第7話
そして現在。俺は由良木の夏休みの宿題を教えている。
「分からないところがあったらまた聞いてくれ」
「はい、木野先生」
当然ながら基本は由良木が解き、分からないところを俺に聞くというよくあるマンツーマン形式だ。
「なぁ、由良木。普通に夏季講習やってるけど良いのか?」
学校デートもこれで4日目に突入するが4日間とも何もしてない。勉強しかしてない。本当にこれで良いのだろうか。
自然消滅、またはフラれることを望んでいる俺からしたら、関わりが減るのはむしろ、なところがあるが、それはそれとで気になる。女心は分からないとよく聞くがここまで分からないものなのか?
「楽しいですよ。この時間」
「楽しい?」
由良木は鉛筆を動かしながら答えた。髪を耳にかける仕草に少し見とれた。
「先生を独り占めしてるみたいで」
そう言って由良木は俺にはにかみ笑いを見せた。
「そんなもんで良いのか?」
「そんなもんで良いんです。むしろこれが良いんです」
「そうか……。そうか」
どうやら俺は由良木のことをまだまだ理解できていなかったらしい。
「先生」
鉛筆を置き由良木が俺を見る。俺よりも遥に未来をみているような澄んだ瞳が俺を射貫く。
「夏休み明け一発目のテストで私が1位を取ったら、私のこと名前で呼んで欲しいです」
「………!」
まずいな。と思った。由良木のことを理解出来ているなど何を思って判断したのだろうか。
由良木は本気だ。一時の感情などでは無く。思春期が見せるまやかしなどでもなく、俺のことを好きになったから好きなのだ。
まずいと再び思うと同時に「分かった。それならテストちょっと難しく作るか」と返答する。
「むむっ……負けません」
フンスッ!と意気込む由良木を尻目に、さてどうしようかと三度俺はまずいなと思うのだった。
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