第8話 「VS 300<スリーハンドレッド>なゴブリン達」
◇
「見たところかなりの数ですけど……まさか正面から行く訳ないですよね?」
「その『まさか』だよー☆ それじゃ、さっさと片づけちゃおっか」
「うん。どうせなら早い方が良い。ジュゲム君は縞田さんをお願い」
「りょーかい! ……つまりゴブリンをぶっ倒せばいいんだろ?」
寿限ムたち4人がソーラーカーから降りると、令がアイテムボックスに収納する。
そしてやる気満々な令と戻子の2人は、乗り気な寿限ムと気が進まない桃を後ろに残して、向かいで列をなすゴブリンの群れに向かって駆けるのだった。
令と戻子は走りながらアイテムボックスから装備を展開する。
──瞬着!
黒髪碧眼の和服姿の令が、一瞬にして『サイバースーツに身を包んだ2丁拳銃の
装備が軽装な分、令の方が早くゴブリンに接敵する。
強襲の狼煙を上げたのは、令の手に握られた2丁拳銃の、長いメタリックな
「あれがLv70クラスの実力か……」
寿限ムが呟く。まさに瞬殺だった。とはいえ倒したのはたったの2匹、まだ向こうには大量のゴブリンが残っている。そして今の銃声でこちらの存在に気づいたのだろう、ゴブリンの集団が一斉にこっちに向かってくるのだった。
──空中に文字列が浮かび上がる。
【エンカウンター:『ゴブリンLv30~35』×298、『ゴブリンリーダーLV45』▼】
「……いや多すぎだろ! 300!?」
「こっちに雪崩れ込んで来ますよ! 守ってくださいね? 吉田くん!」
向かってくるゴブリンに対し、寿限ムは『鬼人のグローブ』を装備して両手を構える。一方で桃も弓装備である『弓張月』を装備して迎え撃つのだった。
令と戻子がゴブリン相手に暴れ回っている横で、すり抜けたゴブリンたちが寿限ムたちの元へ雪崩れ込んでくる。
まず先駆けとして現れたのは1匹のゴブリンだった。
得物はいつもの『こん棒』……ではなく、光り輝く刀身の『日本刀』を携えている。光り物相手は冷や冷やするが、いくら装備が良くなっても所詮Lvは30。今の寿限ムのLvは41とLv差がある。恐れず突っ込む!
そして寿限ムは桃を後ろに残してゴブリンに向かって前進、振り下ろしてきた刃を
──寿限ムの両腕の真っ赤なグローブが、日本刀の刃を食い止める!
空中に現れたのは『1』の文字。『鬼人のグローブ』の耐刃補正に加えて、寿限ムの的確なガード行動によりダメージを最小限に抑えたのである……!
今度はこっちの番だ!
そして無理やり刃を押し込もうとするゴブリンを横に受け流すと、寿限ムはバランスを崩したゴブリンに向かって、一撃! 二撃! と打撃を撃ち込んでいく。
勢いよく横に吹き飛ばされたゴブリンは、経験値となって消滅! ひとまず1匹撃破……だが、まだまだこっちにゴブリンが向かってくる。今度は3匹!
次に動いたのは桃だ。
「援護しますっ……!」
弓に矢をつがえた桃が、迫り来るゴブリンに狙いを定める。
そして『ビュン! ビュン!』という音を鳴らすと、一番前方を走るゴブリンの頭部に2本の矢じりが突き刺さるのだった。
「……桃、ナイス『削り』!」
寿限ムが叫ぶ。これは強力な援護だ。これで、俺の"一撃圏内"に持ち込んだ! そして桃は尚も2匹目、3匹目に矢を射っていく。
一撃入れれば勝ちの勝負なら、守りを考える必要もない。なんせこっちの方が
──しかし、まだまだゴブリンは寿限ムたちの元へやって来るのだった……
◇
──令のジョブは"近接戦闘特化"のビルドの『
彼女の持つ2丁拳銃のメタリックな長い
──戻子のジョブは"攻撃特化"のビルドの『
その立ち回りは『単騎無双』を前提としており、他のタンクに徹する騎士とは一線を画している。装備の重量制限のない騎士の特性をいかんなく発揮し、多彩な武器で敵を粉砕するのだ。戻子が振るうモーニングスターは、たったの一撃で10体分のゴブリンを屠るダメージを生み出していた。
前方で大暴れする令と戻子の2人を目の当たりにして、桃は思うのだった。
──あれ、この人たちってチームプレーとかって無い!? なんというか、2人の『呂布』が勝手に戦ってる感じ……
そうこうしているうちに、寿限ムと桃の元にゴブリンが群れを成して襲ってくる。
桃のジョブは『
──せめて前衛タンクさえ居れば……!
現在桃が組んでいる寿限ムは、『
「『霜降り荒ぶ八荒』──っ、間に合わない……!」
桃が悲鳴を上げる。彼女の元には左右から現れたゴブリンが殺到していた。日本刀の刃がきらめく。『やっぱり死ぬんだー!』と、桃が思ったその時。
「──
寿限ムが桃の身体をガッシリと抱きかかえると、そう叫ぶのだった。
対オーガの為に身に着けた緊急避難である。生成されたゴム紐の一端は寿限ムの手の中に、もう一端は2人から離れた場所にある街灯の天辺に結びついている。
そして次の瞬間、縮んだゴム紐に引っ張られ、桃と寿限ムの2人は物凄い勢いで街灯に向かって飛んでいくのだった。
「わあああああああっ!!!! 何なんですかこれは~ッ!」
そんな桃の絶叫を聞きながら、寿限ムは何とか街灯の支柱を掴む。
そして片腕で桃の身体を支えながら、もう片方の腕で街灯の支柱を掴み、街灯にぶら下がることに成功するのだった。
桃……意外と重いな。まあとは言え『格闘家』の腕力補正もあり、一応問題なくぶら下がることはできている。これで当面ゴブリンから襲われる心配はないだろう。
──寿限ムは間一髪、桃をピンチから助けることに成功したのだった……
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