第13話 「ダンジョンで『青春』を! ……with オーガ」

 ◇


 ──開幕一閃。なんて拳だ……直撃したら『オーバーキル』だな。


 ──拳の応酬。一手読み違えれば終わる。『大剣VS針』! 『針』を通せ!


 ──好機! 懐に潜り込む。踏みつけは……来ない。


 ──決着は、あくまで拳で。それがお前の『武人の誇り』ってことか……!


 ──さらにはげしさを増す応酬。この世のどんな戦場よりも危険デンジャラス。生き残れ!


 ──あの拳は『フェイント』だ。釣られたら最後、本命の拳に叩き潰される。


 ──その息遣い……『溜めてる』な? もうすぐ来る、『地獄のラッシュ』が……!


 ──ああ、お前、こんなにも強かったんだな……!



 


 「最後は……相打ち、か……」


 砂浜に膝をついた寿限ムが、息を荒げながら一人呟く。

 お互いHPはゼロ。……完全に同時だった。あえて勝ち負けを付けるなら、『引き分け』。

 そして寿限ムはバタリと後ろに倒れると、砂浜の上で仰向けに大の字に横たわる。

 空を見上げながら、寿限ムは思った。

 

 ああ……空が青い。

 あれだけ時間をかけて引き分けだったというのに、寿限ムの心の中は清々しい気持ちで一杯だった。どこかホッとしたような……そんな気分だ。


 ──そうだよな。幻との戦いで決着を付けようだなんて『粋』じゃないよな。


 そして寿限ムは、仰向けのまま腕を組んで、満足げな表情を浮かべるのだった。


 ……と、カッコつけたはいいけれども。


 ──いやいや、俺負けまくったけどな!?

 

 そして寿限ムは髪をくしゃくしゃしながら思い返す。えーっと、何回負けたっけ……正直序盤の方で面倒くさくなって数えるのを止めたんだけど、多分『1000回』ぐらいか……? うわっ、言い逃れできないぐらい、やられっぱなしじゃねーか。……いやー、やっぱつえーわ。オーガ。


 そして寿限ムは立ち上がると、目の前のオーガと向かい合った。

 オーガもまた、無言でこちらを見つめている。


「…………」


 スッ……オーガが俺に向かって手を差し伸べてくる。


 ……。


 コイツは俺の頭の中が作った、幻のオーガだ。だからこれは、俺が勝手に友好的に感じているだけに過ぎない。しかし、それでも……。


 


 ガシッ。寿限ムは差し出された手を握り返す。

 

 そして──


 「あははははっ! 冷たっ!」


 ざばーん。戦いを終えた浜辺には、"2人のシルエット"があった。


 『スーツ姿』の寿限ムと、『半裸でムキムキ』のオーガ。……体格どころか何もかも異なるこの両者は、まるで『夏休み終わりに浜辺までやって来た幼馴染同士』のようにはしゃぎ合い、水を掛けあうのだった。

 さっきまで歯をむき出しで戦っていたオーガも、今はニコニコ笑顔だ(画風変わった?)。

 オーガは両手で水をすくいあげると、こっちに向かって「ブン!」と掛けてくる。その威力はもはや水鉄砲どころか水大砲だ。全身びしょ濡れ……。

 ……やったな!? こちらも負けじと水鉄砲を生成クラフトすると、オーガに向かって水を乱れ撃つ。あっという間にお互い"びしゃびしゃ"だ。


「おーい!」


 オーガと2人で海岸線を走る。ダンジョンでモンスターと青春! ……


「はぁ、はぁ……さすがに疲れたな……」


 寿限ムはバッタリと浜辺に寝転がる。流石に疲れた……現実世界だと30分も経っていないけれど、でもオーガとは『1000回』は戦ったからな。

 楽しかった。本当に強くなれたかは分からないけど、とにかく楽しかったな……。


 …………。


 うん、休もう。流石にちょっと疲れた……というか、眠い。

 もはやオーガの気配も感じなかった。そしてオーガとの戦闘で過度に集中した寿限ムは、脳の疲れからか意識がぼんやりとしていく……。


 ──段々と霞む目。しかし……


「…………」


 ……何かが、いる? 寿姿

 誰かは分からない。だがその誰かが、無言で俺の顔を覗いている。

 姿はどこか人間っぽい。だがおかしいな。その割に、眼が見えるんだが……?。


 Θ


 額に、眼が付いている……?


 ……うねうね。うねうね。

 そしてヘンなのは眼だけではなかった。

 その人影の背後には、何やらうごめいていた……


 もしかして、モンスターなのか? でもその割には、襲ってくる気配がないような……

 それにソイツは俺を見て、どことなく笑みを浮かべている。肌で感じるのは、少なくとも敵意ではない。……どちらかというと興味とか、好奇心の類だ。


「誰……?」


 しかし、そう声を掛けようとした瞬間。

 寿限ムは眠気に襲われるがまま、意識を手放すのだった……





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