第22話 「『こんえば~☆ミ』『突発配信?』……そして始まる"ダンジョン配信"」


「最終試験だ! 貴様がこのギルドに入団できるか否かは、この『ダンジョン配信』で決める!」


 ……と詠羽が言い出してから、はや1時間。


 表現の方向性はともかくとして、詠羽の実直さ・真面目さはギルド内でも認められており、その詠羽が言うのならと、刻花ほかギルドメンバーはこの『ダンジョン配信による入団試験』を可決。そして『配信の準備』とやらを終えると、詠羽は寿限ム(とおまけに桃)を引っ張り、及川邸を飛び出して行ったのだった。


 一方の及川邸では、残された刻花、戻子、令の3人がリビングのソファに座りテーブルを囲んでいた。


「あははっ。えばっち、2人とも連れて行っちゃったねー☆ でもダンジョン配信だってー。ボスはどう思う?」

「……ジュゲムなら心配する必要ないと思うわ。……面白いから」

「それは言えてる」

「あ、もう配信枠が立ってる。そろそろだね」


 ──そして3人はスマホを手に、配信の視聴を始めたのだった……。


 ◇


「髪を赤く染められた……」

「フン、銀髪は我一人で十分だからな!」

「なんだかワイルドな感じになりましたね。私はこっちも好きです」


 先頭を歩くのは詠羽だ。白黒のモノクロちっくな意匠の服を身に纏い、十字架やら何やらジャラジャラとした物で身を固めている。そしてそんな詠羽に連れられて、寿限ムと桃の2人は、試験の会場であるダンジョンへと向かっていたのだった。

 ちなみに寿限ムの髪の赤は戻子が染めたものだ。キャラ被りを危惧した詠羽の意見が通った形だが、そこはまあ別に俺も自分の意志で染めた訳ではないので気にしてはいない。だがこの髪の赤はおかしいだろ。なお戻子曰く『こっちも似合ってるし』だそうだ。いや、そこは黒に戻すとこじゃないのか……。


 しかしそれにしても……。寿限ムは前を歩く詠羽を眺める。

 さっきまで気づかなかったけど、何気にスラっとしていて思っていたより背が高いというか、スタイルが良い。でも、こんな感じだったっけ……? と思う寿限ムだったが、ハッと気づく。

 そうか、ピアノ部屋で見た『ウサ耳パーカー』の時に小柄に見えたのは猫背だったからか。あの時は第一印象キョドっていて自信なさげな感じだったが、今は自信満々と言うか、ピンと背筋が伸びていて……も強調されて、まるで別人のようだった。


「にしても、ほぼ入れる流れだったのに……副団長だからって一人でひっくり返すのはズルじゃないか?」

「ズルじゃないな! だって我偉いから!」

「話が通じねえ……」


 そして『異性と1対1で配信をするのは良くない。配信的に。だからもう一人の新人、貴様にもついて来てもらう! あ、試験を受けるのは貴様の方だけだからな! 勘違いするなよ!』といった流れで連れてこられた桃も、何やら普通にノリ気な様子で、


「配信の出演料とか貰えるんでしょうか」

「フン。ならば配信を盛り上げ、我がリスナーに入団が認められた暁には──この我が何でもしてやろう」

「何でも!?」

「何でお前が食いつくんだよ」


 寿限ムがツッコむ。にしてもメチャクチャ早かったな、食いつきが。


 ……とそんなこんなで、そろそろダンジョンが近くなってきた。頃合いを見計らって、桃は詠羽に聞こえないようにこっそり耳打ちしてくる。


「実は私、配信には多少の経験があるんです。……吉田くんが合格できるよう、全力でサポートしますから」

「……そうか助かるな。それで、そもそも『ダンジョン配信』って何なんだ?」

「最近流行りのアレです。ダンジョン攻略の様子をリアルタイムで撮影して、ネットの動画サイトで配信するんです。私はあまり見ませんけど、家に居ながらお手軽にダンジョンのリアルなスリルを味わえるので結構人気なんだとか。……ほら、これなんか配信のアーカイブが10万再生されてますよ」

「すげえ! それって10万人が見たってことか!?」

「……まあ大体そうです」


 ……何だか最後の桃の言葉に間があったな。『説明するのが面倒だなー』みたいな、そんな間だ。10万再生って、10万人が見たってことじゃないのか?

 まあいい。とりあえず、詠羽はそんな人気な『ダンジョン配信』の、そこそこ有名な配信者なのだそうだ。登録者28万人? がどれだけ凄いのか分からないが、まあとにかく凄いのだろう。


 そしてそのダンジョン配信に、桃と寿限ムの2人がこれから飛び入り参加をするという訳だ。……大丈夫か? ホントに。

 ちょっぴり不安になって桃にコツを聞いたところ、『吉田くんは普段通りやっていれば大丈夫だと思います』と言われた。本当か? 本当なんだな!?


「ARビジョン展開!」


 詠羽が撮影用のドローンを起動すると、周囲にAR拡張現実のホログラムが展開される。そして詠羽は設定を『コメント表示モード』に変更すると、頭上にコメントが流れ始めるのだった。


:突発配信?

:待機

:こんえば~☆ミ

:ikigai kitaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

:やったぜ

:こんえば~☆ミ

:こんえば~☆ミ

:来るか…?

:こんえば~☆ミ


「……何だコレ。同じ文字だけど、ステータス画面のアレとはまた違う感じだ」

「配信を見ている人のコメントですね。まだ配信前なので待機画面ですけど」

「なるほど……人多くないか?」

「もう1000人も来てますね」

「センニン……?」


 そしてそうこうしているうちに、詠羽が指をパチンと鳴らして言う。



「ふはははは! 今宵の宴の始まりだ! 入団を賭けて、せいぜい頑張って盛り上げるがいい! ──『配信スタート』ッ!」

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