第3話 子育てばんざい
はずみで雀に嫁入りしたのはいいが、オレは何をすればいいのだろう。まさか披露宴とかやるんじゃあるまいな。親戚一同の前でどんな顔をすればいいのか。片側に雀の一族、もう片側に柏崎一族が居並ぶ風景を想像して、ちょっとそれは見てみたい……かもしれないと思った。
さて問題の雀との婚姻についてだが、託されたのは一番子(五羽)と二番子(六羽)の養育だった。
奥様は三回目のご懐妊の後そろそろヒナが孵るのだそうだ。そうすると生まれたばかりのヒナたちに餌を運ばないといけない。しかし一番子、二番子達も巣立ちしたもののまだまだ独り立ちには心許ない。何とか子どもたちが自分で餌を獲れるようになるまで食べさせねばならない。しかし自分たち夫婦だけではどう考えても無理。そこでいつも畑の世話(雀からしたら畑で
それならプロポーズでなくても保育申し込みで充分ではないかと思うのだが、「鳥というものは
いや、訂正しよう。かなり、変わった。やっていることは今までと変わらないのだが、まわりが変わった。
前にも言ったようにうちは農家だ。ハウスと露地ものの野菜をいろいろ作っている。主にハウスは売り物で、路地の半分は自宅用だ。売り物の方はバンバン農薬を使って綺麗に作るのだが、バアサン(オレの祖母だ)の意向で自宅用は無農薬。バアサン案外意識高いなと感心したら、たんに農薬が高いので売り物以外には使いたくないということらしかった。
それでどうするかというと、虫は手で取る。早朝と夕方、手で取る。ひたすら取る。雨の日以外は手で取る。オレが手伝い始めたらバアサンは朝起きてこなくなった。つまりオレに丸投げだ。
この作業を黙々とやっていたんたが、いや今だって黙々とやっているんだが。バアサンが起きてこなくなって孤独な作業だった訳よ。それが、今は11羽の小さなギャラリーに囲まれてやっている。そしてこのギャラリーが何かとうるさい。
まずだれが一番作業の近くに行くかで揉める。近くに来ると小さく屈んで羽毛をふっくらとさせて羽を小刻みに震わせる。つまりまだ雛のフリをしている。しかしオレは知っている。こいつら可愛く小さな子雀のフリをしているが親雀よりサイズ感はデカイ。
それでも「エサ!エサ!」とこちらを見て騒ぐ様はほだされるんだよなぁ。
ある日やけに子ども(雀の)多いなと思って数えてみたら19羽になっていた。いつの間に他所の子どもまで面倒をみていたらしい。おいおい、勘弁してくれよと思うが、どの子が頼まれた子で、どの子がちゃっかり雑ざってきた子が区別がつかねぇ。仕方ないので集まってきた奴らみんなに虫をやることにした。幸い虫は毎日うんざりするほど見つかるからな。
なぁ、想像してくれ。畑にしゃがみこんでいる周囲で、子雀らにチュンチュン懐かれているところを。最近ではオレに馴れたらしく肩やら膝やら帽子の上に止まってやがる。虫だけでは足りないらしく土の上をつついたりもしている。たまにどう見てもオマエ親鳥だろうというのも混ざっているが、特別な鳴き声を出したり餌をとって見せたり、砂浴びや水浴びをして見せているので、まぁ教育的指導ってやつなんだろうと見守っている。
暑い最中の作業も、まわりで騒がしい雀らがいい気分転換になってくれた。休憩の時もついてきて、喧嘩をしたり、並んでこちらを見て首をかしげる様を見るのはけっこう楽しいもんだ。いっそ動画を取ってSNSに上げようかとも思うのだが、スマホを出すともう食餌時間は終わりと思うのか、子雀たちは散って行ってしまうんだ。あっさりしてやがるぜ。
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