第2話 私はまだ彼女を知らない

 高校初日は、午前中のみで入学式と自己紹介、軽いHRも終え今はもう下校時間。放課後の時間はある程度の生徒が残っているので友達作りに励んでいる生徒は多い。私は人見知りだが、特段話すのが苦手というわけではないので集団に混ざりたいのだが、あまり長居したくない理由もある、それは…


 「えっと…相沢さんで合ってるかな?」


 私も友達作りのために集団に混ざろうと席を立とうとすると、隣の席の才川さいかわ瑠美るみさんが声をかけてきた。彼女は私よりも身長が高く艶のある綺麗で髪の毛は肩より少し下くらいまであり、赤いフレームの眼鏡がとても似合っている。


 「えっ?あ…う、うん…そっちは才川さんだよね。隣の席だしこれからよろしくね」


 自分から話しかけるのは大丈夫だけど、急に話しかけられるとちょっと自分でも挙動不審になってるような気がして少し嫌になる。でも話しかけられるのはわかっていた。なぜって?自己紹介の時から彼女は私のことをずっと見ていたからね…


 「うん!よろしく、それでちょっと聞きたいんだけどさ」


 「うん、何かな?」


 才川さんは少し私の方へ、身を乗り出して口を開いた。


 「相沢さんって小泉さんとだったりする?」


 「……」


 私は、少し考えてしまった。小泉さんは私にとって何なのか。初対面でもうすでに友達以上の関係にはなっている気もするし、だからといってこの才川さんの聞いている友達とは違う気がして否定した。だって、そんなことは誰にも言えないから。


 「えっと…友達ではないかな?多分…」


 「ふぅん、そうなんだ」


 あまり興味がなかったのだろうか、と頭を傾けると。


 「いやぁ、もし友達だったら私もお近づきになりたかったんだけどねー」


 「え?どういうこと?」


 「ん?あー、相沢さん県外から来たんだもんね。小泉さんここいらじゃ結構有名人でねー」


 才川さん曰く、中学はお嬢様が通うような有名な女子校で入学当初からトップ成績のまま卒業したらしい。スポーツでも大きな大会に何度か出場し、優勝もとったことあるだとか。そんなすごい人だったのか……出会って数秒で襲われたから結構やばめな変態じゃないかと思っていたなんて言えない。


 「それに、ほら見てよ。入学初日っていうのにあれだけ人が寄ってくるなんてすごいよねー」


 才川さんに言われた通り、教室の真ん中側に顔を向けるとクラスの半分以上の人が小泉さんを囲むように集まっていた。ちらほら自己紹介の時に見なかった人たちも見受けるられるから、別のクラスから彼女を一目見たいと来ているのだろうか。もしそうなのだとしたら才川さんの言う通り、それほどまでに有名なのだろう。


 「まぁ、気持ちはわかるよね。モデルさんみたいな体型で顔も綺麗だし、結構モテるらしいよ」


 「へぇ、私も初めて見たときは大人の人かなって思ったから。その気持ちわかるかも」


 まぁ、ベッドの上でそんなことを思ったなんて口が裂けても言えないけど…でも少し疑問に思った。


 「あれ?でもなんで才川さんは声かけないの?私じゃなくて直接言えば友達くらいにはなってくれるんじゃないの?」


 「ん-?あー、でもそれは結構難しいんだよね」


 「難しい?」


 「うん、小泉さんめちゃくちゃガードが堅いっていうか、彼氏がいたとか、友達と放課後に遊んでるっていうのも聞かないくらいで。たぶんプライベートまで踏み込んで来てほしくないんじゃないかな」


 「え?それってつまり学校では話すけど外で遊ぶような仲にはなれないってこと?」


 「んま、そんな感じかな。学校でも結構いろんな人とつながっているみたいだけど、よく話す親しい友達っていうのは聞いたことないんだよね」


 小泉さんは私のイメージでは、遊んでるイメージがあったから意外だ。シェアハウスのルームメイトだしちょっとは聞いてみようかな。


 「まぁ、小泉さんの話はこのくらいかな。あ!そんなことより相沢さんって身長何センチ?気になってたんだよね、小さくて可愛いからさ」


 早々に小泉さんの話題も終わり、私としては触れられたくない話を振ってきた。そう私、相沢美波の身長は、144㎝で小学生並みの背丈しかないのだ。よくそれでからかわれてたっけ…そのせいでろくに対等な友達もいなくて彼氏もできなかった。小学生みたいという理由だけで10回中10回も振られている。まぁこのくらいで私のコンプレックスについては話すのをやめておこうかな。自分で言ってて悲しくなってきた…


 「……よく言われます、ちなみに150㎝くらいですね…あはは」


 「絶対嘘じゃん、目が笑ってないよ…まぁ嫌ならこれ以上は聞かないでおくよ」


 才川さんは気を遣ってくれる人らしい。優しい…もしかしたら、中学生の時みたいにはならなくて済むのかもしれない。


 そう言って、才川さんは時計を見て立ち上がった。


 「あ、ごめん。私この後用事あるんだった、ということでここいらでお暇するねーまた明日ー」


 笑顔でこちらに手を振ると駆け足で教室を出て行った。私も帰ろうかな。この後の用事は無いにしても晩御飯の買い出しもしたいし。


 そう思い、学校を出てシェアハウスから最も近く徒歩20分ほどの位置にある大き目のスーパーKINOに来ていた。田舎とは大違いで向こうでは見ないような物があった。計画を立てずに歩いていたら、いろんなものに目移りしてしまいそうだ。


 昨日買わなければいけない物を調べていたのでスムーズに買い物かごに詰めることができた。あとは今晩の献立のみとなりお肉コーナーを見ていたところで後ろから声が聞こえ振り向いた。


 「あ、美波ちゃんじゃん!」


 振り向いた先には、私よりはるかに背が高くすらっとした体系で出るところが出ている。正しくモデル体型で制服の少し気崩し、短めに折ったスカートからは白く美しい脚が見えていた。そんな大人な雰囲気を醸し出した小泉さんは笑顔でそこに立っている。私と同じで買い物かごにいくつかの日用品が入っているので、彼女も買い出し中なのだろうか。


 「あ、どうも、小泉さん。小泉さんも買い出しですか?」


 「ん、硬いねー敬語はやめて、あと、私の事は由香里って呼んでほしいかな」


 同級生なら、それくらいのフランクな感じがいいのかな?


 「わかった、じゃあ由香里って呼ぶね」


 「ういうい、それで夕食の買い出しに来たんだけど今晩何にするかとか決まってたりする?」


 「あー、初日だしキッチンに調理道具もそろっていたから。簡単なもので鍋でもって思ったんだけど、どうかな?」


 「おーいいねぇ、まだまだ冷えるから助かるよー」


 由香里の同意も貰ったところでお鍋用のお肉をいくつか買い物かごに入れていたところ、由香里が熱心に何かを見ているのに気づき聞いてみた。

 

 「何見てるの?由香里」


 「んー、ステーキ肉…お鍋に入れたらおいしくなるかな」


 「え、お鍋にステーキ肉?」


 「うん、あれ?もしかして入れないの?」


 「うーん、普通は入れないんじゃないかな?」


 「へぇ、私料理できないから食材は高いもの入れておけばなんかおいしくなると思ってたんだけど…」


 「その発言はどうかと思う…まぁ高いお肉があればおいしくなるのは間違いないかな、ステーキ用の牛肉ならすき焼きにして食べれると思うよ」


 「お!じゃあ今晩ステーキすき焼きで!」


 「高校生にそんなお金はありません!今日は普通のお鍋です。でも、ちょっと意外だったかも由香里スポーツ万能で成績優秀って聞いてたから料理も得意かなって勝手に考えてたよ」


 「え?そうなの?私家では親が作ってくれてたから全く分からないんだよね。中学の調理実習でも私食べる専門だったし」


 料理の話になったとたん由香里はぽかんと口を開け顔を傾け目が合った。少し間抜け面をしていても綺麗な顔をしているから少しドキッとしてしまい私は目を逸らした。


 そのあとは特に問題もなく買い物を済ませ、私たちは帰路についた。

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