第9話 「アイテム鑑定」


 ◇


「はい、こちらですね。……それでは『ワクワク鑑定タイム』に入らさせていただきます」

「お、おう(ワクワク鑑定タイム……?)」


 そして寿限ムは、『水が無限に湧き出るカップ』を手渡す。その"協会専属の鑑定士"さんは白い手袋を付けた手で受け取ると一瞥いちべつ。机の上に置き、その横で何やらカリカリとペンを走らせる。その様子を寿限ムは、カウンターの向こうから興味津々といった様子で見つめるのだった。


 今寿限ムたちがいるのは、協会本部2階にある『アーティファクト鑑定所』の受付カウンター。そして鑑定士さんが今やっているのは、アイテムが"Aクラス危険アイテム"に相当するかどうかの鑑定作業。

 当たり前だけど、協会は何でもかんでも危険アイテムとして引き取ってくれるわけではなく、こうやってプロの鑑定士が検査した上で引き取ったり、「今回はご縁がなかったということで……」と返したりするのだ。

 アイテムの入手経路も重要な情報だ。今回の場合、未登録のダンジョンで、色付きのユニーク宝箱からの入手なのだが、そういった情報も『D-appでぃ~あっぷ』を通じて提出されている。


「結論から申し上げますと、こちらのアイテム……"Aクラス危険アイテム"に相当すると見て間違いないかと思います」

「やりましたね! これで『100万円』ですよ!」

「マジか、やったな! でも、こんなのでも『Aクラス』なんだな……」


 そしてそれから寿限ムたちは、カップについて鑑定士さんから詳しい説明を受ける。

 アイテム説明にあった『水が無限に湧き出るカップ』という記述。しかし……


「証明してみましょう」


 そして鑑定士さんは、アイテムボックスからあるモノを取り出す。銀色に光る、ペンほどの大きさの小さな刃物──『医療用のメス』である。

 そして彼女は何を思ったかその切れ味鋭い刃で、カップの表面を斬りつける。うん……? そしてそのカップをこちらに見せてくるのだった。


「見えますか? ここ、カップに付けた傷が徐々に『再生』しています」

「本当だ……あれ? でも何かおかしくないか? 普通アイテムってこんな簡単に傷ついたりしないだろ?」

「おおー、吉田くん鋭い。……確かにヘンですよね」

おっしゃる通り。ですのでこれは、厳密にはアーティファクトではありません。現実世界の物品──"『再生Lv3』が付与されたカップ"になります」


 つまり『水が無限に湧き出る』のではなく、『』カップだったのである! ……いや、滅茶苦茶ややこしいな!

 一般的に『再生』の効果エフェクトが付与された物品がこのような現象を起こすことは珍しいとのことで、『Lv3』というグレードの高さが影響しているのかもしれないと鑑定士さんは言っていた。

 なおアーティファクトではない件については、アーティファクトではなくとも扱いはアーティファクトに準ずる『準アーティファクト』という分類があるそうで、このカップは見事にコレに該当。そして認定基準である『社会の存続に影響を与えるか否か』も"無限系"なのでYES。


 ……ということで、『水が無限に湧き出る』もとい『水が満ちた状態が無限に再生し続ける』カップは"Aクラス危険アイテム"に認定されたのだった。

 それから書類に幾つか署名する必要があり、寿限ムがペンを握る。……えーっと、『所有権の譲渡』……はアイテムボックスに格納する条件なんだっけ。同意っと。よし!


「こちらが報酬の見積もりとなります」

「「いち、じゅう、ひゃく……100万円!」」


 そして提示された見積書を見て、寿限ムと桃は一緒に大喜び。2人で分けても50万。Wow! 英語がサッパリな俺でも思わずアメリカンになってしまうぐらいの大金だ……!

 だが落ち着け俺、今すぐに報酬のお金が貰えるわけではないらしく、これから奥で『最後の検査』とやらをするのだそうだ。それが終われば、100万円は無事俺たちのモノ。Yeahいえーい


「それではお時間になったらアプリでお呼びしますので、しばしお待ち下さい」


 ──それだけを言い残して、鑑定士さんはカップをアイテムボックスにしまうと、奥の扉の中へ入っていくのだった……。

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