第4話 「お客様の中に、『探索者の方』はいらっしゃいませんかー?」
◇
壇上町の駅前のロータリーの景色は、地方のちょっぴり大きめな駅前的な風景を思い浮かべればそれが正解だ。
歩道橋があり、東町行と西町行の2つのバス停があり。申し訳程度に木が植えてある。あとは前はやたらとタクシーが停まっていたのに、モンスターの影響だろうか、今はめっきり姿を消してしまっていた。
駅の中は……まあ駅だな、といった印象だ。人波はそれなりで、中には『現在試験運行実施中(水曜日・土曜日)』と大きく書かれていた。現在稼働しているのは東京方面のみで、試験運行のため本数も大幅に絞られているのだそうだ。
「そう言えば、吉田くんは電車は初めてなんですよね。……知ってますか? 電車って危険がいっぱいなんですよ?」
「……そうなのか?」
「ええ! ですので、私が守ってあげますね! ふへへ、まずは腕を組んで……」
「おい、嘘ついただろ」
「あ、バレました?」
相変わらず桃は油断も隙もない。寿限ムは駅内をぐるりと見回す。
……なるほど、あの四角い箱。なんだと思ってたけど、電車の出発時刻が出るのか。停電中の駅にしか来たことなかったから知らなかった。
あとは、特に変わったことはない……いや、アレがあるな。
「ん? なんかヘンなのが混じってるな……あの人たちは?」
寿限ムが指さす先には、『明らかに一般市民じゃない』異様な人々が混じっていた。全員が同じ服を身に着けていることから、おそらく何らかの集団だろうことは分かる。彼らは軍服ちっくな黒っぽい戦闘服を身に纏い、何やら駅の構内の見回りをしていた。
「ああ、あれは『鉄の騎士団』だな。確か……『日本の鉄道風景の復興を目指す探索者ギルド』だったか。ダンジョン攻略には興味がない連中だ。当然、他のギルドと連携する機会も少ない。まあ特に鉄道趣味でもなければ関わり合いになることはないだろう」
「詳しいですね……もしかして詠羽さんって、全部のギルドを覚えてるんですか?」
「フッ……まあ我は帝王にして天才だからな! この程度の知識、我の『灰色のデータベース』にかかれば『1+1=2』のようなものだ! 幾らでも我を頼るが良い!」
えっへんと得意げな詠羽。詠羽によると、ああ見えても『鉄の騎士団』は全ギルドでも10本の指に入るぐらい大きなギルドなのだそうだ。とにかく人数と、『隠れ支持者』みたいなのが多いらしい。なんでも鉄道好きは各界に散らばっていて、そういう人たちが金銭面などで支援を行っているのだと。ふーん。
そして寿限ムたちは改札口を通過する。ちなみに運賃はタダだ。『探索者割』なるものが存在し、探索者はタダで電車に乗ることができるらしい。それを聞いた桃は大はしゃぎで、「タダ!? タダで電車に乗れちゃっていいんですか!? ヤバ過ぎます……探索者になってよかった……」とメチャクチャ喜んでいた。曰く、「交通費は『敵』ですから」らしい。……そうなのか?
「そうですよ? 交通費はスリップダメージのようにお財布を蝕んでいきますから。吉田くんもそのうち分かりますよ……」
「へー、何か実感籠ってるな……」
と、そんなことより、電車が来るまであと5分……地味にワクワクするな。それまで寿限ムは駅のホームで電車を待つ。──来た!
ガタンゴトンという音と共にやって来る、『鉄の箱』だ。長い。メチャ長い。電車って、こんなに長かったんだな……と謎の感慨に耽りながら、寿限ムは中に乗り込むのだった……。
◇
「はぁ、はぁ……タダって、こういうカラクリだったんですね……!」
桃がそう呟きながら、ゴブリンの頭をビュンと射抜く。寿限ムも詠羽も、それぞれモンスターと戦闘を繰り広げていた。
そしてそれから少し離れた場所に、電車が停車している。
探索者がタダで電車に乗れる理由──それは、『運賃代わりに線路上のモンスターの排除に駆り出されるから』なのであった。世の中、そうそう美味い話はないってことだな!
いやー、唐突に電車が停まって、「お客様の中に、探索者の方はいらっしゃいませんかー?」みたいなノリで呼び出された時は流石にビックリした。
……ちなみに『鉄の騎士団』御一行は後方、電車を囲んで"鉄の布陣"を引いている。いや、お前ら戦わないのかよ。
「無論だ! どこから伏兵が出てくるか分からないからな! ……心配するな、この『E231系』は我らが絶対に傷つけさせはしない!」
……と、『鉄の騎士団』のメンバーの一人、黒髪の青年が武器を構えながら自信満々でよく分からない言葉を言い放つ。いや、別に2、3人ぐらい前に出てきても平気だろ。後方には10人以上控えているみたいだし。その制服と武器は飾りか?
「……何なんですかあの人たち」
「マジで何なんだアイツらは」
桃とハモる。そして詠羽が言う。
「だから言っただろう? ヤツらは電車が無事かどうかしか興味ないからな。連携しようとしても無駄だ。さて、さっさと片づけるぞ! ……フハハハハ! 喜べ、5割の力を見せてやる!」
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