第12話 「【ゆる募】モンスターのいない島で強くなる方法【Lv上げ不可】」

 ◇


「……本当に何もない島だな」


 寿限ムはボソリと呟く。

 本当に小さな島だ。端から端が見渡せるぐらいのスケール感で、島の上にあるものと言ったら、ヤシの木が数本生えてるのと、小さな小屋がポツンと一軒家してるくらいだ。


 偶然見つけた何の変哲もないこの島だが、一つだけ秘密があった。

 それはというもの。何だか既視感を感じる設定だが、とにかく強くなるにはうってつけの場所だ……と思いきや、1つだけこの島には重大な欠点があった。それはもう、致命的な。


「……モンスターが居ないんじゃあなー。『Lvこそが強さ』なんだし。『Lv上げができない』イコール『強くなれない』……さて、どうしたものかな」


 いくら時間の流れが遅くたって、Lvを上げられないんじゃ強くなれないじゃないか。

 むむむ……どうにかしてLvを上げずに、強くなる方法を考えないと……!

 そして寿限ムは砂浜にしゃがみ込むと、ジッと考え込む。


 ──ん? 『考える』? 『考える』か……そうか、なるほど。その手があったか!


 ……実際に敵と戦わなくても強くなれる方法なら一つだけ知っている。偉大な『格闘家グラップラー』がやっていたあの方法だ。今この島でできるという条件を考えたら、もうしかない……!


 そして寿限ムは、早速その『思いつき』を試してみることにした。

 

「…………」


 。目の前に、『ヤツ』がいる。

 寿限ムがやったことと言えば、ただ集中して、集中して、集中して……とにかく集中して、思い浮かべただけだ。

 ……これってこの島の影響か? いつもより集中力が上がっている気がする。あとはまあ、慣れているからかな。『生成クラフト』を使う時に、よく物の形とか思い浮かべたりするから。


「にしても、リアル過ぎるだろ……」


 ……そして寿限ムは、興奮しながら呟く。


 ──



 ◇



 ……オーガの拳が視える。間に合わない、『詰み』だ。

 ああそうか、あそこでああ動いたからダメだったんだな……その代わりに、こう動いたらどうだろう……死んでない。まだ行ける。繋がる。


 ──よし、もう一回だ!


 仕切り直しだ。再びHPが満タンの寿限ムとオーガが、正面から向かい合った。

 これで脳内で作り出した幻のオーガとの戦闘は『30回目』だ。30戦、30敗。全てジョブは『格闘家ファイター』での挑戦だった。

 妄想のオーガとの戦闘──それが寿限ムが見つけた『Lv上げなしで強くなる方法』だった。

 

 ……確か、令が言ってたっけ。漫画を描いていると、たまに『キャラが勝手に動き出す』ことがあるって。今、俺はそんな気分です。

 自分の妄想が勝手に動き出すなんて、あるもんなんだなー。


 …………。


 ……ていうかコレ、本当に俺の妄想か?


「──マジで! 目の前のオーガ、本物じゃないよな!? 動きも! 形も! オーガそっくりだ! ……まさか、こんなところで再戦できるなんてな! フッ……ここで会ったが百年目、今度は『格闘家』だけで全HPを削り切ってやるよっ!」


 名古屋での戦いの時は、オーガのHPが2割になったところで寿限ムが『格闘家』にスイッチし、そこから真っ向勝負で勝利した。

 ……でも理論上、全てのHPを『格闘家』で削り切れるんじゃないか? そう寿限ムは思ったのだ。だって残り"2割"を削り切ったんだしな!


「はぁ、はぁ……これで、やっと5割か……」


 ……だが、現実はこうだ。

 分かった。これで10割全部削り切ろうと思ったら、『機転』や『ひらめき』だけでは絶対に足りない。適切な時に、適切な技を即座に出せる技量と判断力。すなわち『プレイヤースキル』を煮詰めていかないとお話にならない……!


 今のままじゃ無理。でも、絶対に諦めない。だって……カンペキに勝つ、だろ?


 ……という訳で寿限ムはスマホで時刻を確認する。まだ戦い始めてから、1分も経っていない。妄想オーガとの戦いで集中し始めてから、さらに時間が進む速度が遅くなった気がする……だがこれは好都合。まだまだ挑戦する時間はあるって訳だからな!



 ──52敗目。


「──ぐわああああああ!!!! ……まだまだ、もう一回ッ!!!」


 ──76敗目。


「──まじかよおおおおお!!! ……っ、それでこそ俺の『好敵手ライバル』だ!」


 ──122敗目。


「──うわあああああ!!!! ……や、やめとくか? そろそろ……いや、ここで諦めたら『負け』な気がする……。よーし、こうなったらとことん付き合ってやるぜ! 覚悟しろよ、『オーガ』っ!」



 

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