第7話 「出発、そして──『ゴブリンの大名行列』との遭遇」


 ◇


 ──そして翌朝。

 寿限ムたちの予定では、『避難地区コロニー』で一晩を過ごしてから東京へ向かうことになっていた。出発は朝だ。という訳で、メンバーは続々と起床し始める。


 最初に目覚めたのは令で、洗面台に直行。それから新しい着物に着替える。

 次に目覚めたのは戻子だ。大きく伸びをすると、しばらくボーっとしていた。

 そして3番目に目覚めたのは桃で、隣で寿限ムが寝ているのを確認すると、身だしなみを整える。そして再び彼の元へやって来て、言うのだった。


「あれ? お母さん、ジュゲムくん、まだ起きてないんですか? え、あの子は朝が弱いからって? ……はい、"幼馴染"の私がしっかり起こしてきますので!」


 ……何か小芝居を始めたぞ。

 ちなみに寿限ムは、今の桃の声で半覚醒済みだった。はぁ……ねむ……。

 そして桃は続けて、寿限ムの身体をゆさゆさと揺らしながら言うのだった。


「"幼馴染"の桃が起こしに来ましたよー。朝です、早く起きてくださーい。遅刻しちゃいますよー?」

「……はいはい、今起きるよ……」

「え? あともう10分? ……仕方ないですねー。それなら桃が膝枕をしてあげますから──」

「いや起きるって。『あと10分』なんて、そんなこと言ってないから。あと、『遅刻』って何だよ……」


 そして寿限ムは目を開けると、普通に目を覚ます。目の前には桃がいた。そして部屋の向こうでは、令と戻子が笑っている。


「何だったんだ今のは……」

「『幼馴染風の目覚まし』です。どうですか? スッキリ目が覚めました?」

「……まあな。ちなみに、最初の小芝居のところで目が覚めたよ」


 それから寿限ムは身支度を終えると、外へと出る。

 ……眩しい朝だ。出発には最高の天気だな。

 そして全員出発の準備は万端ということで、『避難地区コロニー』のバリケードの外に出ると、令がソーラーカーをアイテムボックスから取り出すのだった。


「うわぁ……すごいですね……黒くて大っきい……」


 なんて無駄口を叩いていた桃だったが、寿限ムは華麗にスルーし車へと乗り込む。そして一応、桃に忠告しておくのだった。


「シートベルトは締めといた方がいいぞ」

「はい、しっかり締めました。隊長!」

「それじゃ、新入りも乗り込んだところで──いざ、出っぱーつ☆」

「はいはい、『起動ブート』。それじゃ、出発するよ」


 令がハンドルにコントローラーの端子を差し込み、起動ボタンをプッシュ。すると車を制御するソフトウェアのOS、そして搭載されたモーターが起動するのだった。


 この車は最新鋭のPCと同等のスペックで、(今はハッカーが乗り合わせていないが)、ハッキングや電子戦も可能なシステムを搭載している。

 ダッシュボードに設置されたモニターに、改造主であるプログラマのロゴマークが表示される。そしてエンジンよりも静かなモーター音と共に、ソーラーカーは発進。

 

 ──そして4人を乗せたソーラーカーは、『避難地区コロニー』を出発するのだった……

 

 ◇


 ──そして、それから一時間後。

 寿限ムたちを乗せたソーラーカーは、放棄されて無人となった都市部を走っていた。『避難地区コロニー』を出てからしばらくの間、昨日とは打って変わった穏やかな運転が続いている。

 ドラゴンの生息域から離れた、ということも影響しているかもしれない。街の被害も限定的で、モンスターの数も控えめだ。とはいえ放棄されている以上、ある程度の危険区域であることには変わりはない訳で……


「あーこれ知ってる。……『嵐の前の静けさ』って言うんだろ?」

「不吉なことを言いますねー。……まあ実際、そうなんでしょうけど」


 後部座席に座る寿限ムと桃の2人が、窓の外を眺めながら言葉を交わす。


「そう言えば、桃がソロで進めない理由って何だっけ」

「この車みたいな"足"がない、というのが第一ですけど……それ以上に、この先モンスターが群れで出現する、というのが大きいですかね。私のジョブだと、ソロで正面から複数体の相手は出来ないので」

「へー。モンスターの群れかぁ……」


 と寿限ムが言いかけたところで、突然『キキーッ』とブレーキがかかる。

 ……何だ何だ? 助手席で爆睡していた戻子も、「え? なになに!?」と目を覚ます。そして寿限ムたちを乗せたソーラーカーは停止するのだった。


「アレは……『』だ……!」

「……は? 『だいみょーぎょーれつ』?」


 運転席で呟く令の言葉に、寿限ムは困惑する。

 ……『大名行列』って言ったらアレだよな? トノサマが部下のサムライたちを1列に並ばせて、幕府に向かって練り歩くアレ。で、トノサマは籠とかに乗ってんの。歴史の教科書で見たぞ。


 ──だとしたら、『ゴブリンの大名行列』って何だよ?

 

 寿限ムはシートベルトを外すと席から身を乗り出して、車のフロントガラスの先を見る。そして、ただ一言呟くのだった。


「……マジだ。『ゴブリンの大名行列』じゃん」


 寿限ムが目にしたものとは──一糸乱れぬ隊列を維持しつつ、道路の向こうにある十字路を横に通り過ぎる大量のゴブリンたちだった。そしてその列の後部に鎮座するのは、あの集団のボスであろう、神輿に担がれた『巨大なゴブリン』。


「……もしかして桃って、アレがいたから東京に行けなかったとか?」

「……いえ。あんなの、流石に見たことないです……」


 寿限ムの隣で桃がドン引いている。そりゃそうだよな。突然を見せられたら、そういうリアクションをするのが普通だ。

 一方で運転席の令は冷静に、『大名行列』を見つめながら言うのだった。



「アレを野放しにしたら、間違いなく近隣の『避難地区コロニー』に被害が出る。……見逃すわけにはいかない。だから──


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