第5話 「『ネクストステージ』」
◇
──ダンジョンで手に入れられる『アイテム』。
その中でも特に、ゲームシステムの数値(ステータス、属性、ダメージetc……)ではなく、現実世界の物理法則・因果律などに対して干渉するアイテムのことを『アーティファクト』と呼ぶ。
例えばこの線路には、現実世界の物質に対して『再生Lv1』を付与する希少なアーティファクトが使用されており、仮にモンスターによる攻撃で傷を受けても、それが軽微であれば自己修復されるようになっていた。
「最後の一匹っ! こ・れ・で──終わりだッ!」
渾身の右ストレートをお見舞いすると、見事ゴブリンは一撃で消滅したのだった。
「ふぅ……これで全部だよな? よし全滅確認! ……ってな訳で、2人ともお疲れー」
「お疲れ様です。結局10分ぐらいかかりましたね」
「フン、雑魚は良く群れるというからな!」
パン、パン、パン。そして3人はノリよくハイタッチを交わす。まあ正直、大したモンスターたちじゃなかったな。経験値もドロップもしょっぱいし、本当に単調な作業だった。
……しかし本ッ当に、あいつらと来たら。そして寿限ムは、電車の方で腰を下ろして駄弁るあいつらに対してジト目を向ける。
結局『鉄の騎士団』の連中、一度も戦うことはなかった。それどころかこっちの戦いを横目で眺めながら、のほほんと雑談まで始める始末。
「今も駅の電光掲示板には、時刻表の時間ではなく、『電車の現在地点から逆算した到着時刻』が表示されている。これは由々しき事態じゃないか? 本来ならそこには、完全に計算され尽くされた美しきダイヤグラムが刻まれていなければならないのに……!」
マジで何言ってんだこいつら。……まあいい、モンスターも全部倒し終えたしな! さっさと電車に乗って、秋葉原へ向かうとしよう。
そして寿限ムたちが再び電車に乗り込もうした、その時──
「──な、何だ今のは!?」
突然の地響きと爆音に、『鉄』の人達がビビり始める。一方で、詠羽は冷静に言うのだった。
「これは──戦闘音か!? おそらく、近くで誰かがモンスターと戦っている……」
「……なるほど、そっちがボスってわけか」
嫌な気配を感じる。たぶん……向こうからだ。
相当強いモンスターの気配。まるでオーガみたいな……つまり、今まで戦ってきたモンスターは、そのボスの取り巻きに過ぎなかったという訳だ。
……どうする? 今そいつは線路上にいる訳じゃない。そもそも相手は建物に隠れて姿も見えないのだから、当然向こうはこっちに気づいていないだろう。
このまま電車に乗りさえすれば、この場はやり過ごせるはずだ。
正直、ここは逃げるのもアリかもしれない……
──いいや、突っ込むね!
そして寿限ムは、地上約7メートルの高架複線の上から飛び降りる。
「
巨大なふかふかクッションの上に着地し、落下ダメージを回避。
やっぱり、敵の面も拝んでないのに尻尾巻いて逃げるのはナシでしょう! そして寿限ムは頭上の高架複線を見上げる。その顔にはワクワクした表情を浮かべていた。
「スマン! オレ、ちょっと行ってぶん殴ってくるわ!」
「ちょっと吉田くん、危なくないですかー?」
「大丈夫、無理ゲーっぽかったら即逃げするから!」
ま、こっちは格上を相手にするのは慣れているんでね! 某『オーガ』のおかげで……。
そして寿限ムは、高架上の詠羽と桃に向かってピースサインを送る。それを見た詠羽は、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「フッ……貴様らしいな。良いだろう、付き合ってやる。──途中下車だ! 我々のことは放っておいて、勝手に出発するがいい!」
◇
──識別名『
──"迷宮都市"攻略。
──沖縄奪還。
モニターに表示されているそれは、協会が現在抱えている"3つの難題"だった。
現在の達成率はそれぞれ、16%、32%、5%……いずれも、協会が掲げた目標値には到底及ばない数値である。
「そもそも
「"迷宮都市"の広さに、探索者の数が追い付いてないのが現状です。『オーフェン』の協力により、高難易度の上層と低難易度の下層に分かれていることが分かりましたが、『足切りライン』に達した探索者の数が想定以上に少なく、探索は思ったように進んでいません」
「こりゃもうダメかも分からんね、沖縄は……もはやモンスターの生産工場だよアレは。海路もダメ、空路もダメ。頼みは衛星画像だけだが……何じゃこりゃ。『サーペント』の巣が東京ドーム10個分はあるじゃないか。そりゃあ海洋がヤツらの天下になるわけだわ」
──『にっぽん探索者協会』の本部ビルの上層、大会議室。
そこでは協会の事務方が、3つの島に分かれて喧々諤々の議論を行っていた。内部資料を片手に語る過程で出来た共通認識は一つ。戦力増強が必須であるということ。
──今のままの成長曲線だとまず間違いなく、この国は壊滅的な被害を被る……!
……それが明日なのか、はたまた10年後なのかは分からない。だがいずれにせよ、それが将来の他人事であると楽観視する者は、この会議室内には誰一人としていなかった。
「やはり、『例の件』を軸に進めていくしかないようだな……」
誰かがボソリと呟いた。
するとタイミングよくモニターの画面が切り替わり、新たな文字が現れる。
『探索者ランク制度』。
モニターの前に立っているのは、スーツ姿のスラリとした女性。彼女の名は『姫島』。年齢不詳の傑物にして、『にっぽん探索者協会』の現会長であった。
姫島会長は注目を集めるように、パンパンとニコニコ笑顔で手を叩く。
「それでは皆さん、ご注目。今回の本題に入りますよ。『探索者ランク制度』、この制度の目的は3つ。『人材の発掘』、『競争による全体の底上げ』、そして──『この国の国難対応能力の可視化』です」
姫島はそこで区切ると、一旦間を置いて続ける。
「……はい、というのは全て建前で、本当は『"迷宮都市"の攻略メンバーの選抜』が唯一絶対の目的です。──"迷宮都市"を攻略した暁には、我々は『人類のネクストステージ』に進むことができるでしょう」
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