第11話 「『全知全能エレベーター』と『瞑想の島』」


-----------------------


アーティファクトNo.007【全知全能エレベーター】


・危険度:★★☆☆☆

・有用度:★★★★★


 にっぽん探索者協会の東京本部ビルに生息する自律型アーティファクト。横幅&奥行1.5メートル、高さ2.2メートルの一般的なエレベーターの姿をしている。

 定期的にビル内のランダムな地点に出現する。人前に姿を現すことは稀であり、狙って遭遇することはできない(遭遇率0.001%以下)。

 乗るとビル内のあらゆる階層・地点に移動することができるが(本来エレベーターでは行けない階層も含む)、行き先はエレベーター自身が決定する。エレベーター内部の空間1.5m×1.5m×2.2mに限り全知全能であり、エレベーターに乗り込んだ人間の思考を深層心理まで読み取って、『その人物が最も望むであろう階層(95%)』か『最も望まない階層(5%)』のどちらかに移動する。

 その特性上、内部のエレベーターボタンは飾りであり、押してもその階層には移動しない。


-----------------------


 ◇


 ──そのエレベーターは、一見特に変わったところもない『普通のエレベーター』に見えた。


 寿限ムは目の前のエレベーターの中に足を踏み入れる。

 エレベーターには何度か乗ったことがある。確か行きたい階のボタンを押すんだよな。ドア脇のスペースには、ずらりと数字の書いてあるボタンが並んでいる。とりあえず、数えてみるか。

 一番小さい数字は『』で、一番大きい数字は『』。つまり……150のボタンが並んでいることになる。へー、ってことは、このビルは150階まであるのかー。 


 ……ん? 150階?


 とりあえず『①』のボタンを押すと、扉が閉まり、エレベーターが動き始めた。

 そして寿限ムは、ようやくひと心地つく。


「ふぅ……やっぱり、こういう狭い場所の方が落ち着くな……」


 さっきまで『どこまでも続きそうな廊下』みたいな場所にいた分、余計にそう思う。今は自分の居場所がハッキリしていることの安心感が半端ない。

 耳に「ウィーン……」と単調なモーター音が聞こえてくる。こんなノイズでさえも、シーンと静まり返ったあの廊下を考えると、いい感じなBGMに聞こえてくる。

 ここは考え事をするのにぴったりの空間だ。そう思うと、何故か頭の中が冴えわたってきた。


 …………。


 「もっと強くなりたい」と、寿限ムはふとそう思った。

 なぜ自分がそう思ったのかはよく分からない。だが、確かにそう感じていた。


 ──あの『白髪の少年』……あの強さはヤバかった。というかあれ悪魔だよな。反則だろ。絶対まだ実力を隠してるって。


 ──冥華とやらの連れてきた、『超高校級のアスリート』……あれだけ自慢するぐらいだから、きっと強いんだろうな。それに恵まれた環境に育って、生活のことを気にせず1つのことに打ち込んできたなんて……正直羨まし過ぎる……。


 ──そして、『刻花』……刻花の壇上町での扱いは凄かった。もはやレジェンドと言っていい。メッチャ有名人だし。ヤバいだろ、アレ。あと冥華変なヤツにライバル視されてるし……正直、メチャクチャ遠い所に行ってしまった気がする。隣に行きたいのは俺の方だって……。


 そんなとりとめのない思考が、無意識で寿限ムの脳内を駆け巡る。

 そして、寿限ムはポツリと呟くのだった。


「はぁ…………」


 その瞬間──エレベーターは停まったかと思うと、今度は


「へー、エレベーターって、『横』に動くこともあるんだなー」


 …………。


「……ってそんな訳ねーか! 1階に行くだけなら、下に動くだけで十分だもんな!?」


 そんな小ボケをかましている間にも、エレベーターは絶え間なく動き続けている。

 思わず1人でノリツッコミをしてしまったが、正直異常事態だよな、これ。

 ……ていうか今度は『前』かよ? おいおい、どうなってるんだ? ──ダダダダ、『①』を連打してみるも状況は変わらず。どこに行くんだコレ……!


 ガタン。エレベーターは完全に停止する。そして「チーン」というチャイム音と共に、エレベーターのドアが開いたのだった。


 ──ザザー……


「……砂?」


 寿限ムは眼前に現れた思わぬ景色に、思わずヘンな声を出してしまった。

 間違いない、砂だ。目の前の足元は、サラサラした粒状の砂で一杯になっている。

 メチャクチャ砂があるんだが。なんだここ。砂場か? でも砂場にしては広すぎるというか、そもそも何で室内に砂場なんてあるんだよ。


「……どう考えてもおかしい。ここは出ない方が良いか……? ──あっ」


 ドスン。突如寿限ムを襲う、背中を押される感覚。

 「やべっ」とそう思った時には、もう寿限ムは押し出される形でエレベーターから降りてしまっていた。なんだ今の。後ろを振り返っても何もいな……あ、エレベーターの扉が消えた。


「…………」


 寿限ムはぐるりと辺りを見回す。そこにあったのは、

 ……え? え?

 そして寿限ムは、ボーゼンと呟く。


「──『海』? ビルの中に、『海』……?」



 ◇


 ──砂浜、ヤシの木、そして一面のマリンブルー。


 どうやらここは、『無人島』……のダンジョンのようだった。


【ダンジョン攻略推奨Lv:??】


 振り返ると、そんな文字列が空中に浮かんでいる。

 ……ハテナハテナか。前にも見たな、コレ。遊園地のダンジョンと同じだ。確かあの時令が言っていたな。『ハテナハテナ』は『特殊なギミック』があるダンジョンの証だと。


 つまりここは、ダンジョンはダンジョンでも『特殊なギミック』があるダンジョン……。


 少し歩いてみる。ダンジョンなのにモンスターは居ない。そしてさざ波の音が「ざばーん」と聞こえてくる。間違いなく本物の水だ。見渡す限り海。お日様さんさん。


「──まさか、ビルの中で『遭難』ッ……!?」


 砂浜にSOSの文字を書き、木に生えたヤシの実を取る。生成クラフトした図鑑で確認。うん、食べられるな。砂浜に腰を下ろすと、カチ割ったヤシの実をかじった。

 いい場所だな。ただし、ここがどこなのか分からないことを除けば。そして寿限ムは、つかの間の常夏ハワイ気分を味わう。泳げないから海を眺めるしかないのが悲しいな……。


 ……はぁ、大体15分ぐらい経っただろうか。すまない、桃。詠羽、刻花。つい現実逃避で時間を潰してしまった。早く戻らないと……。

 そして寿限ムはスマホの画面を見る。


 !?


「……見間違いじゃない、よな? まだ『30秒』も経ってないんだが……!?」


 いや落ち着け。こういう時は、『生成クラフト』をもう一回使ってみれば分かる。

 なぜならこのスキルはクールタイムが5分と決まっているからだ。図鑑を生成クラフトしてから、とっくの昔に5分経っているはず……。

 そして寿限ムは、適当に「浮き輪」を生成クラフトしてみることにする。


 すると……?


【スキル:『生成クラフトLv1』クールタイムあと274秒……▼】


 そして、寿限ムは超速理解する。



 ──その島の名前は、『瞑想の島』。

 "迷宮都市"の階層の一つで、その島にいる人間は集中力が増大し、その者の集中力次第では、と言われている……。



「──もしかしてこの島、上手く使えばメチャクチャ強くなれるのでは……?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る