第8話 初デートは大切に①

 由香里side


 今日は美波ちゃんとの初デート。楽しみ過ぎて夜あまり眠れなかったけど大丈夫!着替えて部屋を出たら美波ちゃんが何も身に着けないで抱き着いてきた来たときは、つい手が出そうになったけど今日は我慢。


 どうして我慢をしているかというとこの前美波ちゃんから『好きになりたいから』ときちんと告白され私はそれに素直に答えたいと思ったからだ。


 好きになってもらうにはどうすればいいか迷ったけど、毎日身体を重ねてばかりだと前みたいに勘違いされてしまう…そう考え、今日は美波ちゃんに手を出さないと決意した。


「今日は我慢よ私!」


 美波ちゃんも私も初デートだしすごく楽しみで緊張するけど、何より美波ちゃんにもっと私を知ってもらいたいし私も美波ちゃんをもっと知りたい。

 もし、美波ちゃんに何かあったら絶対に守るんだから!まぁ…そんなこと滅多に起きないけどね。


 そんな気持ちを抱えながら、目的地に電車で二人身を寄せ合い向かうのだった。


美波side


 初デートと言われ、少し緊張したけど目的地に着くまで電車の中で揺られる中由香里は私の手を握ってくれている。いつの間か緊張よりも安心感の方が勝って、こんな時間がいつまでも続いてほしい、そう思ってしまう。


 由香里は本当に綺麗で、肩が触れ合う距離に座っているとついつい唇に目が吸い寄せられてしまう。才川さんの言っていた言葉が少しわかった気がする。


 いつも私の身体を見るときはロリコンのおじさんが水着姿の小学生を遠目から舐め回すような気持ち悪い視線を送ってくるけど、今日の由香里からは一切感じなかった。多分、由香里なりに気を遣ってくれているのだろう。私の告白以来、私に好意を持ってもらうために頑張っているのも知っている、そんな彼女に惹かれている私は結構単純なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、三駅ほど過ぎたあたりで由香里が降りるよと言って私を引っ張ってくれた。いつもの変態とは大違いでなんだかドキドキしてしまう。このまま胸の高まりが収まらないと私の方から襲っちゃいそう…でも由香里は今日のためにいろいろ考えてくれたんだよね、だから私も初デートを大切にしないと。


「着いたよ」

「おぉ、水族館、由香里どうして水族館選んだの?滅茶苦茶楽しみなんだけど」

「ふふふ、それは美波ちゃんがソファで水族館の動画よく見てたでしょ?だから一緒に来れたらなって」

「……見てくれてたんだ」


 少し気恥ずかしさはあるものの、私のことを真剣に考えてくれてた事に感激した。そのまま手を引っ張られるように中に入っていく。都会の水族館の水槽は大きくて、何よりもお魚との距離がとても近い。まるで本当に海の中に入ったみたいですごく幻想的…デートで定番と言われるだけある。デート…ほんとに由香里とデートしてるんだ。

 少し落ち着かなくてそわそわしていると…


「美波ちゃん水族館は初めて?」

「うん、小さいころに一回行ったきりで…こ、恋人とは初めだよ?」

「そ、そっか…」


 お互いに意識してしまっているのか普段なら普通に話せるのに、少し声が強張っている気がする。顔もやけに熱い気がするし、隣を歩く由香里の顔もうまく見れない。

 しばらく無言が続く中あるものが目に留まった。


「あれなんだろ?」

「ん?あー、あれはウミウシだね。綺麗な模様が特徴的で海の宝石って呼ばれているみたい。美波ちゃんこういうの興味あったりする?」

「うん、ちょっとかわいいかも」


 ウミウシの水槽をまじまじと見ている私に由香里は微笑ましい笑みを浮かべているのだが、私はそれに気づかなかった。ウミウシが綺麗で夢中になっていたから。


「ねぇ、美波ちゃん他のも見よ。あれとかどうかな?ふれあい体験だって」

「どれどれ?お~!何この子、ダンゴムシみたい」

「それは、オオグソクムシって言うみたいだね。ちょっと私その見た目は苦手かな」

「え、可愛いよ?ほら、手触りもすべすべでさ。由香里も触ってみなよ」

「うん、じゃあ。ほんとだ、すべすべ」

「ねぇ、由香里?なんで私のほっぺ触ってるの?」

「触りたかったから…かな」

「ふ、ふぅん…そっか…」


 なんだろういつもはもっと深いところを触られてるはずなのに、ほっぺ触られてるだけなのに…今日はなんだかいつもよりドキドキしちゃう。顔が熱い、触ってる由香里にも熱が伝わりそうで、恥ずかしい。


 触っていたグソクムシから手を離し、手を洗うためにお手洗いに行きたいと言ったら、由香里もついてくるというので丁重にお断りした。出来るだけ顔見られたくないし…


「ふぅ、海の生き物に触ると匂いとかついちゃうかなって思ったけど、思ったよりそうでもなくて一安心♪これでまた由香里と手が繋げる♪」

「ねぇ、そこの君ひとりかい?」


 トイレから出て由香里の下へ戻ろうとすると知らない男の人が声をかけてきた。

 私は知っている、この人の目いつも由香里が私の身体に向けてくるものと同じだ。早く由香里の所に帰らなくちゃ。


「いえ、今日は恋人と来ているので、それでは」

「ちょっと待ってよ、恋人って君いくつ?小学生にしか見えないけど…」

「あの、腕掴むのやめてもらえませんか。私はこれでも高校生なので」

「ダメだよ、噓ついちゃ。ほらこっち来て、おじさんが親御さん探してあげるから」

「あの、痛い!離してください、ほんとに高校生ですから!」


 強引に引っ張ろうとするおじさんに非力な私は何もできない。怖い…この人の目はやばい…いつも見てるからそこ分かる、これは本当にやばいかもしれない…

 とその時だった。


「あの、私の恋人に何の用ですか?」

「え?だれ君。この子今から迷子案内に連れて行くつもりなんだけど」

「由香里…」

「大丈夫だよ、美波ちゃん。あのおじさん、その手放してもらえませんか、私の大切な人の腕に怪我でもされたら許しませんから」


 私の下に駆けつけてきてくれたのは由香里だった。いつもより声が低く鋭い目つき、多分これは本気で怒ってる。私も頑張っておじさんの手から抜け出そうとするが、掴む力が強いのかびくともしない。


「由香里助けて!」

「うん、待ってて。あの本当にそろそろ放して貰えませんか?何なら人呼びますよ」

「ちっ…」

 

 由香里の言葉に怖気づいたのか私の腕から手を離し舌打ちをしながら離れていった。涙が出てきそうなほど体が震えて、そんな私を由香里を優しく抱きしめてくれた。安心する匂い…少しだけ、落ち着いたかも。


「怖かった。由香里、ありがとう…」

「ううん、ごめんね。やっぱり私も一緒に行けばよかった。ねぇ美波ちゃんこれからは絶対にそばを離れないで」


 由香里の身体が震えてる、心配をかけさせてしまった。うんと頷き、恐怖を和らがせるために由香里を強く抱きしめた。由香里にこう触れていると怖さが無くなっていくのを感じる。私の中で由香里が、こんなにも安心する存在だなんて知らなかった…

 もし、由香里が居なくなったら私は…生きていけないかもしれないそう思ってしまうほどに。


「美波ちゃん、ちょっと座ろうか。疲れちゃったよね」

「うん」


 そう言って由香里の手を強く握り、一緒に休憩所まで歩くのだった。

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