第6話 「~"真夏の女子会" With 寿限ムを添えて~」

 ◇


 ──飾り気のない白一色の壁に四方を囲まれた、簡易住宅の狭いワンルーム。


 『避難地区コロニー』を訪れた探索者には、決まってその部屋が貸し出される。

 太陽が昇っている間は近場のダンジョンを探索し、日が沈めばその部屋に戻って休息を取る。最短で1日、長くとも1週間。目的を終えると、探索者はその『避難地区コロニー』を後にする。


 その性質上、その部屋の中には家具は置かれていない。最低限寝床として利用できればそれで十分だからだ。

 床にはカーペットタイルが敷き詰められ、黒とグレーが交互に現れる、まるでチェス盤のような模様を形作っていた。


 夕食を終えた後、寿限ムたちがいたのはその簡易住宅のワンルームだった。

 寿限ムたちがこの簡易住宅に戻ってきた所に、桃が付いてきた形である。なんでも、これから東京へ向かう前に、是非とも親睦を深めたいとか。

 そして4人は各々その狭い部屋の床に腰を下ろし、姿勢を崩して向かい合う。

 ……にしても狭いなこの部屋。4人入っただけで、もうギュウギュウだぞ? いや、流石にそれは言いすぎか。うーむ。しかしとにかく部屋が狭いな……。


 そしてそんな狭い部屋の中で、特にハッスルしていたのは桃だった。

 「こっちがトランプで……」「UNOもあります!」と、まるで修学旅行中の学生のようにはしゃいでいる。


「UNO! これで私の勝ちですねっ!」

「……ダウト」

「いや、それ違うゲームですからっ! それにUNO宣言が『ダウト』ってどういうことですかっ。どう見ても手札1枚ですよねっ!?」


 ……令の苦し紛れの『ダウト宣言』に、桃が勢いよくツッコミを入れる。

 狭っくるしい密室の中で、4人の少年少女がひしめき合い、パーティゲームを繰り広げる。部屋の中は甘いにおいがした。

 何度めかのゲームが終わった後、桃は感激した様子で言う。


「正直に言いますとですね……このコロニー、オッサンとオバサンしかいなくて。例えるならば、『中年たちの健康ランド』! みたいな? 水回りがしっかりしてるのは良いんですけど、本当に退屈で退屈で仕方がなくて……同世代の人と一緒に遊ぶのが楽しみだったんですっ」


 うるうると桃が目を潤ませる。いやそこまで……泣くほどまでか!?

 桃の突然のカミングアウトもほどほどに、4人は再びゲームを再開。それから少しして、桃が言い出すのだった。

 

「はぁ……それにしても暑いですね……」

「じゃあクーラーつけよ。ピッ」

「いやそこは制服の胸元を緩めて、『エッチな誘惑』をするところでしょうがっっ! 吉田くんがっ!」

「……俺が!?」

 

 ……そんなこんなで、寿限ムたち4人は楽しく時間を過ごす。

 その後も、


「ねえねえ先輩さんたち、とかしませんか? 好きなタイプとかどうです!? 私はですね……顔がいいのは前提条件としてですね、やっぱり『近距離パワー型』かなぁ……」


 などと桃が言い出したり。いや、どういう条件だよ。『近距離パワー型』って。

 しかし恋バナか……『好きなタイプ』って言ったよな? 改めて考えると、難しい質問だ。俺、恋愛なんて、これっぽっちもしてこなかったからな……学校とかにも行ってないし。

 そして当然の如く、それから順に好きなタイプを言う流れになる。まずは令だ。

 とはいえ令はそっけなく、


「……僕は恋愛とか興味ない」

「うーん。私はツカたんとも一緒に仲良く出来る人がいいかなー? でも、本人がこうだから……」

「うおっー!……冴木先輩っ……発想がまるで『子持ちバツイチ』みたいです……エッチ……!」

「……お前、酔ってるのか? 桃……」


 桃のテンションがヤバいことになっているが、ちなみに酒などは飲んでいない。飲んでいるのもオレンジジュースだけだ。つまり、完全な素面の状態。いや、ヤバいだろ。しかし桃はそもそも未成年のはずなので、お酒が飲めるわけがないのだが……

 

「それじゃあ、吉田くんはどうなんですか?」

「俺? 俺は……頭が良い人が良いかな。俺より頭が良いとなおよし!」

「へー。じゃあ恋愛対象は、大体『人類全体』だね」

「そんなに言う!? ……まあ、勉強さえすれば、誰でも俺より頭良くなる可能性はあるしな!」


 意外と辛辣だった令に対し、寿限ムがセルフフォロー。うーむ、地味に酷い。

 そして桃はひそひそと声のトーンを落とすと、令と戻子の2人に訊ねるのだった。


「……で、ここだけの話。お二人は吉田くんのこと、どう思ってるんですか? 恋愛対象? それとも、トモダチですかっ?」


 って……桃のヤツ、いきなりぶっこんできやがった!

 楽しそうに、ニヤニヤと笑みを浮かべる桃。対して、戻子と令は即答だった。


「えー、ジュゲムん? 可愛いよねー☆」

「でもお子様だから……『お子様ランチ』とか頼むし」

「いや別に『お子様ランチ』ぐらい食ってもいいだろ!? 実際美味かったしな!」


 それからも4人は、ワイワイ、ガヤガヤとはしゃぎ続ける。正直、滅茶苦茶楽しかった。そして桃の制服姿を見て、寿限ムはふと思うのだった。

 5歳で及川邸に引き取られ、寿限ムは学校に通わせてもらえなかった。刻花のおかげで勉強だけは独学で身に着けることが出来たが、それでも『学校に通う』という経験そのものは出来ていないのだ。


 ──学校生活って、ひょっとしてこんな感じなのかもしれないな……。

 

 ◇


 そして、しばらくして──


「すう、すう……」


 簡易住宅の床に寝そべりながら、寿限ムたち4人は寝息を立てる。

 いつの間にか4人揃って、そのまま寝落ちしていたのだった……。

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