第4話 そして巣立ち

 そしてふと我に返ると、オレの周りには30羽じゃきかない数の雀が群れていた。オレはいつの間にか一帯の子どもらを養っていたようだ。それがある日を境にどんどん減って、今では5羽だけになっていた。みんなどこに行っちまったのか。


 そんな夏の終わりのある日、オレにプロポーズしてきたあのだんなさまがやってきて礼を言った。


「ありがとうございました。おかげで子どもたちも無事旅だったようです。みんな新天地で伴侶を迎え幸せに暮らすことと思います。」


 隣の奥様も子育てに疲れたのか、羽がけば立ってやつれて見えた。


「そうか、みんな行っちまうのか。また戻って来るのかな。」

「いいえ、雀というモノは旅立つとここにはもう戻りません。私たちも去年親元を離れここに来ました。初めての子育てでしたがあなたのおかげで一羽も欠けることなく育て上げることが出来ました。感謝しています。」


 そうか、と思った。みんなどこかここではない場所に行ってしまったのか。そこで自分の人生を新たに始めるんだな。大人になっても親元にいるのは人間くらいなものなのかもしれないな。ちょっと切なくなって目の前が滲んできたぜ。


「本当にありがとうございました。

子どもたちはみんな旅立ちましたが、他所からは新たな仲間がやって来ています。ここもまたにぎやかになりますよ。」


 けば立った羽を繕うこともなく奥方ほんさいさんがチョンとこちらに進んで小首をかしげた。


 か、可愛い!


  オレはひと夏慌ただしく雀の子育てをした訳だが、終わるとあっさりしたもんで雀らはもう寄り付きもしなかった。いや、オレが育てた子どもらはどこかへ旅立ってこの辺りにはいないんだった。でもこっちは雀を見る目が変わったね。


 今でもよく覚えている。親から託された頃アイツらはまだお腹周りの羽毛がふかふかしていた。へたり込むように腰を落として小さいふりをしていたな。くちばしの両端に黄色い縁取りがあって、開けたら思ったより大きい口だった。そういえば頭の上も薄茶色でだんだん濃くなってきたなと思うと居なくなった。親に似て来たなと思ったが、あれは旅立ちの時期ということだったのか。


 そんな子供たちを思いつつ、何かおまえらにしてやれることはないかと旦那スズメに尋ねた。旦那スズメは言った。


 「今まで通りで。

伸一さんの営みが、私たちの営みです」


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