第23話 「ギルド入団試験は『ダンジョン配信』で!(トーク編)」

「ふはははは! 我こそが"闇より出でて闇を払う"『真なる闇の帝王』エヴァだ! 高貴なる我の配信をリアタイできる幸福に酔いしれるがいい……。元気にしていたか『闇の子』たちよ!」

「……『タケノコ』? これから山菜採りにでも行くのか?」

「『タケノコ』じゃなくて『ヤミノコ』だと思います。……どうやら詠羽さんはリスナーのことをそう呼んでいるみたいですね」


:🎍🎍🎍

:🎍🎍🎍🎍🎍

:竹わらわらで草 いや竹

:その2人誰?

:コラボ珍しいな

:配信者なのか? 見たことない人だけど


 恒例の名乗り口上から始まった詠羽のダンジョン配信は同時接続数が早くも3000人を突破し、コメント欄も賑わいを見せていた。

 その大半は寿限ムと桃の2人に関するもので、普段はソロで活動している詠羽が珍しく誰かを連れてきたと興味を持っている様子だった。

 そんなコメの様子を察知したのか、詠羽がリスナーに対して説明を始める。


「コイツらは魔界から連れてきた家来志望の2人だ。貴様ら『闇の子』たちには、今回の配信で『こっちの男』が我が軍門に下るに相応しいか判定してもらう! ……ちなみに我の方はコイツに興味ないので、ジャンジャン落としていいぞ」

「ひでえ! しょっぱなから落とす気満々じゃねーか!」

「やっぱり私は合格確定みたいですね」


 そんなやり取りを続ける間にも、頭上には沢山のコメントが流れていく。

 しかしこの配信を見ている3000人に自分のことを認めさせなければいけないらしいのだが……このコメントとやら、何言ってるか全然分からねえ!? この『草』ってどういう意味だ? 確か前に戻子が使ってた気がするんだが……やべえ、今自分が好評なのか不評なのか全く分からん。


「まずは自己紹介だ。名前と簡単なアピールポイントを述べるが良い!」


 そう言って詠羽がこっちにドローンのカメラを向けてくる。……仕方ねー、今回ばかりは腹を括って分からない物は分からないと割り切るしかない。

 そして寿限ムは、『自分が出来る最大限のキリっとした顔』で自己紹介を始める。


「分かった、自己紹介だな。俺の名前は吉田寿限ム。アピールポイントか……しいて挙げるなら、この天才的な頭脳だな!」


 ドヤァ。詠羽の世界観を合わせて付けた(付けさせられた)モノクルをキラリと輝かせ、寿限ムがキッパリと言い切るのだった。

 即座に桃がツッコミを入れる。


「いやそれは無理がありますって! もうアホはバレてますよ!? 頭脳が売りの人間がダンジョンに山菜採りには行かないですから!」

「いや生えてるってタケノコぐらい! ……生えてるよな?」


:🎍🎍🎍🎍🎍

:ダンジョンにタケノコ生やすな

:漫才かな?


 好評……なのか? 全く分からん。いや、こっちは大真面目に受け答えをするだけだからな。そして続いて桃が自己紹介を始める。


「それでは私の方も自己紹介をさせていただきますね。私の名前は桃、高校では風紀委員を務めていました。アピールポイントは……もちろんその『清楚さ』! そして何事にも動じない冷静沈着さ、でしょうか」

「……そっちも割と無理がなくないか? いっつも大声で叫んでるし、たぶんこのダンジョンでも10回は絶叫するだろ」

「叫びません。私の弱点は『高所恐怖症』だけですから。高い所に行きさえしなければ、絶対に叫んだりなんかしません」


:フラグで草

:2人ともおもろいな

:もう合格でいいだろwwwww


 そんな2人のマイペースなやり取りに、配信のコメント欄が大いに湧きあがる。


「良かったですね、掴みはバッチシです!」


 そう言って桃がグッと親指を立ててくる。……良かった、好評らしい。

 そんなこんなで自己紹介も無事終わり、詠羽が2人に向かって言うのだった。


「……さて。自己紹介も終わった事だし、早速ダンジョンに潜っていくぞ! ついて来い『闇の子』ども!」


 ◇


 そしてそれから詠羽たち一行は、ダンジョン内を移動していた。


 移動中も配信は継続しており、ドローンが追従して自動で飛んでくる。ダンジョン内での出来事は、モンスターと戦ったり罠と悪戦苦闘したり、そんな見栄えする内容ばかりではない。むしろただ移動するだけだとか、単調な内容が大半だ。そんな中どう場を繋ぐかが、一流の配信者とそれ以外を分けるといっても過言ではない。


 だが……詠羽は、隣を歩く寿限ムと桃に視線を向ける。

 詰まらないマネをしたらボロクソに言ってやろうと思っていたが……参ったな、コイツら、悔しいが面白いぞ!?

 会話もいい感じにくだらないアホさ加減だし、道中のリアクションもテンション高めでいい感じだ。詰まらんヤツは何をやっても詰まらんからな……

 

 もしかしてコイツら、メチャクチャ面白いヤツなのか?

 い、いや、まだボロが出ていないだけかもしれん……! 試してみるか。


「やはり移動は間延びするな。よし、コメントを拾うぞ。『2人に質問。めちゃくちゃ面白いけど配信経験とかないの?』だそうだ。寿限ム、貴様から話してみろ」

 

 詠羽は適当なコメを拾うと、寿限ムに向かって話題を投げる。

 コメントから話題を広げるのも一流の配信者の必須スキルの一つだ。

 寿限ムは詠羽の言葉に少し考えると、こう答える。


「配信は初めてだな。でも一回だけカメラの前で何かやらされたことはあるな」

「ほう、どんなことを?」

 

 そして寿限ムは、話し始めるのだった。


 ◇


 それは世の中にダンジョンが生まれる1年前の出来事だった。

 当時寿限ムが生活していた頃の及川邸には、さまざまな黒服たちが出入りをしていた。彼らは基本寿限ムをスルーするのが普通だったが、稀に寿限ムをこき使おうとする人間もいた。


 そしてある日、寿限ムが黒服に「食いもんが食える仕事があるんだがついて来るよな?(強制)」と連れていかれた一室。そこには同じく部屋に連れてこられた見知らぬオッサンがいた。


「食べきれば……全部食べ切れば借金をチャラにしてもらえるんですね!」

「ああ、そこの助っ人と2人で全部食べ切れたら考えてやろう。……ま、後のことは知らんがな」

「ありがとうございます!」


 どうやらそのオッサンは債務者らしい。金を返せる当てがなく、黒服に詰められた末にこの部屋にやって来たのだそうだ。

 にしてもそこは殺風景な部屋だった。畳敷きの床に大き目のちゃぶ台が一つ置いてあるだけ。そして向こうの部屋にはキッチンがあった。

 『食いもんが食える仕事』……? 一体何なんだろうか。そうこうしているうちに、部屋で何やらセッティングが始まる。つーか、ちゃぶ台の前にカメラが設置されたぞ? 何だコレ?


 気になって黒服の一人に訊ねた所、こう返って来た。


「あん? 『機械音声○○ボイスの実況動画』、知らねえのか? こうやって過激に唐辛子やらニンニクやらをぶち込みまくった料理を平気で食べるキャラが今人気なんだよ。過激にすればするほど視聴者の食いつきも凄えんだ。ま、特に俺たちの動画は実際には食ってねえ分、よその動画よりずっと過激にできるんだけどな。おかげさまで、ちょっとした小金も稼げて親分も大喜びよ」


 なるほど、いわゆるシノギってやつだな。ここまで嬉しそうに語っていた黒服だったが、やがて途端に顔が険しくなる。黒服は続けて言う。


「だが……先日アンチの視聴者がイチャモンを付けてきやがった。……『食べる様子は画面外でカットしてるから実際は食べてないだろ』ってな」


 ……あー、なんとなく分かって来たぞ。どうして俺たち2人がこの部屋に連れてこられたのか。

 そしてしばらくして、部屋に料理が運ばれてくる。ちゃぶ台の上にズラリと並ぶカップ麺の数々。しかしそれらは、何故かパッケージに似つかない程だったりだったりしていた。

 何だこの食いもん……いや、これは食いもんなのか? 匂いからしてメチャクチャキツいぞ!?


「よし、準備できたぞ。全部食いな。……安心しろ、泣き叫んでも構わないぜ。機械音声では『美味しい美味しい』って食ってるように編集するからな!」


 それだけを言い残して、その黒服は部屋を後にする。


 それから覚悟を決めて過激料理を食べ始めた2人だったが、オッサンは早々に腹を抱えて倒れだして部屋の外に連れて行かれ。結局寿限ム一人で完食。

 その後身バレ対策のモザイク編集を施された動画は無事投稿され、ウン十万再生される。疑惑も払しょくされ、その動画シリーズも継続したのだった……。


 ◇


「見た目と匂いはキツかったけど、今思えば結構美味かったな! まあ食ってばっかで配信とは言えないだろうけど……うん? どうした?」


 振り返ってみると、隣で詠羽と桃がドン引きしている。そして頭上ではコメントがものすごい勢いで流れていた。


:闇過ぎて🎍

:ヒエッ

:オッサン大丈夫か

:その後、オッサンの姿を見た者はいない……

:頼むこの闇を払ってくれ

:コイツ胃袋強すぎだろ

:魔界育ちヤベエ

:ゲテモノ食い配信待ってる


 …………。

 これ……好評ってことでいいんだよな?

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