第18話 「そして、運命の再会。(今度こそ刻花ver)」

 ◇


 ──【西暦2025年9月4日・東京】


 名古屋を出発して、これで3日目。

 寿限ムたちを乗せたソーラーカーは、都内の高速道路を走っていた。


「……なるほどなー、これが東京か」


 都内に入ってからというもの、ハッキリと分かるぐらい窓の外の景色が違う。

 街並みの中の建物には修復された痕跡が見えるし、車道にも自分たち以外の車が幾つも行き交っていた。

 背景には空に伸びるデカいビル。そして名古屋で見たような、発電用のソーラーパネルもびっしりある。

 ……ハッキリと分かる、人の気配。


 これで2度目の東京。

 2年前のアレは正直、あっという間で……東京がどんなところか分からなかった。オーガとの戦いに敗れ、名古屋に送還。そして再び戻ってきた。


 ……車内の雰囲気は和やかだ。

 後部座席の寿限ムは、戻子セレクトのオススメの漫画を読んでいた。

 ちなみにタイトルは『呪殺大戦』『チェーンソードマン』……等々。東京にたどり着いたころには全巻読み終えていた。2冊とも現在連載中で、さらに先に続くらしい。先が気になる……。


 そして秋葉原に突入した頃には、目に見えて桃のテンションが上がっていた。


「秋葉は今も健在!! ホンモノだ!!! うひょおおおおお!!!!! 『アニメイト』は!? アニメイトに寄りますか!?」

「残念ながら真っすぐ協会本部に向かうよ。ボスが待ってるから」

「ボスってギルドの? ボスか……どんな人なんだ?」

「……怖い。さっきも怒られた」

「うん、激おこだったねー☆」

「そ、そうか、怖いのか……」


 寿限ムはついつい『厳ついオッサン』がガミガミ怒っているのイメージしてしまう。この2人がこれだけ怖がるというのだから、その怖さは相当だろう。

 もしかしたら頭から角が生えているかも……それに口から火を噴いているかもしれないな。おー怖っ。


 一方で桃はと言うと、遂にやって来た東京・秋葉原の街並みに、感動を通り越してとしてしまっていた。

 そして脳内で唐突にモノローグを始める。


 ──おばあちゃん、桃はついに東京までやって来ました。

 これも全部……隣に座る吉田くんのおかげです。桃は"出会い"を求めて東京に出てきましたが、もしかしたら桃の運命の人は彼なのかもしれませんっ……!


 ◇


 それからしばらくして、前方に周りの建物よりひと際大きいビルが見えてくる。どうやらあれが『探索者協会の本部ビル』らしい。

 令はビルの前に車を寄せると、ちょうど入り口前に停まった。

 確かここでボスが待っているらしいが……そして寿限ムは車から降りると(バタン!)、辺りを見回す。

 まず最初に目に着いたのはデカい看板だった。『スメラギインテリジェンス』と書かれた看板には、緑色の髪をした少女が大写しにされている。


 ──そして寿限ムがビルの入り口のガラス扉に目を向けた、その時。

 

 ……


 ビルの中に立って外を眺めている、"一人の少女"。彼女もこっちに気づいた様子で、自動ドアが開くや否や、寿限ムの元へ駆け寄って来た。


「やっと帰って来たわね……遅いわよ……」

「キリカ……?」


 ──むぎゅっ。勢いよく抱き着かれる。それは紛れもなく、刻花だった。


 唐突に訪れる、2年ぶりの再会。

 胸の中の刻花の身体は成長を感じさせる。刻花との日々は寿限ムにとって、昨日の出来事のように感じていた。……しかし、寿限ムが宝箱の中で時間が止まっている間にも、2年もの月日が経っているのだ。成長しないはずがない。


 背も伸びて、それ以外の部分もずっと大人っぽくなっている。

 ……でも、黒のゴシックドレスを着ているのは変わっていないんだな。

 何だか意識すると、途端に時の流れを感じるな……そして刻花と眼が合った。刻花は殆ど涙目になっている。


「ううっ……再会したら何を言おうって、色々考えてたのに……言いたいことがあり過ぎて、何から言えばいいのか分からないわ……」

「……キリカ、背が伸びたな」

「……最初に言うのがそれ?」

「スマン。帰ってくるのが遅れた。あのオーガをぶっ飛ばして、さっさと帰ってくるつもりだったんだけどな。……俺、思ったより弱かったみたいだ」

「無茶し過ぎよ。勝てる訳ないじゃない……ずっと寂しかったんだから……」


 そう言って刻花は、一回り背の高い寿限ムの胸の中で涙をこぼす。


 ──ざわざわ………


 一方で刻花と寿限ムという"飛び切りの美男美女2人"がビルの前で抱き合い、「ドラマか何か?」と通行人がざわつき始めるのだった。


「あれ? ボスは?」

「……あそこ」

「ええっ、ジュゲムん!? どうしてボスと!?」

「うわーお。泣いてる……あんなボス、初めて見た……」


 追いついて来た令と戻子が、まさかの公衆の面前で抱き合う寿限ムと刻花を見て、驚きの表情を浮かべるのだった。

 普段のギルドをまとめる『デキるリーダー的存在』という雰囲気とはまた違った、年相応の少女としての一面。そんな刻花の一面に、令と戻子は意外そうな、それでいて何やらホッとしたようなそんな反応を浮かべていた。


 ──一方で桃はと言えば。


「ね、ね、ね……」


 余りにショックだったのだろう。愕然とした表情で、口をパクパクさせたまま、言葉にならない言葉をこぼす。そして叫ぶのだった。


「『寝・取・ら・れ』だーッ!!!!!!」


 バタン。それだけを言い残して、桃は口から泡を吹いてひっくり返るのだった。

 それを見て、戻子が一言。


「……おー、桃ちーが脳を破壊されている……」

「多分寝取られじゃないと思う。……むしろ桃が『間女』?」

「ぐはっ……! どうしてっ! 苦しいのにっ、苦しいのにキモチいいっ……!」


 令と戻子の容赦ない追撃に、桃は地面でビクンビクンと体を震わせる。

 そんな桃の顔は、"苦悶"と"恍惚"の表情を浮かべていた。


 ──かくして寿限ムと刻花は感動の再会を果たし、その脇で桃がのたうち回る。

 なんともカオスな空間が、『本部ビル』の前で展開されたのであった……。

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