第21話 「詠羽からの挑戦状③」

 ◇


 ──そして詠羽が加わり、これでリビングのソファには寿限ム、桃、戻子、令、刻花と合わせて総勢6人が座ることになった。


「……田中川 詠羽えば、年齢は1億歳(自称)。趣味は破壊で、好きな食べ物はストロベリーだ。このギルドのNo2ナンバーツーで、ギルドマスターである刻花の次に偉い。しかし貴様、いい度胸をしているな……特にそのッ! けしからん、我とキャラが被っているぞ!」

「いや、これは勝手にモドコに染められただけなんだが……」


 ローテンションでの自己紹介から、ぷんすかぷんすかと流れるようにキャラ被りを抗議してくる詠羽。まるで小さな子供のように感情豊かだ。

 にしても……いや流石にコレに関しては俺悪くないよな? 元はと言えば、『似合うから』と言う理由で面白半分に俺の髪を染めた戻子が悪いし。

 そんなわけで戻子に視線を向けると、『いえーい、おそろおそろー☆』と呑気にピースをしてくる。……うーむ、悪気がないのが逆にタチが悪いヤツだな、コレ。


 そしてそんな寿限ムを慰めるようかに、うな丼が膝の上に乗ってくる。やっぱりうな丼なんだよな~。撫でてやると嬉しそうに喉を鳴らした。可愛い。

 すると詠羽が驚愕した様子でこっちを見てくる。


「な、何だと……!? あの『うな』が懐いているではないか……!?」

「うな? ……ああ、『うな丼』のことか。懐いてるっていうか、俺たちは親友だからな! なー、うな丼?」

「みゃあ~♪」

「くっ……! ズルいぞ! 我にだってそんな顔見せたことないのに!」


 子供のように悔しがる詠羽。どうやらうな丼は詠羽にそれほど懐いていないらしい。はっはっは、煽ってやるか。


「……ふふふ、残念だったな。俺たち仲良しだもんなー、うな丼?」

「ぐぬぬぬぬ……それに『やたら団長と仲がいい感じ』なのも怪しい……まさか貴様、我が副団長の座を狙っているのではないかっ!?」

「残念だけど、それは買いかぶり過ぎだわ……ジュゲムには副団長なんて無理よ」


 『やれやれだわ……』と言った様子の刻花が、向かいの席でキッパリ断言する。いやおい。……確かに無理だけどさ。


「なんかサラっとダメ出しされたな!? ……フツーに傷つくんだが……」

「何だか吉田くん、あの副団長って人に嫌われちゃったみたいですね」


 そう言って、桃がひっそりと耳打ちしてくる。

 ……うーむ、確かに刻花に次ぐNo2ナンバーツーに嫌われるのは良くないかもしれないな。だからと言って、どうすることもできないんだが。

 それに嫌われているというか、勝手にライバル視されているみたいな感じだし。うーむ、どうしたものか。


「とにかく……『副だんちょ』として、ギルドに入れるのに反対だ!」

「いいや絶対に入らせてもらう。なぜなら──他にコネがないからだ! こうなった俺はなりふり構わないぜ……」

「フン、だが『実力が定かではない者』を入れるほど我がギルドは安くないぞ!」


 そう言って詠羽は腕組をする。……あれ? これってもしかして、詠羽に認められないとギルドに入れない流れ?

 しかし詠羽はああ言っているが、このチャンスを逃すわけにはいかない。なにせ今は『大ギルド時代』……! このチャンスを逃したら、待っているのは『ブラックギルド生活』。もう物置小屋生活はこりごりだ。

 ──それに、こっちには心強い推薦人もいる。


「異議あり。我々は『彼の実力を示す物的証拠』を持っています」

「ほう、ならば見せてみるがいい。どうせ大したことないがな!」


 突如始まる裁判的なやり取り。弁護人役の令がノートPCを取り出すと、一つの動画を流すのだった。リビングの全員がPCの画面に注目する。


「おお! 俺が映ってる! すげえ! ……撮ってたんだな、コレ」


 ……それはオーガ戦の録画だった。森の中、巨大なオーガに立ち向かう寿限ムの姿が上空から克明に記録されている。

 改めて自分で見ても、手に汗握る名勝負だと思う。まあ実際、『手に汗握る』なんてレベルじゃなかったんだけど。……何回も死にかけたし。

 そして刻花もビックリした顔で動画を見つめている。

 

「嘘。あれ、オーガよね? ……まさか一人で戦ったの!?」

「ああ、どうしても『リベンジ』したくてな」

「無茶しすぎよ……良かった、生きて帰ってきて……」

「ちなみにネタバレだけど、勝って大花火を上げてきたぞ」

「……バカ」


 刻花によると、1対1のモンスターとの戦闘においては、同Lv帯ならば特別な相性がなければプレイヤーが有利。それからLv差が大きくなるごとにプレイヤーの勝率が下がっていき、Lvが10も離れると基礎的な勝率は10%以下に落ちるのだそうだ。

 ちなみにボスモンスターはそれだけでLvを+10相当のバフが掛かっている。

 つまりLv38の時点でLv53のオーガに単身で挑むのは……言うまでもない。ダイナミック自殺行為と言えるだろう。

 詠羽の方も同様にドン引きした様子で、


「くっ……ソロでオーガの討伐だと……!? バカなっ、しかも殴り合いをしている……!? いや普通にバカだろ。普通死ぬぞ。むしろよく生きて帰ってこれたな」

「フ、おかげさまでな……!」

「いやそこは褒めてないぞ」


 詠羽が冷静にツッコミを入れる。そして動画が終わり、パタンとPCが閉じられるのだった。


「ふふーん☆ これでジュゲムんの実力も分かったことだし。……入団ってことでいいよね?」


 戻子の言う通り、実力はこの動画で証明できたハズだ。流石の詠羽もこれには文句のつけようがない様子で、目を閉じたまま何やら渋い顔をしている。

 ……フ、勝ったか!? 

 しかし次に目を開けた詠羽は、ニヤリと笑みを浮かべて言うのだった。


「くっ……確かに実力はそれなりにあるようだな。だが! 貴様、オタクではないそうだな! 知識がない、顔だけの人間がよく知らずに入ってくるなどと……そんな"オタサーの姫"は『サークラ』になるに決まっているッ!」

「何っ!? サークラ、だと……!? ……サークラって何だ?」


 キョトンとする寿限ムに対し、桃が補足する。


「『サークルクラッシャー』のことです。顔が良いだけの姫がオタサーに入って人間関係をクラッシュするのが東京だと有りがちなんだとか。……でも、あの副団長の言うこと、一理あるかもしれません……! ここ数日、漫画のキャラより吉田くんのセクシーな妄想をする方が多いかも。いや、多いです!」

「フ、そういうことだ……」

「いやどう言うことだよ」

「でも……オタクかどうかなんて、どう判定するんでしょうか?」


 桃がボソリと呟く。確かに、もっともな疑問である。

 ……つまりアレだ。ここは自分がオタクであるか証明できればいい訳だ。


「エバは俺のことオタクじゃないって言うけどな。最近はモドコやツカサから教えてもらった漫画を読んでるんだぜ。あとゲームも結構やるな。……どうだ? 元はオタクでなかったにしろ、今は間違いなくオタクだろ!」


 ──ババン! これぞ起死回生の反論! 

 ……と思いきや。


「オタク判定かー……プラモとかを買う時に、転売ヤー対策で質問とかされるヤツあるよねー☆ あんな感じかなー?」

「あー、確かにあるわね、そういうの」


 戻子の言葉に、うんうん、と刻花が頷いている。


「まさかのスルー!? メチャクチャ良い反論だったのに……」

「うーん、どうやら姫脱出までには足りなかったみたいですね」

「足りなかったかー……」

 

 ……割と自信あったんだけどな。しくしく。

 それから面々は『オタクの定義について』だとか、『そもそも最近のオタクって多様化してるくね』だとか、さまざまな議論を始めるのだった。とはいえこの難しい議題に、結論を出すのは難航を極め──議論は平行線を辿り続ける。

 そんな中、令が声を上げるのだった。


「……そもそも、完全にオタクである必要はあるかな?」


 全員がハッとした顔で令を見つめる。


「ジュゲムくんはまだ子供。さっき本人が言ったように、意欲もある。それなら今から私たち好みに染めてやればいい……」

「おおー、いいねー☆ 名付けて『ジュゲムんオタク化計画』! 面白そう!」


 令の提案に戻子も賛成する。もちろん寿限ムも異論はない。……いや、俺が子供だって部分は聞き捨てならないけどな!

 そして刻花も詠羽に向かって諭すように言う。


「ほら、みんなああ言ってるし、詠羽も認めてあげてもいいんじゃないかしら?」


 ……趨勢は決した。これ以上はもう覆らないだろう。寿限ムが勝利(勝訴?)を確信したその時。詠羽の口から『予想だにしない言葉』が出てきたのだった──。



「ひぐっ……ううっ、絶対イヤ! だって怖いじゃろー!? 知らない男の子なんて……。我は屈しないぞ! こうなったら最後の手段だ! これより、! ──我がフィールド、『ダンジョン配信』でな!」



 ……『ダンジョン配信』? え?

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