第2話 ほだされて嫁入り


「あのさ、キミ、メスなの?

オレさ男なんだけど」


一応確認しておくかと思って、聞いてみる。キリっとこちらを見据えた小さな雀は、


「オスです!」


 そうきっぱりと言い切った。そうか、オマエもオス。こっちもオス。これはナニか、つまり、噂のBLとやらのお誘いか?種族を越えた愛ってやつか?


 オレは、汚れた軍手のままタオルで巻かれた頭を掻いた。


「困るんだよなぁ。悪いけどさ

そういうの、オレ受け付けてないんだわ」

「ワタシもこのままでは困るんです!」


 しかし小さな雀もなかなか強引だった。


「妻がまた巣籠もりを始めたんです!」

「ちょっと待て!

それは、不倫とか重婚とかそういう怪しげな関係に誘い込もうとしてるんじゃないのか?」

「いえ、妻も同意をしています」


 マジか! 本妻も承知の浮気か。可愛い雀のクセに生意気なことを考えるもんだ。オレはさしずめ「側室」ってことか。まだ人間とも結婚してないのに、いきなり雀の「側室」になるのか。オヤジやオフクロには聞かせられないな。


 ちょっと待て、オレ! まだこのプロポーズを受けたわけじゃない! 思わずぶっ飛んだ考えに翻弄されたが、断る選択肢もあるじゃないか。オレは立ち上がり、痛む腰を伸ばしつつ雀のほうを窺った。


 雀はチョンチョンと2歩進み、翼をたたみ直してオレに向かってきゅんと胸を張った。


 メチャクチャ、可愛い!


「妻は春からもう三度目の巣籠もりなんです」

 

 三度めですか、とオレは思った。他人様というか他雀様のナイトライフには興味はないが、三度目の巣籠もりということは、三度目の出産(鳥だと出卵か? )ってことだよな。そりゃお盛んなことでとは思うが、それがなんでオレにプロポーズすることと繋がるんだ? 「側室」なら他の若い娘(雀)を誘うのが通常じゃないのか? 


「すみません。伸一さん。立たれると視線を合わせるのに首が痛いので、ちょっと座るか手を出してもらえませんか」


 名前を知られていることも驚いたが、あざとく小首をかしげて言う雀にオレは思わず軍手を外して左手を差し出した。なに、座るにはまだ腰が痛かったってのもあるんだが。


 雀は羽をパッと広げて飛び上ると、小さな風圧とともにひょいとオレの左手に乗った。オレは手のひらに感じるその軽さ、爪がかかる僅かな痛み、脚から伝わるぬくもりに悶絶した。


 たまらん!


 「伸一さん、嫁に来てくれませんか?」

「…は、はひぃぃ……」


 雀の爪がちょっとばかり手のひらに食い込むのを感じて、オレの口から変な声が出た。





 


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