第15話 「【悲報】50万円さん、一瞬で溶ける……」

 ◇


「くぅぅぅっ、これが最後の1パックだ……マジで頼むぞ、ここまで49万円もつぎ込んでるんだからな!? 来いっ、大当たり! ……あっ」


 ──『メイアルーア・ジ・コンパッソ』。


 虎の子の最後のスキルカードには、そんなスキル名が書かれていた。

 ここは、協会本部ビルにあるショッピングモールの一角。店頭価格1パック4万5千円の探索者応援価格で『スキルカードパック』を販売しているのを見つけた寿限ムは、思わず衝動買いしてしまっていた。

 クッ、最初はちょろっとだけ買うつもりだったのに、次こそ当たりが来るはず……とズルズルいくうちに、結局最後までつぎ込んでしまった。

 だが11連ガチャの最後の1パック。これはもしや……? 『メイアルーア・ジ・コンパッソ』。音の響きからして、メチャクチャ呪文っぽい。というか、こんなの絶対魔術の奥義か何かだろ。来たか魔法系ッ……! 魔法系のカードの取引価格は最低でも『1000万』とも言われている。

 

 ──『49万』が『1000万』! 


 さて、答え合わせといこうか。どんなスキルかネットで調べてみる……ああ、きっと『電気魔法』とかだな。きっとそうだ。いや、そうであってくれ……!


 …………。


 …………!


 …………。


「『メイアルーア・ジ・コンパッソは、格闘技"カポエイラ"の蹴り技です』……」


 ──って格闘技かよ! いや紛らわしいな! ……終わった。最後のスキルパックも物理スキルという『ハズレ』だった。寿限ム、これで残金5千円……! 

 寿限ムが店先でガックリと肩を落としていると、「やっぱりガチャは悪い文明なんですよ」と桃が励ましているのかいないのかよく分からない言葉を掛けてくる。


「全く、迂闊だぞ新人ルーキー。配信で剥けばネタになって『プラマイゼロ』だったというのに……」

「いやエバ、一応まだ俺は配信始めるって決めた訳じゃないからな!?」


 やれやれと腕を組む詠羽に向かって、寿限ムは勢いよくツッコむ。だが詠羽は「フッ……口ではそう言うが、必ず貴様は配信を始めるだろう。なぜなら貴様は、配信するために生まれたような存在だからだ……!」と話を聞かない。相変わらずの詠羽クオリティである。


 はぁ、残り5千円か……しかし寿限ムは考え直す。


 ……そうだよな。俺はもう立派な『探索者』なんだ。命を懸けてダンジョンに潜って稼いでいけばいい。代わりに今日の出来事は、教訓として胸に刻もう。


 ──『ガチャは危険、お金が一瞬で消える』……と。


 さてと。せっかくだし、令と戻子にプレゼントだけでも買って帰るか。名古屋からずっと世話になっているしな。さて、何にしようか……探索者向けのアイテムはきっと持っているだろうし……。


「うーん……こんな感じの小物とかがいいんじゃないかしら」

「へー、センスがいいな、流石キリカ……」


 刻花のアドバイスを参考に、プレゼントは『小物』に決定。ちなみに『生成クラフト』を使って同じような小物を作ろうと試してみたのだが、結果は……うーん、これはないな。略して『うんこ』だ。

 このスキル、実は「これと同じものを!」や「(商品名)を作って!」という指定はできない。なので『小物アクセサリー』で指定してみたのだが、見事にダサいアクセサリーが生成されてしまった。え? まさか俺のセンスが悪いってことか……?


 「ちなみに私の誕生日は『10月18日』です」と、キラーンと眼鏡を光らせて桃が圧を掛けてくる。


「『誕生日の開示』……本気だな、桃……! ……ちなみにこれは特に深い意味はないのだが、我の誕生日は『12月24日』だ。言っておくが、クリスマスプレゼントと一緒にするのは禁止だぞ!」



 …………


 ……


 …



 ……という訳で。

 楽しい楽しいショッピングの時間も終わり、協会本部ビルを後にした寿限ムたちは──鮮やかなオレンジ色の夕焼け空の下、駅のホームで帰りの電車を待っていたのだった。

 ……しかしマジで美味かったな、さっきのラーメン屋。寄り道した甲斐があったというか、このご時世に意地で開店しているだけあって、味はホンモノだった。……まあ、俺は味の良し悪しを語れるほどラーメンを食べたことないんだけどな!


 そしてこれは刻花の話なのだが……。駅のホームのベンチにだ。割と目立つ格好だと思うのだが、刻花曰くこれは『変装』なのだそうだ。壇上町で有名人になり過ぎた刻花は、普段そのままの格好だとまともに壇上町を出歩けないらしい。


 確かに刻花は割と綺麗めな外国人顔なので、金髪のかつらウィッグをつければ本格的なメイドさんに早変わり。確かにコレなら刻花だと気づける人は少ない……と思うのだが、何故にメイド服。別にメイド服を着なくてもその髪だけで十分バレないと思うぞ? いや、ひらひらしたスカートは可愛らしいし、『視線誘導』とやらでひらけた胸元はかなりセクシーで……いや、何も文句はないです。


 そしてそんなメイド服姿のまま、刻花は『ギルドマスター』として寿限ム以下ギルドメンバーに業務連絡を始める。いや脳がバグるって脳が。

 とにかく刻花の話をまとめると、協会が『ある新制度』を推し進めているということだった。その名も──『探索者ランク制度』。


「……そのうちギルドの方にも通知が届くと思うわ。まあ『探索者にこれまでの実績に応じたランクを割り当てる』って話だから、特に私たちが何かをする必要はないはずだけどね。ただ……実績のない新人は"試験"でランク付けするそうだから、寿限ムと桃の2人は準備をしておいた方がいいかもしれないわ」


 刻花の言葉に、寿限ムと桃はコクリと頷く。


「試験、ですか……」

「なるほど。アイツが言っていた『新人たちを競わせる場』って、そういうことだったんだな……」


 例の冥華の捨て台詞を思い出す。『格付け』とやらをしたければ、確かに試験はうってつけの場所に違いない。だが、しかし……


「……探索者の試験って、一体何をするんだ?」

「さあな。……まあ、我がSSSランクになるのは疑いようのない事実なのだが? 貴様ら新人ルーキーたちにも、我がギルドに恥じないランクになって貰わねばならん! 我が最強ギルドの威信に掛けてな! フッ、という訳で……貴様ら2人には、新人たちの『1位』と『2位』を取ってもらう!」

「だいぶ無茶ぶりするわね……あと詠羽? ランクは『S』までよ。……ネットの『Tier表』じゃなんだから」

「はぁ? 我はS一つで収まり切る器ではないのだが? "すぺしゃるS"・"さでぃすてぃっくS"・"さいきょーS"な闇の帝王なのだが? ……仕方ない、人間の尺度に合わせてやるとしよう」


 そう言って、やれやれと言う風に首を振る詠羽。ひとまず詠羽の話は置いておくとして、俺自身『どこまで強くなったのか、そしてどこまで強くなれるのか』を試してみたい気持ちもあった。


 ──楽しみだな、"試験"……!




「フッ、覚悟しておけよ新人ルーキー! 『宿』でビシビシしごいてやるからな!」

 

 ……え? 新歓合宿?




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【あとがきというかご報告】


カクヨムコン9、最終選考で落ちました。悲しい……。

しかし、こんな結果には終わりましたが……。


読んでくれている皆さん、応援してくれている皆さん。

どうもありがとうございます!

マジ感謝です。


カクヨムコン10に切り替えていく(`・ω・´)キリッ

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