第17話 「東の『にっぽん探索者協会』、西の……」


 ◇


 ──『にっぽん探索者協会』とは。


 東京都・秋葉原に本部を構える、日本国内の探索者組織である。

 東日本を中心として活動しており、従業員数は日本全国で約10000人。

 民営組織としては日本の探索者業界において最大級の規模を誇り、日本各地に支部および下部組織を有している。


 この組織の理念はただ一つ。


『この国の全ての挑戦者パイオニアへ。~"尊敬"と"支援リスペクト&サポート"~』


 設立当初から協会会長によって掲げられたこの理念は今もなお継続しており、全ての支社と本社のロビーに、会長の達筆な文字でこの文言が掲げられていた。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 


 そして具体的な業務内容だが、大きく分けて"3つの事業"を展開している。


 一つ目は『探索者の各種サポート』。

 "クエスト"の斡旋あっせん、トレーニングの提供、探索者向けの融資、等々……あらゆる面において探索者のサポートを行い、日本における探索者の普及を推し進めている。


 二つ目は『日本各地のダンジョンの管理』。

 国からの委託を受け、現在判明している全てのダンジョンの位置情報および攻略情報の収集と管理を行っている。

 それらの情報は全ての探索者に向けて公開され、現場でのダンジョンの攻略に活用される。

 ダンジョンは資源でもあり火薬庫でもある。そのダンジョンを安全に運用し、安定して資源を収集するためのサービスである。


 三つ目は『Bクラス以上の危険アイテムの収集と封印』。

 ダンジョン内で取得されたアイテムは、探索者協定に定められた基準により危険度が判定され、発見者による届け出の後、協会による審査が行われる。

 危険度がBクラス以上だと判断された場合、発見者は協会に管理を委託する。

 そして協会が所有するダンジョンのうち、位置が秘匿され安全と判断されたものの中で、それらのアイテムは保管・管理されるのである……。


 探索者協定は『Bクラス以上の危険アイテムの管理義務』を定めている。しかし現実として、大手ギルドを除いてそれらのアイテム管理体制を整えている探索者はほぼ存在しない。

 そのため『にっぽん探索者協会』では探索者の活動を円滑に進めるため、探索者に代わって危険アイテムを管理代行するサービスを無償で提供しているのである。



 ……以上のことを踏まえると、協会に所属することは探索者として活動する上で必須と言っても過言ではない。事実、協会の主な影響域である東日本においては協会の加入率は90%を優に超えている。

 "西の別の探索者組織"と併せれば、日本全国で9割以上の探索者が何らかの組織に加入しているという統計も存在していた……



 ◇


 ──秋葉原の電気街に存在する、『にっぽん探索者協会』の東京本部。

 そのビルディングの壁面には、一大出資者であり、D-appでぃ~あっぷの運営でもあるIT企業『スメラギインテリジェンス・インターナショナル』の広告が設置されていた。


 スメラギインテリジェンス社とは、日本人である『スメラギ・カオル』が代表を務める新興IT企業である。

 元々は医療系のウェアラブルデバイスのアプリケーション開発等を行っていた企業であったが、ダンジョンの出現によりいち早く探索者業界に参入。

 当時乱立していた探索者組織の1つでしかなかった『にっぽん探索者協会』と協力関係を結び、探索者業界のIT活用市場の独占を果たした。


 また『にっぽん探索者協会』サイドもSII社との業務提携を受け、探索者業界における自らの立ち位置を拡大。

 2025年現在、日本で最大手の探索者組織となったのである。


 なお、見事金脈を引き当てたSII社の代表『スメラギ・カオル』は、18歳にして早くも日本の長者番付に名を連ねている……。


 ◇


 『にっぽん探索者協会』の本部ビルの上層では、各省庁から引き抜いた元キャリア官僚、SII社から派遣されたオペレーションスタッフ、将来性を見据えて各分野から集まった優秀な人材たちが日夜働いている。


 そして今日もまたビルの最上階の会議室では、協会上層部、大手ギルドの代表、ダンジョン省の役人等々……が雁首揃えて会議を行っていた。


 『にっぽん探索者協会』が東京に本部を置いている理由の一つ、それは未だ政治の中心である『東京霞ヶ関』と連携を取るため窓口としての役割であった……


 ◇


 ダークブラウンの分厚い扉が開け放たれ、最上階の大会議室から"一人の少女"が足早に出てくる。彼女は大急ぎでエレベーターに乗り込むと、スマホを取り出しいじり始めた。

 黒のゴシック風のドレスに、フリルのついたボンネット。冷たい雰囲気を持つ美少女である。15歳という幼げな風貌の一方、一種侮り難い雰囲気を纏っていた。


 彼女の名前は『及川 刻花キリカ』──少数精鋭を誇る大手ギルド『新世界旅団』のギルドマスターであった……

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