぎの時間も兼ねあってかカップルや、親子ずれの来客たちで満席に近いほど埋まっている。


「美波ちゃんすごい人の量だね」

「うん、やっぱり土曜日の昼間だからかな?」


「多分ね、私たちみたいな学生カップルもちらほら見えるし、学生がデートするなら次の日が休日の土曜日が都合がいいんじゃないかな」

「どういうこと?」


「それは…まぁ私たちが毎日やってるようなことは結構体力使っちゃうからかな…」

「?」


 由香里が赤面しつつ何を言ってるのかわからないけど、土曜日に学生カップルが多いのは見ればわかるほどに居るようだ。


 私は、小学生に見られているだろうからどうせ仲のいい姉妹などと思われてそう。何かしら由香里の恋人だとわかるようにしないと、午前中みたいに変な人に声を掛けられかねないもんね。


「美波ちゃんそろそろ始まるみたいだよ」

「うん!楽しみ。えっと…由香里、手繋いでいい?」

「え?うん、いいよ」


 手を繋いで始まるイルカショー、トレーナーさんの合図に沿ってイルカちゃん達がジャンプしたり、上を向いてボールを器用に口で落ちないようにとても綺麗なパフォーマンスをしている。


「由香里イルカ可愛いね!」

「ふふ、そうだね」


 由香里はイルカでは無く私を見ているけどそれで楽しいのだろうか。まぁ笑っているから楽しいのかな。

 

 イルカショーも終盤に近付いてきて、こちらに近づいてくるイルカちゃんとトレーナさん。


『それでは、イルカさんとのふれあいのお時間で~す。まずは誰にしようかな~?あっそこの綺麗な茶髪のお姉さんの妹さんかな?こっちに来て―』

「え、わたし!?」


「ふふ、美波ちゃん行ってらっしゃい、こんな期待滅多にないから楽しんで来て!」

「わ、わかった、楽しんでくるね」


 トレーナーさんの呼びかけに答えるようにイルカちゃんの前に立つと、台が用意された。まぁそうだよね、これじゃ届かないし。


 私の肩くらいまでガラス柵があるので届かないのを見越して台を用意してくれたようだ。高校生になって大勢の中でこれはさすがにちょっと恥ずかしい。


『はい、それでは今からイルカさんから熱いキスを貰いまーす。準備はいいですかー?』

「え、キスですか?…まぁ、はい」


『はい、では少し前かがみなってイルカさんがキスがしやすいようにしてくださーい』


 そう言われ指示通りに前かがみになり、ガラス柵の奥にいるイルカちゃんと目があった気がした。


 トレーナーさんがカウントダウンを始め三、二、一との合図でイルカちゃんと唇が触れた。少しイルカちゃんの勢いが強くて、ちょっと痛かったけどこれはこれでいい思い出になった気がする。


『はーい、ありがとうございました!イルカさんもこんなかわいい子とキスができてうれしそうですねー!』


 私とイルカちゃんとのふれあいの時間は終了し、由香里の隣に座りまた手を握った。すると、少し由香里の握る力が強く感じ横を見ると、


「私も美波ちゃんとのふれあいの時間が欲しいなぁ、だから—―」

「んっ――、ちょっ、こういうところでキスするのはダメ」


 もう…誰かに見られたらどうするの?するならせめて家の中でしてほしいな…

 由香里はイルカにまで嫉妬してしまう子なのだろうか。困った彼女だよ、そう思ってイルカちゃんの方へ向きなおすと、トレーナーさんがこちらをみて驚いたような表情をした後こういった。


『カップルさんだったんですねー!可愛いお二人のキスに私見惚れてしまいましたー!』


 と言われてしまい、私と由香里は俯きながら顔をお互い赤くしていた。周りの視線が私たちに向いたようで恥ずかしくなる。


 そんなこともありつつ無事イルカショーは終了し、再びお土産コーナーに足を運んでいる最中、後ろから声を掛けられてしまった。


「あーやっぱり小泉じゃん!」

「え?あ、かな」


 そこにはクラスメイトの花崎香苗はなさきかなえさんがいた。いつも休み時間に小泉さんと一緒にご飯を食べている人だ。彼女は由香里にも劣らない綺麗な顔をしている。


「やっぱりー!さっきのイルカショーの時キスしてるの見てたよー!小泉も恋するとあんな顔するんだねー!えっと、でこっち子は彼女さん?」

「あ、初めまして相沢と言います」

「え!もしかして同じクラスの相沢…美波さん?」


 私が軽く頷くとほほぅ、と彼女は顎に手を置き私と由香里を見やってお似合いだねと呟き、少しすると私に近づいてきて私と目線を合わせるように屈み話しかけてきた。


「こうやって話すのは初めてだよね。私は花崎香苗はなさきかなえ、かなちゃんって呼んでほしいかな」

「え、うん…かなちゃん?」


「ハッ!可愛いぃ!小泉この子貰っていい?私の彼女にしたい!」

「ダメに決まってるでしょ。美波ちゃんは私の大切な彼女なんだから」


 そういうと由香里は後ろから私を抱きしてめてくれた。まるで自分の所有物かのように強く抱きしめられて、少し痛かったがこれはこれで幸せ。


 かなちゃんは分かりやすく落胆し、それじゃまた学校でね~と元気よく手を振りながらどこかへ行ってしまった。


「あ~あ、美波ちゃんの存在がばれちゃった。これまずいかもな」

「え、どうして?私才川さんには言ってあるけど…」

「いやぁ、あの子口軽いから心配で」


 由香里は苦笑しながら私の手を引っ張って歩き出した。


 由香里side


 今は、帰りの電車の中。人は少なく、窓の外は日がだいぶ落ちてきて空が赤く染まりもうすぐ夜になる。


 美波ちゃんは私の隣に座って、帰りに買った大きなグソクムシのぬいぐるみを大事そうに抱えながらコクンコクンと頭を揺らしていた。初デートで疲れちゃったのかな?


「美波ちゃん、寝てていいよ」

「うん…ありがと…すぅ…すぅ…」


 そう美波ちゃんが言うと幸せそうな顔をしながら、私の肩に体重をかけるように規則正しい寝息を立て始めた。そんな彼女の顔を見ていると私まで幸せになってくる。


 今日が終わればデートは終わり、いつもみたいに我慢せず美波ちゃんを犯し放題。そう思うと興奮が止まらないけど、今日の彼女はいつもと違う表情をしていた。

 

 本当に幸せそうな顔、あんな顔これまで見たことなかった…もしかして美波ちゃんは今日みたいに普通の恋人みたいな関係の方を望んでいるのかな。もしそうなら…


 私が我慢すれば、また美波ちゃんの幸せそうな顔が見られる。でもそれは私にとって辛い選択なようにも感じる。


 だって私は、美波ちゃんをぐちゃぐちゃにしたい、私だけを見る美波ちゃんで居てほしい。そのために、毎日毎日壊れてしまいそうになるまで犯し続けて私に依存させようとして来た。もしそれが美波ちゃんの望んでいない物なのだとしたら、ありのままの私では彼女を幸せにはできないのかもしれない。


 美波ちゃんは優しくて、気遣いもできて、料理も上手で、なんでも受け入れてくれる。そんな彼女を知ったら今日の花崎にみたいに彼女にしたいという存在が出てくる、私よりもっと相応しい人がいるかもしれない。

 でも美波ちゃんは私の彼女だ、誰にも渡したくない。


 私は独占欲が強い方なのかな。妹にだってこんな気持ちを向けた事はない。これが恋なのだとしたら、私は歪んでいるかも。


 まだ純粋で綺麗な瞳をした彼女をこのまま私のせいで汚してしまっていいのだろうか。そしてふと思う…

 もし、普通の恋をしたいと美波ちゃんが望むのなら…私はあのシェアハウスから…


「由香里…すき…」

「え?」

「…すぅ…すぅ…」

「なんだ、寝言か…」


 かわいい顔で寝ている美波ちゃんは今どんな夢を見ているのだろうか。私が出てきてたりするのかな?


 一度電車の中を一周みて、


「美波、私も好きだよ…」


 私は彼女の唇にキスをし、を肩に感じ降りるまでの時間、彼女の温もりを噛みしめるのだった。

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