第20話 「『闇の帝王』、降臨!?」

 閑散としたかつての高級住宅地の空を、撮影用のライブドローンが飛び回る。

 真っすぐ空に伸びるカラマツの木。木。木。そして──ドローンのカメラが映し出すのは、地上を一騎当千するだった。

 

【名前:吉田 寿限ム Lv:46 ジョブ:格闘家ファイター

【名前:縞田 桃 Lv:39 ジョブ:弓術士アーチャー

【名前:田中川 詠羽 Lv:72 ジョブ:祓魔師エクソシスト


 先陣を切って大暴れするのは、死神の如く鎌を振るう自称『闇の帝王』田中川詠羽だ。「新人ルーキーのLv上げ? ふはははは知らぬな! 我が目立つのが最優先だ! なにせこれは我の配信だからなっ!」とひたすら敵を刈り尽くす。


「嘘だろ……アイツ、自分が目立つことしか考えてないのか……!?」

「……あれが『配信者のサガ』というヤツです。とにかく、詠羽さんより早くモンスターを狩らないと……」


 うん、普通に超迷惑。だが考え方を変えると、こうも考えられる。

 ──要するにこれはゲームだ。『詠羽に刈り尽くされる前にモンスターを倒せ!』のミッション(ただし強制参加)。



「むっ……! 我の獲物がっ……」


 詠羽が声を上げる。その視線の先には寿限ムの姿があった。

 詠羽が鎌を振り上げた刹那、寿限ムは素早くモンスターと詠羽の間に割り込みインターセプト、撃ち込んだ拳で詠羽の制空権から吹き飛ばしたのだ。


 寿限ムはすぐさま大地を蹴り、追撃を開始する。


「へへっ、このままドクセンなんかさせるかよっ!」

「ズルいぞ、その敵は我が先に目を付けたのにっ!」


 鎌を振り回しながらプンプンと横取りを抗議する詠羽だったが、寿限ムはどこ吹く風と鼻歌交じりだ。


「ふんふふ~ん、あ~EXP美味し~♪」


:これは草 じゃなくて🎍

:お~やるやん!

:うーんこれは天罰

:🎍🎍🎍

:🎍🎍🎍🎍🎍

:ようやったジュゲム

:あああ主さま!? 

:悔しがっている姿もかわいいwwwwww


「ぐぬぬ……何だかコメントも寿限ムの味方をしていないか!? ……全く! し、仕方あるまい。今回は貴様に譲ってやろう! 我の方が先輩だからな! よし、次!」


 そして詠羽は、次なる標的へとどめの鎌を振りかざそうとした……のだが。


「うがっ!」

「すみません、先に射抜いちゃいました♡」


 どこからともなく飛翔してきた矢がモンスターの頭部に突き刺さり、モンスターは雲散霧消!

 潜伏スキルを解くと、ドヤ顔の桃が現れる。

 『弓術士アーチャー』である桃の本領は隠密・斥候・暗殺だ。ちょうどよく暴れまくってモンスターからのヘイトを一身に集めていた詠羽のおかげで、桃は難なく"クリティカル"の条件を満たしたのであった。


「……ほ、ほーう。二人して我が覇道の邪魔をしようという訳か……そうかそうか、貴様らがそのつもりならば、この我も『真の力』を開放してやろうではないかっ!」


:うおおおおおおお

:きたあああああああああああ

:ざわ…ざわ…

:く、来るっ…!

:こんなことで奥の手出すつもりなのか 我が主よ…(驚愕)


「紅き月満ちるとき、至上なるわざわいもたらされん……」

「あ、詠羽さん、何だか呪文みたいなのを唱え始めましたねー」

「よく分からないけど、止まってくれたんなら今のうちに敵倒しといた方がよさそうだなー」

「……ですねー」


 得意げに呪文(?)を詠唱し始めた詠羽を尻目に、寿限ムと桃の二人は呑気にモンスター狩りを続ける。

 ──しかし、その時だった。


「……拘束術式解放!」


 背後から感じる物凄いオーラに、思わず寿限ムと桃は振り返る。

 はやい! 真紅の鎌の軌跡が、まるで赤い閃光のように一帯を駆け巡る。

 モンスターを狩る詠羽の姿はまさに戦場の死神だ。詠羽のスピード、パワー、どれを取っても明らかに一段階パワーアップしている。


「フッフッフ……これぞ我の"とっておき"だッ! ……ちなみに我はあと2回変身を残している……」

「あ! 吉田くんっ、あれ! 『紅蓮滅魔の鎌クリムゾン・デモンスレイ』のデバフが全部消えてます!」

「え? くりーむそーだ? ……何?」

「いえ! クリームソーダではなく……クリムゾン・デモンスレイ、詠羽さんが持っているあの赤い鎌です!」

「あー、確かそんな名前だったか……てかそんなのよく覚えてるな桃……」


 思わず寿限ムは桃に向かって感心の眼差しを向ける。

 ちなみに詠羽の持つ鎌の正式名は【呪われし血塗れの大鎌[呪]】で、それを勝手に詠羽が名付けてそう呼んでいる。やたらめったらデバフが掛かっている呪われた武器で、特にヤバいのは『ステータスにマイナス補正(-Lv20)』だ。


 そのデバフが、全て解呪されている……!?


「詠羽さんのジョブは、『祓魔師エクソシスト』……! 呪いを解くことに特化したジョブです!」

「なるほど! あの20個ぐらいあるデバフの山を全部帳消しにした訳か……!」 


 超速理解。詠羽はあの鎌のせいで、あり得ないぐらいデバフが掛かってたもんなー。Lvも70を越えてるというのに、普段の強さは俺や桃に毛が生えたぐらい。

 それが今や、あの令や戻子ぐらい強く見える。


 …………。


 そう言えば、令と戻子もLvは70ぐらいだっけ……。

 そして、詠羽もLvは72。

 ……あっ。


「……でもそれって、『マイナスがゼロに戻っただけ』なんじゃないか?」


 寿限ムは気づく、悲しい事実に。詠羽の呪いの解呪はおそらく一時的なものだろう。そして呪いの鎌の呪いを解いたところで、何かバフが得られる訳ではない。

 

「まあ、デメリットをカバーするコンボを組むより、元から強いパワーカードをぶん投げる方が強いのは世の常ですから。はぁ……やっぱり、ファンデッカーは環境に蹂躙される運命なんですね……!」

「……桃は一体何の話をしているんだ……?」

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ダンふれっ! ~デスゲームと化した世界。ダンジョンで仲間たちと送る、゛退屈しない〟日常~ 桜川ろに @Sakura_kuronikuru

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