嫁入りから始まるセカンドら・い・ふ

小烏 つむぎ

第1話 それはプロポーズで始まった

「嫁に来てほしい」


 梅雨の合間に畑に出て野菜についた虫を取っていたら、そいつはいきなりプロポーズしてきた。


 雨上がりのやけに太陽がぎらぎらした日だった。こういう日は農業用ハウスも暑いが、露地の畑も暑い。ハウスはオヤジがやるからと露地を頼まれたんだが、熱気にやられて幻覚を見ているのだろうか。頭に巻いていたタオルの隙間からスゥっと汗が流れて目に入り、思わず袖でこすった。


 「プロポーズ」かぁ。うん、そういうのよくあるよね。「嫁入り」から始まるお話しってさ。ラノベでタイトルだけはよく見るよ。でも、プロポーズするのはたいてい問題ありと噂の貴公子(イケメン)とか、実は力のある神様(イケメン)とか、恐れられているけど本当は優しい鬼(イケメン)とか、そういうキャラ(イケメン)なんじゃないかな?


 でも、雀(イケメン度は不明)から言われるパターンはなかったと思う。


 雀は一歩チョンとこちらに進んで、どうだろうかというように小首をかしげた。


 可愛い!


 いやいや!

だいたいプロポーされるのは家族に虐げられているとか、世間的に認められてないとか、普通そういうハンデみたいなもんがあるもんじゃないか?こちとら、普通に農家で。いやまだ親父は引退してないから、見習いなんだが。まそりゃ、ちょっと年齢を重ねているかもしれないけど、特に誰からも虐められてないし、どっちかというととしてかなり頼りにされてるんだけど。


 そもそも、こんな日中畑の真ん中でプロポーズは無いんじゃないかな?いや、受けるつもりは毛頭ないけど。もう少し雰囲気とかシチュエーションとか、凝るべきじゃないんだろうか。なにより、雀んちに嫁入りしたとして、何か話の山場になる様なイベントがあるとも思えないんだ。


 それよりなにより、ここが一番重要なんだが。オレ、男なんだ。37才、独身。都会からのUターン。由緒正しい百姓、柏崎家の11代目(仮)、柏崎 伸一。オレは小松菜についた芋虫をつまむ手を休めて、地面に仁王立ちする小さな茶色の雀を見つめた。


 雀はまたチョンと一歩進んで、反対側に小首をかしげた。


 か、可愛いぃぃぃ!

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