第6話
この年は時間が過ぎるのが速かった。由良木との関係がバレたときのことを考えると気が気では無かった。告白を受けておいてなんとも失礼だが、考えずにはいられなかった。
由良木には悪いが早々にこの関係を終わらせるのが“正しい”とさえ思っていた。
「思春期が終われば自然に消えるか……」
恋は脳のバグ。感情の暴発。などと、いわゆる刹那的なものとして扱われる場合もある。俺はバレたときの危惧しながらも、特段何か行動するわけでも無く1年を過ごした。
「どうしてこうなった」
年が明けて学年がまた1つ上がる。時は8月。夏真っ盛りである。
蝉がギャン泣きしてるせいか俺の呟きはかき消された。
「木野先生よろしくお願いします」
「あぁ、それでは夏季講習を始める」
夏季講習もとい由良木とのデートである。学校デートとはこれいかに。
ことの始まりは5月で「放課後、町に行きませんか」と由良木からお誘いを受けたことだ。
すぐにデートのお誘いだと分かった。今日一日チラチラ見ていたのはこのためだったのか。
「ごめん、それは出来ないかな」
「えっと………それは私とのデ、デートが嫌と言うことでしょうか………」
由良木はシュンと項垂れる。因みに今は掃除の時間で由良木は手に黒板消しを持っている。
「違う違う。町って人が多いでしょ。それで学校外で由良木さんといっしょにいるところを他の生徒や教員、保護者に見られると、バレちゃうかもしれないから」
確かに説明が不足しすぎていたので、すかさず訳を話す。
「先生はバレるのが嫌なんですか?」
「まぁ、そうだね」
世間体的に生徒と付き合ってると噂されるのは非常に良くない。
「なるほど……つまり先生は私と秘密の恋がしたいと」
「そうなんだよ………って、え?」
秘密の恋?由良木は急に何を言っているんだ。
「秘密の恋……良いですね。実は少し憧れがあったりしてます」
「え?あ、あぁ。そう、秘密の恋。秘密の恋やってみたくて」
よく分からないが取りあえず肯定しておこう。世間体やらの話はしても意味は無いだろうし、言うことにも意味は無い。
「でも、デートやってみたいなぁ……」
由良木がぽつりと発する。恐らく無意識だろう。
「なら由良木、夏休み学校に来るのはどうだ?」
「……?」
どういうこと?と首を傾げる由良木。そんな由良木に俺の案を伝える。
「夏休みは皆遊んでいてわざわざ学校に来る奴はそうそういない。それを利用するんだ」
「なるほど!それは良いですね!」
俺の案が気に入ったのかとても嬉しそうな顔をする。そんな由良木を見て俺も嬉しくなる。
嬉しい?
「親には夏休みの宿題を見てもらうって理由つければ毎日学校に行っても怪しまれないだろう。特別夏季講習だ」
「私毎日なんて言ってませんけど」
「来ないのか?」
「………毎日行く予定でしたけど。なんかムカつきます」
由良木との付き合いも長くなり、由良木のことをだいぶ理解出来ているつもりだ。由良木も口調が砕けてそこに明確な生徒以上の関係が現れている。
そんなわけで夏休みに由良木との学校デートが決定された。
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