第5話 私たちの関係は…

 泣いた私を由香里は優しく抱きしめてくれて、キスをしてくれた。初めて由香里としたキスとは違い少ししょっぱい涙の味がしたけどとても幸せな気持ちなる。離れていく由香里の柔らかくも暖かい唇を見つめると少し切ない気持ちがして、甘えるようにして私から唇を合わせた。


 不意を突いたようにキスをしたせいか顔を離すと由香里はぽかんと呆気にとられたような表情し、私がクスッと笑うと顔を赤くしてそれを隠すように鍋の残りを食べ始めた。


「た、食べないと冷めるよ」

「そうだね、冷めちゃうね」


 由香里からはするのに私からこういう不意打ち的なのには耐性がないのかもしれないと思うと少し可愛いと思ってしまう。それからは私たちは特に何かを話すことなく鍋を二人で完食し洗い物をしようと椅子から降りると由香里がにこっと笑いながら話しかけてきた。


「ねぇ、美波ちゃん!デザート食べない?」

「え、デザート?何か買ってたっけ」


 うん、一応ねと頷くと冷蔵庫の前まで歩き白い箱の取り出し炊事場へそれを置いた。こっちこっちと手招きされるように由香里の前に行くと私が乗る台を用意してくれる。それに乗ると由香里は置いた白い箱に両手で掴むようにしてそっと開けた。


「え!ケーキ?」


 開かれた箱の中には複数種類のケーキが入っていたのだ。ショートケーキとモンブラン、チョコケーキとチーズケーキ。


「そそ、美波ちゃん喜ぶかなぁって…本当は昨日食べる予定だったんだけど、いろいろあって夕食も食べなかったからね…あはは」

「いろいろって…少し気になったんですが、なんで昨日あんなことしてきたんですか?」


 うーんと唸り、私から目を逸らしたのだが答えてくださいと少し強く言うと観念したように答えてくれた。


「正直言うと興奮したからかな!」

「えぇ…私の体で興奮するとか由香里、ロリコンなの?」

「え、ひどくない!?美波ちゃん私にされて喜んでいたのに!嫌じゃなかったって言ったのに!」


 その言葉に私は何も言えなくなってしまった。されてうれしかったのもあるし気持ちよかった気もするからだ。ま、そんな話は置いといて…


「それで何なのこのケーキ?」

「ん、ルームメイトと親睦を深めようと思って!まぁ思った以上に深まっちゃったけど」

「あはは…でも、こういうのあると話しやすいかもね!お茶の席みたいでさ」

「ふん!私お姉ちゃんなのでこういうのは得意よ!気が利くでしょ!褒めて!」

「うーん、ってあれ…飲み物は?」

「へ?」


 自慢げに鼻を鳴らしていた由香里だったが飲み物と言われぽかんと口を開け首を傾けている。あ、これ完全に忘れている奴だわ…この人見た目はしっかりしてそうなのに少し抜けてるというか。なんか面白いからからかってみようかな。


「もー、気の利かないお姉ちゃんですね」

「っ!」

「ちょっえ、なに!?」

「もう一回お姉ちゃんって呼んで!もう一回!一回でいいから!」


 私がお姉ちゃんと言ったとたん急に抱き着いてきた。咄嗟のことに驚いて台から落ちそうになるが由香里がしっかり支えてくれて落ち来ることはなかったが正直焦った。こんなことになるなら、お姉ちゃんと呼ぶのは今後控えようと誓った。飲み物は私が買っておいた紅茶を飲むことにし、抱き着きは離してもらった。

 飲み物の用意し、私はショートケーキとチョコケーキ由香里はモンブランとチーズケーキを食べることになり、再び椅子に座った。優雅な時間が過ぎていた時なのだがふと思い出して由香里に聞いてみることに。


「あ、そういえば私たちの関係って何て呼べばいいのかな?友達ではないような気もするけど」

「あー、そういえばそうね。じゃあセフレとか?」

「私が嫌なんだけど…遠いところ来たっていうのに初日でもうセフレがいるって、それどうなの…」

「それもそっか。じゃあ、私の妹ってのは?」

「却下」

「即答なのね…うーん、無難に恋人とか?」


 恋人という言葉に私はケーキを食べる手を止めて由香里の顔を見た。由香里もそれに気づいたのかこちらの方に顔を向ける。恋人…それは私が中学時代に自分の身を守るために欲しかったものだが、今は純粋に恋というものがしてみたい。別に合法的に由香里ような美人な人に甘えられるとか、別に考えているわけでは…なくもない。


「恋人…いいかも」

「おけ!じゃあ、キスでもしとく?」

「え、うん…」

「じゃあ目を閉じて」


 言われるがまま私は目を閉じると、腰に腕を回され引きよけられるようにして唇に柔らかいものが触れた。これが恋人との初めてのキス…でもあれ?

 これが恋人とのキスなのかな…?恋愛物の本が好きでよく読んでるけど、恋人になる前と後ではその感覚が全然違くのだとか、なる前はただただ触れ合うだけとはよく書かれているけどなった後だととても幸せな気持ちになるとか。本だからかな?多少誇張されて書かれているとは思うし、人によって感じ方も変わってくるかもしれない…正直分からない。才川さんにでも聞いてみようかな。


 キスをし終えた二人は明日のことについて話し合うのだった



*****



「恋人とのキスかー…うん、あれは幸せだね」

「やっぱりそうなんだ!でどんな感じなの?」


 話の流れで由香里と恋人になった私は午前中の授業を終え、才川さんと二人向かい合ってお互い弁当を食べながら聞いてみることにした。最初はびっくりしていたけど彼氏持ちだと才川さんに言われてこれは聞くしかないと思った次第だ。


「お互いのを確かめ合うみたいな?一緒に居たいとかもっと傍に近づきたいとか思うと自然にキスしちゃうかな?」

「へぇ、なんか難しそうだね…」


 傍に居たいか…それに関してはよくわからない、まだあって日が浅いし。求められるのはうれしいしそれにこたえるのも楽しい。でもそれって好きだからするのかな?私は由香里のことが好きなのだろうか。まぁ深く考えても答えは出なさそうだし、恋人になったんだしたぶんこれは好きってことで合ってるよね…


「相沢さん」

「ん?どうしたの?」


 名前を呼ばれ才川さんの方を見るとにやにやした表情でこちらを見ていた。


「もしかして恋人出来たりした?」

「…なんで?」


 まぁなんとなく話の流れてで恋人がいるんじゃないのか?という話になってもおかしくないでも次に才川さんの口から発せられた言葉に驚きを隠せなかった。


「だって、相沢さん今日朝からニコニコだったよ?口角緩み切ってるっていうのかな」

「えっ!」


 私顔に出てたの!?なんか恥ずかしいかも…

 私は確かめるように自分の顔に触れるが…よくわからない。才川さんは私が頬に手を当てるのを見ながら話を続けた。


「それで恋人の話になったでしょ?それでこれはもしやって思ったってわけ。で、相手どんな人?かっこいい?」

「えっと…」


 どう答えたらいいんだろ、別に由香里には隠さなくてもとは言われているけど…

 私が言いよどんでいるとクラスの中心方面から大きな声が聞こえてきた。


「え!小泉付き合ってる人いるの!?」

「うん、まぁ最近できたの」

「まじか!?」

「うん、このお弁当も作ってくれてとってもおいしい」

「へぇ、弁当も作ってくれるとかいいなぁ、私の彼氏なんて…」


 由香里の同級生に付き合ってる人がいると言ったとたん、聞いていたクラスの半分以上の人がざわざわし始めてその話を聞きたいとクラスのみんながぞろぞろと集まっていった。

 だが私は見逃さなかった。由香里が『とってもおいしい』と私に向かっていったことを、それで気恥ずかして顔を逸らす。良いか悪いかはわからないが才川さんもそれを見逃さなかった。


「ほほぉ、そういうことか。だからなのね、納得」


 何が納得なのかはわからないが才川さんには私たちの関係がばれてしまったのかもしれない。でもたぶんこの調子だと他の人にもいずれ認知されるんだろうか、少しの不安の感じずにはいられない私なのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る