第20話 「詠羽からの挑戦状②」
◇
結局、屋敷の中を探し回ってもうな丼を見つけることはできず──そうこうしているうちに、そろそろ刻花の用事も終わっているだろう頃合いになってしまった。
ま、うな丼もそのうちひょっこり顔を出すだろ。……たぶん。
そして寿限ムがリビングに戻った頃には、既に刻花はソファに座っていた。何やらスマホをいじっていたが、2人の姿を見つけると声を掛けてくる。
「……やっと戻って来たわね。どこへ行ってたの?」
「色々屋敷の中を回ってた。うな丼は?」
「うな丼ならここにいるわ」
そして寿限ムが刻花の隣に目を向けると、そこには『にゃんこ』の姿が!
なんだ、入れ違いになってたのか! そしてソファの上を飛び降りて来たうな丼を抱きかかえると、寿限ムはわしゃわしゃと可愛がる。
ふかふかの毛並み、くりっくりで可愛いお目目。……間違いない、うな丼だ!
「うな丼!」
「みゃあ~!」
「お前は相変わらず可愛いなあ! 元気だったかー? 心配してたんだぞー?」
「ハァハァ……吉田くんの口から『可愛い』、だと……!? すみません、私今から猫になってもいいですか?」
うな丼を抱きかかえる寿限ムを見て、隣に立っていた桃がハァハァと息を荒げる。それを見た刻花は呆れたように言うのだった。
「……もしかしてこの子って、いつもこの調子なの?」
「そだよー。桃ちーって面白いよねー☆」
「うん、いつも通りの桃だね」
「……ま、まあうちのギルドが変人ばかりなのは、今に始まった事じゃないわ……。どうしよう、少し頭が痛くなってきた……」
続いてやって来た令と戻子の言葉に、刻花は静かに頭を抱えるのだった……。
◇
「このギルドに入団する予定の貴方たちには、改めてギルドのメンバーを紹介するわね。……と言っても、うちのギルドは少人数だから、既に大半が顔なじみだと思うけど……」
そう言って刻花が音頭を取ると、リビングルームにてギルメン紹介もとい『自己紹介合戦』の時間が始まるのだった。
その『自己紹介合戦』、先頭バッターは戻子から始まった。
「ひゃっほー☆ 『冴木 戻子』だよー☆ 好きな食べ物は『プリン』と『お寿司』! 趣味は……えーっと、『模型』、とか? あとはゲームとか漫画を読むのも好きかなー? 改めて、対よろ~☆」
そう言って、寿限ムと桃にピースサインを向ける。
そして次にバトンを受け取ったのは令だ。
「……自己紹介とか、あまり得意じゃないんだけどな……。僕の名前は『山田
「大丈夫大丈夫☆ 続けて!」
「分かった。……趣味は『FPS』で、普段は絵を描いてネットに上げてる。多分知らないと思うけど、『Iris』ってアカウントにアップしてるから。良かったら見てみて」
そう言っておずおずと自己紹介する令に、桃が食い気味で食いつく。
「『Iris』って……まさかあの『Iris』ですかっ!? 私フォローしてます!」
「そうなんだ。それは良かった」
「すみません、一つ質問いいですか? その……山田先輩って、プロで活動しないんですか?」
「しないよ。Webでだけ」
「それじゃあ、『黒少年』も書籍化しない……? そしてゆくゆくはアニメ化、みたいな展開もないんですか……?」
「うん。一応お誘いも色々あったけど、そう言うの興味ないから。人付き合いとか、苦手だし……」
「そうなんですね……」
そう言って、意外なほどあっさりと桃が引き下がる。
珍しいな。普段の桃は、もっとしつこく粘るタイプなのだが……どうやら桃は『Iris』という作家を相当リスペクトしているようだ。そして桃の反応からするに、令はネットでかなりの有名人らしい。
「はえー、知らんけど。ツカサってすごい人だったんだなー」
「凄いなんてレベルじゃないですよ! ……フォロワー数は100万人越え! それでいて一切の露出を行わず、淡々と作品だけを投稿するミステリアスさ! 一時はプロが変名で活動しているんじゃないかと噂されていたんですが……まさか山田先輩があの『Iris』だったなんて……」
「よく分からんけどにゃるほどなー」
早口でまくし立てる桃に、寿限ムはとりあえず相槌を打つ。正直早口過ぎてよく分からなかったが、少なくとも桃が興奮していることだけは分かった。
続いて、刻花の自己紹介のターンに入ったのだが……
「それで、私の自己紹介だけど……いるかしら? 車の中で散々させれられたような気がするんだけど……」
「要ります。車で聞かせてもらえなかったことだって一杯ありますよ。ほら、例えば……『吉田くんの好きな所』とか!」
…………。
「『優しい所』……?」
しばらく黙り込んだ後、刻花がボソリと呟く。
……ポッと顔が赤いぞ刻花、どうしたんだ?
そしてそれを聞いた桃は、寿限ムの服を引っ張ってくる。
「優しくされてる~っ!? 吉田くんっ! どうして私には塩対応なんですかっ」
「いや、別に優しい時は優しいだろ。たぶん。……まあそういう時は大体、桃は気絶してるか、気が動転してるかなんだけど」
「そ、そうなんですか……それじゃあ通常時にも優しくしてくださいね」
「ちゃんとリアクションを返してるだけで十分優しいと思うけどな」
……という訳で、戻子、令、刻花の3人の自己紹介が終わったのだが。
「おかしい。このリビングには、あと俺と桃しかいなくないか……? ギルドメンバーってまさか、この5人だけ……?」
「安心しなさい、あと2人いるわ。……さっきからずっと呼んでるんだけど、なかなか来ないわね。屋敷にはいるはずなんだけど……」
刻花がそう言いかけたところで、リビング奥の扉がバタンと開く。そしてそこから、"一人の少女"が入って来たのだった。
「ふはははは! 我こそが"闇より出でて闇を払う"……『真なる闇の帝王』にして、このギルドの『副だんちょ』、田中川
そこにいたのは左目には眼帯を付け、真っ黒なマントを羽織り、男装をした凛々しい銀髪少女。既視感と言うかなんというか、数分前に会ったばかりの『ウサ耳パーカーの少女』が、男装をしてそこに立っていた。
……なるほど、着替えてたから遅れたという訳だな。
「……あ、さっきの人だ」「ですね」
どうやら桃とも意見が一致したようで、息ピッタリに寿限ムと桃がそう呟く。
しかしその瞬間、その
「……いや、人違いだが? たとえ万が一、いや億が一、同一人物だとしても……こっちが"トゥルーフォーム"だっ!」
と言い張るのだった。……いや、流石に無理があるだろ。
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