第8話 「”迷宮都市”」
◇
そして──それから特に何事もなく、寿限ム一行は『東京』へと到着。
そこから一度、電車の乗り換えを挟んで、今はあと数駅で秋葉原駅に着く頃となっていた。
寿限ムは窓の外を眺める。ビルが立ち並んでいる様子を見ると、やはり『東京』に来たという気分になる。……ていうか、意外と自然もあるんだな。てっきり東京って、ビルばかりだと思っていた。そして街並みに見えるモンスターの傷跡も生々しい。
だがしかし、人間とはたくましいもので、見てくれさえ気にしなければ結構生きていられるものだ……と、流れゆく景色を眺めながら、寿限ムは感じさせられたのだった。
「協会本部のビルの中って、何だか色々あるみたいですね」
電車に揺られながら、隣で桃がスマホ片手に何やら調べ物をしている。
隣から覗いてみると、どうやら協会公式HPの施設紹介ページのようだった。画像付きで、ビル内の様々な施設が紹介されている。桃はそれらを一つずつ読み上げ始める。
「えーっと、アミューズメントエリアには……映画館、ゲームセンター、ショッピングモール、レストラン、室内プール、温泉、卓球場、ボーリング場、コンサートホール、
「ああ、確かに外から見た感じ、相当デカかったもんなー」
「いえ、吉田くん。……これ、『相当デカい』程度じゃ説明が付かないレベルですよ。例えるなら、『大食いキャラの胃袋』ぐらい外見と中身の
桃がスマホの画面をスクロールする度に、「やっぱり……」と桃の表情が疑問から確信へと変わっていく。その様子を見て、腕組みの詠羽は得意げに言う。
「……フッ、察しがいいな。そうだ! 桃の言う通り、あのビルはタダのビルじゃない。ダンジョンと
「──"迷宮都市"、だ」
◇
【協会本部1F・ロビー】
強化ガラスでできた自動ドアを通ると、そこには広々としたロビーが広がっていた。
床は全体がツルツルした白のセラミックタイル。正面は全面ガラス張りになっており、明るく開放感を感じさせる。
「やっぱり、フツーのビルですよね……」
入り口の辺りで桃が呟く。寿限ムも同意見だった。
……ビルだ。普通にビルだ。さっき外から外から見た時も思ったけど、他のビルとは高さがちょっと違う(高い)だけで、別に違和感を感じるところは特にない。
ロビーを行き交う人々の数も、さっきまでいた駅と同程度。ソファに座ってスマホをいじっていたり、誰かと電話をしていたり。ダンジョンでありがちな緊張感というのもない。
協会の本部らしく、ロビーの至る所に『N.E.O.(Nippon Explorer Organization)』とロゴが書いてある。曰く、『にっぽん探索者協会』を英語で書くとそうなるらしい。略して『ネオ』。……ふーん、カッコイイじゃん。職員らしき人の胸元にもロゴが入っている。
なるほど『N.E.O.』か……確かにここは、協会の本部で間違いないらしい。
……本当に、フツーのビルだ。だがしかし、このビルはダンジョンと一体化しているのだという。今のところはいたって普通だ。だが、その内本性を現すのかもしれない……。
「まずは『鑑定』だな。……確か2階だったか?」
一方の詠羽は慣れた様子で、寿限ムと桃の2人を連れてロビー奥にあるエスカレーターまで案内する。途中、数人の若者とすれ違った。彼らも全員探索者なのだろう。
……というかあれ、『神社』だよな?
ロビーの向こうにあるのは、見慣れた形の鳥居とその奥に見える小さな御社殿。まさか、わざわざ室内に作ったのか? ジョブチェンジの為に……?
……やっぱり普通のビルじゃなかったわ。別の意味で。恐るべし『探索者協会』。
どうやら2階は吹き抜けになっているようだ。エスカレーターで移動中、詠羽がこっちを振り返る。……真面目な顔だ。そして寿限ムと桃の2人に向かって言うのだった。
「2人は初めてだろうから忠告しておく。このビルで迷いたくなかったら、階段で移動しろ。……ここの『探索者向けの施設』は大体5階までにあるから、それで足りるはずだ」
「……今エスカレーターに乗ってますけど」
……確かに言えてる。しかし桃のツッコミに対し、詠羽は不敵な笑みで返す。
「フッ……エスカレーターは使って良し! 我の法ではエスカレーターは階段とする! ……とにかく、『エレベーター』だけは安易に使うんじゃないぞ」
「『エレベーター』か。なんで使っちゃいけないんだ?」
「理屈は知らん。だが実際、最初は我も迷った。慣れないうちは階段で移動するのが無難だな」
「……ふーん、なるほどな! 分かったぜ(絶対分かってない顔)」
……よく分からないが、そういうことらしい。
そして詠羽の言葉に、寿限ムは適当に
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